「10社中、9社に断られた。でも…」 エキナカをグルメスポットに変身させたのは、勝算より熱意だった。

JRからカルビーへ。鎌田由美子さんが語る「新規事業人生」
HuffPost Japan

「新規事業って、形になった後に『お前こういうことをやりたかったのか。ちゃんと言ってくれれば色々手伝ってやれたのに』って言われるんです。でも、"例えば"がないから新規事業なんです」

そう語るのは、JR東日本で、駅構内で飲食店や衣料店などを展開する「エキナカ」を成功に導き、いまはカルビーで上級執行役員として新規事業開発を率いる鎌田由美子さんだ。

かつて駅は、電車を乗り降りするために仕方なく立ち寄る場所だった。それが今では、おいしいレストランや、おしゃれな店が並ぶ華やかなスペースに。

スイスを拠点とする金融機関のUBS銀行のウェルス・マネジメント本部が11月1日に開催した女性投資家向けイベント「UBS Unique フォーラム - 女性が動かす未来 」で語られた、鎌田さんの言葉を紹介します。

1.「女性で初めてのJR東日本採用。だったら自由に働けるだろう」

私がJR東日本に入社したのは28年前。JR東日本が女性を初めて文系職で採用しはじめた最初の年でした。

まだまだ女性の採用が、「総合職」「一般職」とわかれていて、女性がバリバリ働くには難しかった時代です。

JR東日本には、第一志望で入社いたしました。女性で初めての採用ですから、上がいないので、自由にのびのびとできるだろうと思ったんです。

何よりも、一度潰れた会社です(※JR東日本は1987年、国鉄から分割民営化した)。もうこれは何でもできるだろう。そう思ったのが志望理由でした。

カルビー株式会社上級執行役員 鎌田 由美子さん
カルビー株式会社上級執行役員 鎌田 由美子さん
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2. 10社中、9社に断られた。勝算より熱意が人を動かした。

「エキナカ」は、2000年にJR東日本が、中期経営構想で掲げた「ステーションルネッサンス」という考え方の下で実現されました。

人口減少が進み、お客さんが少なくなって、鉄道事業の衰退が懸念されるなか、駅のあり方や価値を見直したのです。

駅は、1日1600万人に利用していただいている資産です。「エキナカ」ができた後、駅の中での新規ビジネスに対して「あれだけ人が多い場所なんだからビジネスは成功して当たり前だ」という人もいました。

でも、実態はそれまで駅に入っていた「キオスク」や「駅そば」などのビジネスは右肩下がりでした。

駅の中でビジネスをしませんか、と(飲食店などに)提案にいくと10社中9社に断られました。いまでこそエキナカは一般的に知られるようになりましたが、当時は駅に良いイメージがなかったんですね。

断られた理由は2つ。

「うちのお店を駅に出したらブランドイメージが悪くなる」

「あんな労働環境の中でうちの社員は働かせられない」

1社1社、部下たちが交渉に駆け回りました。

「駅は変わります、今の駅ではなくなります。新しい駅づくりを一緒にしてほしい」。

出店してくださった皆さんに口々に言われました。「駅にビジネスチャンスがあるとは思ってないけど、熱意に負けた」。

写真はイメージ
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Thomas White / Reuters

3.「私たち自身が消費者だ」

最初は3人でスタートしたプロジェクトでした。

私たちは12月のJR大宮駅(埼玉県)で、始発から終電まで駅に立ち尽くし、お客さんを、そして駅を、観察しました。

ホームからホームを走るようにして移動するお客さんたちは、駅を「少しでも早く立ち去りたい場所」と思っているようでした。

一刻も早く帰りたいお客さんたちに、滞在を促すエキナカをつくって意味あるんだろうか。

そんな時、ふと自分自身のことを考えたんです。

「15分しか時間がない時、菓子パンじゃなくて、あったかいおそばを食べて次の商談に行けたらどんなにいいかしら」。でも、駅そばを食べている自分を誰かに見られたくない、と感じている自分がいたんです。

社内の子育て中の女性にも聞きました。

仕事終わりに、駅でお惣菜を買って帰れたらどんなに楽だろう、と話してくれました。

私たち自身が消費者だったんですよね。私たちの中に潜在的にあったニーズは、お客様皆の中にあった隠れたニーズでした。エキナカには市場価値がある、と思い直しました。

4. 男性に花を買ってもらえる場所

エキナカは新しいマーケットでした。

これまでにない売り方をしました。

例えば花屋さん。

女性はお花をもらうのも、買って持ち運ぶのも好きな方が多いですが、男性は違います。買うのも恥ずかしい、買っているのを見られるのも恥ずかしい。

そこで、ブーケをボックスに入れて斜めに傾けて、遠くからでブーケが見えるような陳列ができあがりました。

白、赤、紫、...とブーケが遠くから見えているので「紫にしよう」と選びながらお店に近づいてきて、お店についた瞬間に手にとってSuicaでピッと払えばもうおしまい。とてもお客様に好評でした。

3000円、4000円のものが売れるマーケットではない、だけど個人のちょっとしたパーソナルギフトのニーズをつかむ場所としては、大きな可能性があったんです。価格帯でいうと800円から1200円。「ママ、昨日言いすぎてごめんね」、「待たせてごめんね」。そんな購買動機の、男性のニーズも意識しました。

写真はイメージ
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Jaime Saldarriaga / Reuters

5.「作る過程を隠してきた、それが大量生産だった」

48歳の時に、カルビーの(会長の)松本(晃会長兼CEO)から声をかけてもらい、カルビーの上級執行役員として新規事業に携わるようになりました。カルビーに2009年に(外資系企業から)やってきたのが松本で、2010年から女性管理職比率を増やすなどの施策で、業績を伸ばしています。

私は、全国各地にあるアンテナショップも担当しているのですが、なかなか面白いです。流通をやっていた私からすると、メーカーがお店作りをしているのが新鮮。売り上げが下がらないんです。

小売りの仕事をやっていると、パッケージを変えたり装飾を変えたり、シーズンごとのお客様のモチベーションによって手を替え品を替えたりするのが当たり前だと思っていたんですが、ここはモノの力で売ってるんです。

キッチンコーナーで、その場で揚げたポテトチップスを提供しているのですが、店頭に立っていると、お客さんから驚きの声が聞こえてきます。

「生のジャガイモで作ってるんだ、すごーい」という声です。

「生のジャガイモじゃなかったら何からできてると思っていらしたんだろう」と最初は思ったのですが(笑)。それがリアルな消費者の感覚なんでしょうね。

子どもの頃、社会科見学で工場に行くのって楽しかったですよね?ワクワクしましたよね?自分が消費するものがどうできているか知るのは、消費体験を豊かにする。

でもそうしたものづくりの過程を見せず、大量生産が進んできたように思います。

写真はイメージ
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Bloomberg via Getty Images

6.「業種」と「業態」の大きな違い

最近、新しい業態を立ち上げました。

いま、私は「業種」ではなくて「業態」という言葉を使い分けました。

業種というと、薬屋さん、花屋さんというように「何を売るか」なんですね。

業態は、コンビニエンスストア、スーパーマーケットのように「どう売るか」なんです。

私たちは業態をやりたい。エキナカの時も部下とそんなことを話していました。

カルビーで立ち上げたのが「Yesterday's tomorrow」という日本中の色々なメーカーのロングセラーのお菓子をお客様自身がカスタマイズして買えるお店です。1号店が新宿のルミネエストにオープンしたばかりです。

名前は知っているけど実は何年も食べてないロングセラーのお菓子が日本には山ほどある。簡単に好きな量が手に入れば楽しい体験じゃないかと思いました。

同時に、お菓子が価格競争の中でしか食べてもらえないような状況にも疑問を持ちました。工場で一生懸命生産しても、店頭で値段が下げられる。私たちが作ってきたものは価格を下げないで食べてもらえないのかと。

お菓子を選ぶ楽しみ、贈る楽しみ、そういった体験を価値として提供したいと思っています。

Yesterday's tomorrowの店舗
Yesterday's tomorrowの店舗
カルビー株式会社提供

7.「"例えば"がないのが新規事業」

最後にどうしても伝えたいことがあります。

私はこれまで新規事業をやってまいりましたが、一番難しかったことは、事業が形になったあとに「お前、何だよ、こういうことをやりたかったのか。ちゃんと言ってくれれば色々手伝ってやれたのに」と色んな場面で言われたことです。

ありがたい。でも、"例えば"がないから新規事業なんです。

小さなことでも新しいことに挑戦していれば必ずハードルがあります。

でも、ぶつかってる時こそ、「ぶつかってるということはやってるってことなんだ」という実感を持ってチャレンジし続けて欲しいです。

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