日馬富士問題をやくみつるが語る「相撲界には色んな利害が渦巻いている」【インタビュー】

八角理事長と貴乃花親方の代理戦争?やくみつるは今回の問題をどう読み解いた?

大相撲の横綱・日馬富士が、モンゴル出身の力士らが集まる飲み会の席で、平幕・貴ノ岩に暴行したことが、相撲界を揺るがす大問題へと発展した。

事前に暴行を把握していた相撲協会が、九州場所(11月12日〜)に日馬富士を出場させていたことに対しても、疑問の声が上がっている。

過去の暴行死や八百長事件をきっかけに改革を進めていたはずの相撲界。なぜ再びこのような問題が起こってしまったのか。

2007年の時津風部屋の力士暴行死事件で再発防止検討委の外部委員を務めた、漫画家のやくみつるさんに、フリーアナウンサーの徳永有美さんが話を聞いた。

−−今回の事件、発覚した時にまずどんな風に感じましたか?

「またやらかしたか」です。

(今回のモンゴル出身力士の飲み会のように)「つるみ」を否定するわけではないんです。相撲の世界には「国もん」という言葉があって、生まれた土地での結びつきが強い競技であることは間違いない。

でも、土俵をずっと見ている方はわかる。モンゴル勢の中で優勝争いが起こりません。これはどうしてでしょう?ということですよ。

−−星の譲り合いが疑われる、ということですか。

かつて、八百長問題が浮上した際に、相撲協会自身が「八百長はあった」と認めましたね。あの処分の際に、解雇されたのは主に十両以下と幕下の力士でした。

しかし、当時から私が言っているのは「巧妙に影響のないところ(立場が下の力士)を切ったのでは」ということです。

興行に影響のありそうな(高い)地位の力士たちの中で、それを推認させるような傾向もあった。しかし協会は「知らぬ、存ぜぬ」で通した。その時の(八百長の)温床を残したりはしていないんですか?と思います。

Kei Yoshikawa

−−今回の事件は、モンゴル出身力士同士の飲み会という席でした。戦いの相手との馴れ合いが、八百長の温床になっているのでは?という指摘もありますね。

(海外出身の力士は)関取になるまでは日本語の習得にも勤めないといけないし、同郷の力士と接するなと明言している部屋もある。貴乃花親方はそれを嫌っていますよね。

でも同郷の人や、同期会、そういったところまでも、合理的精神で分断するのは無理があるのかなと思いますね。

野球でもチームをまたいだ、合同自主トレだってある。しかし彼らは節度を保って、ゲームが疑惑の目で見られないように気をつけているのでは。

相撲も、激しい相撲をとって、その疑いを払拭する義務がある。モンゴルの力士同士は、勝っている人に偏り過ぎているのではという思いもある。

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

−−大相撲協会の八角理事長ら幹部による、暴行の調査に対して、けがをした貴ノ岩の師匠である貴乃花親方は協力的でないようにみえます。「ガチンコ相撲」の貴乃花親方と「星のやり取り」を容認する八角理事長の対立なのでは、と一部のメディアでは言われています。

私が思うに、それは違いますよ。しかし、「じゃあなんで対立している?」というところは、考えなくてはいけないと思いますね。

八角理事長は決して、古い体質に依存する親方ではない。協会の改革に消極的というわけではない。そこが対立点ではないと思いますね。

貴乃花親方が頑固なキャラクターなのは、見ての通りです。しかし、私としては何がしかの利害関係があるから、2人は対立しているんだと思っています。

−−利害関係ですか。

今回のことに直接は結び付けられないですが、相撲界には色々な利害があります。例えば、政権(理事長)が変わると、国技館の中に入っている物販店とか、そんなものまで全部変わっちゃう。

相撲界にはいろんな利害が渦巻いているんです。色んな形で、いろんな業者が関わっている。その対立が、絶対にあります。

しかし、調整を図っていくなど"利に聡い"ことができないのが、貴乃花親方という人です。彼が理路整然と説明するのを聞いたことがない。それはちょっと訓練が足りない部分ではないでしょうか。

時事通信社

−−貴乃花親方がきちんと協会に説明しないことは、批判を招いていますね。

警察に委ねたのは1つの手。しかし、警察は力士を出場停止処分にはできない。協会の処分も同時に求めるべきでしょう。

しかも、貴ノ岩は口を閉ざしているだけかと思ったら、(モンゴル出身の先輩力士である)元旭鷲山を通じて、訴えるような形になってしまっている。これはまずいやり方では。

−−貴乃花親方は「相撲界を変えたい」という理想に邁進しているから周りが見えなくなっているのでしょうか?

と言うと、きれいすぎる。正義感は愚直に強い人だが、今回の行動が、本当に本人の意思だけによるものでしょうか?彼には彼のバックボーンの関係があるとは思います。

彼は「ぶっ壊したい」んだと思うんですよ。「自民党をぶっ壊す」と叫んだ一時の小泉純一郎元総理のように。正義感はあることは否定しません。ただ、小泉さんと同じように、純然たる正義の人かというとそうではない。

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

−−稀勢の里も休場です。今場所は悲しいことだらけですね。

刑事事件ではないですが、白鵬の立ち合い(九州場所11日目に白鵬が前代未聞の物言いをつけた問題)も由々しき問題。白鵬はイライラしているなというのがはっきり土俵上に出ていましたね。

特に、九州場所は他の場所に比べて(モンゴル人力士にとっては)アウェー感の強い場所ですから。

日馬富士は待ったなしの状態を迫られるでしょう。立ち合い問題も含めて、白鵬にもペナルティがあってしかるべき。これで、日馬富士と白鵬の2人も休場していれば「あなたたちの時代は終わった(※)」という予言が当たっていたことになるんですけどね。(笑)

(※ 貴ノ岩が飲み会の席で、先輩の日馬富士に伝え、暴行のきっかけになったとされている発言)

−−白鵬も普通の精神状態ではない感じがしますね。

翌日から出場停止だな、と思いましたが、相撲協会は厳重注意で済ませてしまった。本来であれば、あまりにもまかりならぬこと。優勝40回にもなんなんとする横綱が、ああいう行動に出るとは。

まあ、これはギャグですけれど、"相撲教習所"からやり直せと思いますね。

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

−−相撲協会は2007年の暴行事件以来、何も変わっていないように見えます。その結果、九州場所に臨む力士たちが、普通の精神状態でなくなっている。白鵬の問題も繋がっているように思います。

(2007年の)暴行事件後の改革を自分なりに見てきました。

一見、あの頃と何も変わっていないように見えるかもしれません。しかし、相撲部屋は、2007年の事件に対して過敏なぐらいに反応した。仲良しすぎて良いのか、というぐらい。相撲部屋や稽古場の世界は是正されてきたとみていいと思いますね。

ただ、今回は「飲み会」での席。正直「そこまで面倒みなくてはいけないのか」というような感じでしょう。

−−部屋はそうかもしれません。しかし、相撲協会の対応は?

そこはまだまだ下手っぴというか、一応「危機管理」対応の職員もいてそれなりの対応をしていますが、対応が後手後手になっていますね。

−−「九州場所の最中だから調査に乗り出せない」ということを言い訳、盾にしているように見えます。

「場所中」という、協会の大義はわからなくもない。極度の緊張を強いられる15日間で、他にも大勢の力士たちがいる。彼らのために場所に集中させてくれという気持ちはわかる。

でも、だからこそ、この問題には場所前にケリをつけるべきだった。発覚したのが場所に入ってから、というのがそもそもの間違いだったと思います。

−−他のスポーツの競技では、暴力に対して厳しい対応を取り始めています。なぜ相撲界はそれができないんでしょうか?

やっぱり処分の甘さですよね。部屋ごと処分されるとなると、巻き添えになる若い力士がかわいそうとは思いますが。いつも処分が甘いんです。何をためらっているんだと思います。

−−相撲協会が変われないのは、古い組織だからでしょうか?

大きなお金が動く割には、そこまで大きな組織ではない。そこに、大きな旨味があって、そこを狙ってくる人たちが現れます。

資金を供給してくれるところに利益を供与するという、江戸時代からの体質が、脈々と受け継がれている。興行はそういう世界です。

−−外部の風を吹かせる必要がありそうですね。

組織は少しずつ整ってきてはいます。危機管理の対応の人を入れたりもしていますし。しかし、外部の意見がどの程度反映されるかというと、そうではない。

私が外部委員で入ったときも、親方たちというのは、広く耳を傾けるというのはまあ、やらないなあ。

ただ、こういう機会なので1つだけ申し上げるなら、協会はやり玉に挙がるが、客も客ですよ。「(取り組み中に、力士を応援する大きな)横断幕を広げてんじゃねーよバカが」と思いますよ。

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

−−サッカーの応援みたいですね。

国技館には「肩幅以上のものは出さないで」という決まりが小さく提示されているんですが...。「やってはいけませんよ」といいながら、選手の名前を書いたタオルを売ってますからね。矛盾がある。

それは、相撲人気が低迷し、お客さんは誰でもウェルカムで、ものが言えなかった時代が長かったから。とはいえ、今回のように力士の間で暴力沙汰なんて起こしたら、お客さんにご指導なんて状況ではないですけどね。

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