アート&カルチャー

新刊、ネットメディアで全部読めます。 「それでも本が売れなくなることはない」講談社の狙いは正しい?

NHK取材班の本『健康格差』を、ぜんぶネットで公開。

2017年12月02日 13時00分 JST | 更新 2017年12月02日 13時01分 JST

講談社が、11月15日に発売した新刊『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』の全文を、ハフポスト日本版や東洋経済オンラインなど7つのネットメディアに無料で提供した。

「書店に並ぶ本の内容が、ネットで読めてしまえば、ますます本が売れなくなってしまうのでは...?」

企画に関わった講談社の編集者に、そんな"直球質問"を投げかけると、「それでも本が売れなくなることはない」と自信たっぷり。思い切った決断をした理由を聞いてみた。

Aya Ikuta / HuffPost Japan
現代新書編集長の青木肇さん(左)、編集の小林雅宏さん(右)

競合メディアが"ひとつ"になった?

本のテーマは、執筆者の「NHKスペシャル取材班」が2016年に取り上げた、健康格差問題。「低所得者の死亡率は高所得者の3倍高い」など、健康な人とそうでない人の差が広まっている、深刻な状況を描いている。

本の内容をぜんぶ公開するアイデアは、NHKの番組ディレクター、神原一光さんが提案した。「よりたくさんの人に問題を知ってもらため」という。

メディア7社はすぐに集まった。普段はライバル同士でも、大事なテーマを伝えるときは、軽々と垣根をこえる。Facebookメッセージのやり取りで、どんどん企画が進んでいった。

●全文公開プロジェクトの賛同メディア​​

日経ビジネスオンライン​​
ダイヤモンド・オンライン​​
プレジデントオンライン​​
東洋経済オンライン​​
BUSINESS INSIDER JAPAN
現代ビジネス​​
ハフポスト日本版


どれも、本のコアターゲットである「30代から40代で、社会問題にも関心が高いビジネスパーソン」と親和性が高いメディア。1日おきに、1章ずつ、各ネットメディアで全文公開していった。

「本が売れなくなるかも...」 怖くなかった?

講談社にとって、新書の全文公開は初めての取り組み。

ネット上で記事が拡散したら、その分、「健康格差」の問題を認知する人が増える。興味を持ち、本を手に取ってもらうきっかけが広がっていくのではないか。

そんな仮説を元に協議を重ねたが、講談社の社内では"慎重派"もいた。

demaerre via Getty Images
イメージ画像

特に、1冊1冊の売上げがお店の存続にひびく、リアル書店と日々向き合っている営業担当からは、ネットで全文公開することに反対意見もあがったという。

「リアル書店さんがどう思うかということは、もちろん考えないといけません。でも、ちょっと誤解される言い方になるかもしれませんが、そんなに心配するようなことにはならない、と思っています」

社内をかけずり回って、企画を実現したメンバーのひとり、現代新書編集長の青木肇さんは、そう見通す。

「ネットの力というのは相当なもの。過去の事例をみても、ネットを通した取り組みが、本の売上げに良い結果を与えることが多い。ネットを敵視するのはおかしいんです」

「ハッキリした物言いになりますが...その本が売れなかったとしたら、ネットで施策を打とうが打つまいが、おそらくその本はそんなに売れなかっただろう、という話です。今の時代、何かをやらないと、本は売れません。多少のリスクを負って、新たなチャレンジをしていかないと」

「いいコンテンツ」であるならば、ネットでも評価され、広がっていく。健康格差について、本の一部でもネットで読まれれば、興味を持った人が、「まとまった形で読みたい」「ページに書き込みをするため本として読みたい」「誰かにプレゼントしたい」などのニーズが生まれてくる可能性がある。

無料公開をすることで、書店では出会えない新たな読者にリーチできる、という考え方だ。

ライバルも協力し合える"共感"テーマ

編集を担当した講談社の小林雅宏さんは、「本の無料公開をするために、競合メディア7社が繋がったのは、問題意識を共有できたからだと思います」と話す。「Twitter的に言うと、同じハッシュタグで繋がりました」。

講談社が運営するネットメディア、『現代ビジネス』は同書の「はじめに」を掲載し、今回のプロジェクトにスタートを切った。編集長の阪上大葉さんはこう話す。

「企画に多くの媒体が賛同したのは、もっとネットメディアを良くしたいという意図があったから。これがきっかけでみんなでワイワイ言い合えるようになればいいなと、本当に思っています」

oatawa via Getty Images

あくまでこれは、実験。

ハフポスト日本版もこの企画に賛同し、12月2日に最終回となる第6章が公開された。7500字超えのロング・インタビューだ。

メディア側の判断で、スマホでの読みづらさをなくすため、改行をいれたり、記事のタイトルをニュースサイト風にしたりといった多少のアレンジも許された。

HuffPost Japan
ハフポスト日本版で掲載された『健康格差』の第6章。


それでも、なかには1万字を優に超える記事もあった。電車での通勤中など、空いた時間にスマホで読むには少し重たすぎる。

「『全部しっかり読んでください』と言いたいわけではなくて。気になるものがあったら"つまみ食い"をして、興味を持ったら本を買っていただくなり、7媒体を見ていただくなりしてほしいな、と思っています」(講談社の小林雅宏さん)

出版社は試行錯誤しながら、ネットとの折り合いをつけようとしている。講談社が電子書籍化に取り組み始めたのは1995年。iPhoneが誕生する約10年前だ。NTTドコモの「iモード」が始まってすぐ、デジタルコンテンツの提供を始めたという。

小林さんは最後にこう話した。

「こうした取り組みと相性がいいジャンル、悪いジャンルも当然あると思います。確信を持ちながら、試行錯誤しながらやっていきたいです」

ネットで無料公開した戦略は本当に正しいのか?まだまだ実験段階だ。

「健康格差 あなたの寿命は社会が決める」(講談社現代新書)
著:NHKスペシャル取材班
定価 : 本体780円(税別)

「健康格差 あなたの寿命は社会が決める」(講談社現代新書)