公立中学の制服代を1人で分析。北海道の図書館司書の執念が胸を打つ...

とうとう、議会も動かした
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「高い」と保護者らから指摘が出ている制服代について、公正取引委員会が全国450校の公立中学の制服代を分析した調査報告書をまとめたことをハフポスト日本版は11月22日に報じた。だが北海道には、公立中学の制服代を1人でこつこつ集めて分析している男性がいる。

■1人で自治体に情報公開請求

北海道帯広市の図書館司書、大平亮介さん(28)。

大平亮介さん(奥)。10月、「教育費クライシス」と題したミニ講演に参加し、自分が調査した結果から見えてきた課題を伝えた。
大平亮介さん(奥)。10月、「教育費クライシス」と題したミニ講演に参加し、自分が調査した結果から見えてきた課題を伝えた。
KENICHI SUGIMOTO

もともと地域の課題に関心があり、勉強会などに参加していた。そのなかで、低所得世帯向けの教育費の補助「就学援助」を受けている子どもが、帯広市内には約4人に1人いることを知った。また、制服代すら払えない困窮世帯がいることも新聞報道で知り、衝撃を受けた。「子どもの貧困」という問題に、自分が何ができるかを考えるようになった。

図書館司書は高い調査能力が求められる専門職だ。利用者から質問されたことを文献から見つけ出し、回答する専門業務「レファレンス」を担う。大平さんは、このスキルを使ってたった1人、オフの時間に調べ始めた。

制服代がいくらか知りたい。手始めに道内の市教委に問い合わせると、「制服代などの情報は把握していない」と言われた。だが、情報公開制度で請求すると、「把握していない」と答えた自治体を含め、大半が資料を公開してきた。

この1年近くで、北海道、秋田、岩手、山形県内の市に、保護者に配られている入学説明会のしおりなどを自費で情報公開請求し、公立中高300校以上の情報を集めた。この資料から学校ごとの制服代や支払時期、公的支援の支給時期などを拾い出し、まとめて価格の傾向や販売時期などを分析した。

■価格以外の課題がみえてきた

集めたデータからは、学校ごとに制服の価格差が大きいという課題のほか、別の課題も見えてきた。その一つが、次の3つのタイミングがあっていないという問題だ。

1.制服代を初めて知るタイミング

2.購入するタイミング

3.公的支援の支給のタイミングなど収入のタイミング

制服代は学校によって違うが、一揃えすると5~7万円かかる。これだけのまとまった額を低所得世帯が用立てるには、1~3も大事になってくる。1は早めに知ることができたら準備が早めにとれる。2や3が近いほど、やりくりの上での負担は楽になる。3が2より先に来れば、「立て替え」の期間がないのでさらにいい。

こうした観点で、大平さんが自治体ごとに改善点を探ると、次のようなことが見えてきた。大平さんの地元・帯広市のデータから紹介する。

●制服代を知った時期から買う時期までの期間がとても短い

帯広市の中学校の大半は2月中旬に保護者向けの入学説明会を開く。指定品の項目や価格の詳細が初めて分かるのはこの時期だ。一方、制服や体育着の販売時期は2月下旬に集中している。

図)帯広市立中の制服・ジャージの購入時期と入学説明会の時期(判明分のみ)

RYOSUKE OHIRA
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「帯広市では小学校の卒業式に中学校の制服を着る『伝統』がある。販売期間が短いのはそのせいでは。保護者が価格を説明会で初めて知ったとしたら、費用を用意できる期間は約2週間しかない」と大平さんは言う。

●入学説明会まで制服代を簡単に知ることができない

一番手っ取り早いのが、学校のホームページで価格情報を常に載せておくことだ。一部の自治体ではすでに始めているが、大半の学校はこうしたことすらやっていない。大平さんも帯広市で探したが、見つけられなかった。

図)帯広市立中学のホームページの掲載情報

RYOSUKE OHIRA

大平さんは「制服の値段が中学校のホームページなどで公表されていないと、入学説明会より前の時期に知ることが難しい」と指摘する。

●入学準備金なのに支給時期が夏

低所得者向けに自治体が援助する「就学援助」の入学準備金の額や時期はどうなっているのだろうか。

図)北海道の就学援助の支給額(道内35市のうち31市の把握分)

RYOSUKE OHIRA

入学準備金の支給額は、自治体が独自に決める。参考にされる国の予算の補助単価が2017年度から「子どもの貧困対策」の一環で引き上げられ、入学準備金の補助単価は2万3500円から4万7400円に倍増した。だが、まだ自治体の都合で引き上げられていないところも多い。

さらに倍増でも制服代の総額にすら届かない場合が多い。支給時期も、6~8月に支給している自治体が大半で、2~3月の支出から3~6カ月待つ必要もある。最近、支給の時期を前倒しする自治体が増えているが、まだ一部にとどまっている。

■議論にはデータが不可欠

大平さんは、分析で見えた課題をレジュメにまとめ、地元のメディアや子どもの貧困や教育の分野に熱心な議員を議事録検索システムで探し、自治体ごとの課題をきれいに整理した資料を送り始めている。

写真)石狩市の中学の制服の課題をまとめた資料

RYOSUKE OHIRA

また、10月1日には、地元で開かれたミニ講演会で、「教育費クライシス」と題し、これまでの分析で分かったことを住民たちと共有した。

一連の取り組みが最近、実を結んだ。

地元の帯広市議会9月定例会の一般質問で、杉野智美市議が大平さんの取り組みを紹介、大平さんの作成したデータをもとに「事前に市や学校のホームページで制服などの価格を周知して欲しい」と求めた。そして、市の学校教育部長から「前年度の価格を参考に知らせることについては、提案の内容も含め、より早く知らせることができるように、協議したい」という回答を引き出した。

「土台となるデータがあれば、建設的な議論ができる。これからもデータを元にした改善策を提案していきたい」と大平さんは話す。

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