あの人のことば

全盲の夫婦は、こんな風に愛し合い家族をつくった。包み隠さず「幸せ」を語る理由

生い立ち、恋バナ、すれ違い、産後うつ…彼らはなぜ「語った」のか

2017年11月23日 12時30分 JST | 更新 2017年11月23日 14時01分 JST

「大好き、あなたが大好き」

静かな教会のチャペルに、ソプラノが響く。傍には、微笑んで聞き入る夫。

Kazuki Watanabe

ステージにいるのは、声楽家の大石亜矢子さんと、弁護士の大胡田誠さん夫妻。

ふたりとも、まったく目が見えない全盲だ。足下に寄り添うのは、盲導犬のイリーナ。

ふたりは2010年に結婚し、子どもが2人生まれた。どちらも目が見えない状態で子育てをするのは、それはそれは大変なはず、と思いきや......。

2人のやりとり、ラブラブトークを聞いていると、愛があふれ出て、こっちにまで押し寄せてくる気がする。どうみても幸せ家族にしか見えない。

幸せの秘訣は、どこにあるのか。2人に教えてもらった。


家族について聞く前に、2人の歩みを、ちょっとだけ振り返ろう。2人は生い立ちから、恋バナ、すれ違い、産後のうつまでを包み隠さず綴った本『決断。全盲の2人が家族をつくるとき』(中央公論新社)を今月、出している。

見えない世界で

1975年、生まれた時から全盲の亜矢子さんは、幼いころの記憶をこう綴っている。

「最初は人というものが、どんなかたちをしているのか、まったくわかりませんでした」(『決断。全盲の2人が家族をつくるとき』より)

Kazuki Watanabe

相手の顔を知るためには、「手で触れる」しかない。

「おちんちんはどうなっているか知りたくて、小さい頃お風呂でお父さんにさわらせてもらったり、お兄ちゃんのおちんちんと比べてみたりしました。おちんちんってソーセージみたいだな......」(同)

「さわれるものはさわらせてもらって、実感として頭の中に入れます。それで初めてかたちをイメージできるのです」(同)

恋に落ちる

1977年生まれの誠さんは先天性の病気で、小6のときに全盲になった。そのショック、弁護士になるための勉強......そんな苦労話も綴られる中で、亜矢子さんとのことになると、とたんにメロメロだ。

Satoko Yasuda

誠さんがギターを演奏することになった、知的障害者施設のクリスマス会コンサート。誠さんは、小学校時代から知り合いだった亜矢子さんに、ヘルプを頼んだ。10年以上ぶりの再会。

「本当に明るい、華やかで素敵な女性だなと、胸がドキドキときめいたのを覚えています」(同)

「コンサートの練習をしていても、今、亜矢子さんはどんなことを考えているのかな。どういう曲が好きなのかな、とひそかに思いをはせていました」(同)

安らぎ

再会当時、男女関係で悩み、「頭の中はジェットコースター状態」だった亜矢子さん。

そんなとき、「誠さんの声を聞くとなぜか安らぎを覚え、力が湧いてくる」「不思議と頭痛が治まる」......。声を聞くため、間違い電話のふりをして、電話することもあったとか。もう、これは恋する乙女ですね。

Satoko Yasuda

結婚

2人はその後、2004年から付き合い、2010年に結婚。すんなりと関係を深めていったように思えるが、ずいぶんと辛い経験もあった。

誠さんは2006年、司法試験に合格したが、将来への不安からなかなか「結婚」は言い出せない。

2人は今後どう生きていくか、それぞれ悩んでいた。そして2009年。悲しい出来事がおきる。

誠さんの母親が亡くなったのだ。がん治療で、だんだん身体が動かせなくなった。そして......。亜矢子さんとの結婚を強く意識したのは、母との別れを経験したからだった。

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もう、失いたくない

誠さんは、当時の気持ちを、こう振り返る。

「当たり前に傍にいてくれるひとも、いついなくなるかわからないと、気が付いたんです。身近に居て支えてくれている亜矢子さんを、どうすれば大切にできるのか。亜矢子さんを失いたくない、そう考えたとき、結婚して家族をつくることにつきると思いました」

その思いに、亜矢子さんも応じた。

2人は結婚することと、一緒に暮らすこと、子どもを作ることは、ひとつながりだと考えていたという。

目が見えない2人の子育ては、どんなものなのだろうか。

家族で様々な工夫を重ねて、かなりのことは自分たちでできるが、周囲の協力もかなり大きいと誠さんは話す。

「本当に、周りの方々にはめぐまれていますね。近所のお父さんお母さん、子どもの学校のお父さんお母さんも、みんながさりげなく支えてくれます。みんながいるからなんとかなっている」

「明るく前向きでいると、周りからも手助けしやすいかもしれません。僕らが何もなくても楽しそうだと、周りも自然に助けてくれる気がしています」

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なんで助けてもらえるの?

一方、亜矢子さんは最初、自分たち2人の力だけで子育てをしたいと強く思っていたという。

「でも、それは現実的に無理でした。無理をとおして、頑張り抜くのか......誰かに助けてもらうのか......。でも、助けてもらうことで、新たな出会いがあって、人間関係もひろがって、心の安らぎが得られた。自分の理想を意地っ張りに貫き通さなくてよかったと、今は思えています。みんなに感謝しています」

2人の周りには、なぜいい人が集まるのだろうか。

誠さんはこう話す。

「私が周りの人たちにできることは、話をじっくり聞くことですね。誰もが悩みを抱えるときはあります。そんなとき、そっと寄り添って話を聞いてくれる人の存在って重要ですよね」

亜矢子さんも頷く。

「誠さんは、誰かに寄り添うことに長けていて、絶対弁護士に向いていると思っていました」

なんだかんだと、お互いに話したり、助け合ったりしていくうちに、関係性ができていく。結局、どんな人間関係でも同じかもしれない。

どんなヘルプが必要?

話していると、なんだか、2人が目が見えないことを忘れそうになる。逆に、子育てするうえで、絶対にヘルプが必要なことって、どんなことですか?

誠さん「たとえば小学校からもらってくるプリント。私たちだけだと、読むとか、書き込んで、提出するとかはできないので、誰かのサポートが必要です。そういうところさえやってもらえれば、あとは食事とか洗濯とか、子どもの世話とかは、たいてい何でもできるかな......」

パソコンの文字データは、実は問題ないという。文字データは読み上げソフトのおかげで、すらすら「読める」。iPhoneも使いこなしている。誠さんが、弁護士としてバリバリ活躍していることを考えると、当然かも。

亜矢子さんがつけ加える。

「あと、強いて言うなら外遊びですね。家の中でもしょっちゅう声をかけて、居場所を把握しているのですが、外だとずっと声をかけていないと、どこにいるかわからない。そういうときは、誰かに見守ってもらいたい」

「子どもも戦力」

いま、長女は6才、長男は5才。2人目(弟)が誕生して以降は、亜矢子さんの母が同居して助けてくれている。だが、子どもたちはもう家族の「戦力」になっていると、誠さんは話す。

「シャツが汚れているとか、床にゴミが落ちているとか、私たちが気付かないことを、子どもたちは教えてくれます。子どもも、家族というチームの一員として、お互いに助け合う。だから、子どもだからといって軽々しく扱わないようにしています。意見を尊重して、話も聞く」

亜矢子さんは話す。

「子どもと同じ目線でいるようにしています。雷を落とすこともありますが、できるだけまず、雷を落とす前に話を聞くことにしています」

「あと、納得できないんだったら、ハイと言わなくてもいい、無理にわかりました、ごめんなさい、と言わなくてもいいと伝えています。わたしが間違ってることもありますからね」

親だけどできないこともあるので、お互いの弱さを見せ合う関係が作りやすいという。とても穏やかな関係に思える。

Satoko Yasuda
長女、長男と一緒に。

でも、いざ「怒った」ときはどうなるんですか?

「僕は、怒りそうになったら、数を数えて落ち着くことにしています。怒らない方が良い結果に結びつくと思っていますので」と誠さん。

亜矢子さんは「でも、タイムリミットはありますからね。なので私は、あえて悪役を演じたりしています。あたまに来ちゃうんだけど、ふっ、どうせ悪者さーって(笑)」

幸せな生活を伝える本当の理由

こんな「赤裸々な私生活」を、あえて本にしたきっかけは、実は2016年7月におきた、相模原の障害者連続殺傷事件だったそうだ。

11月21日夜に開かれた、著書の出版記念コンサートで、集まった聴衆に誠さんはこう、説明した。

「元施設の職員だった方が、19人の障害者の命を奪って......。彼は取り調べの中で、『障害者は不幸を作ることしかできない』と言った、と報道されました。そしてインターネット上では、彼の意見への賛同もたくさん表明されたんですね」

「これはまずいと思ったんです。このままでは、障害者とか、いろんなハンデを抱えた存在が、世の中に無価値なものとされてしまう。これはなんとかしなければいけないなと、切実に思いました」

「相模原の被告人が持っているような考えを打ち破るためには、我々が幸せな生活をしているっていうことを見せるしかないんじゃないかな。毎日笑って生活しているということを、どんどん社会に発信していくしかないんじゃないか。そう思ったんです」

誠さんは、こう話すときも、けっして穏やかな語り口を崩さなかった。その切実な思いは、きっと多くの人に届くだろう。

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