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伊藤詩織さんと元TBS記者の裁判始まる 空席を見つめた2分間、彼女は何を思ったか

性暴力被害を訴えて…

2017年12月05日 17時18分 JST | 更新 2017年12月05日 17時46分 JST

意識を失っている間に性行為をされ、極めて重大な肉体的・精神的苦痛を被ったとして、ジャーナリスト・伊藤詩織さんが元TBS記者の男性ジャーナリストに対し、慰謝料など1100万円を求めている裁判の第1回口頭弁論が12月5日、東京地裁(鈴木尚久裁判長)であった。

Kazuki Watanabe
伊藤詩織さん

訴状によると、原告側は「2015年4月4日午前5時ごろ、原告が意識を失っているのに乗じて、性行為をされた」「原告が意識を取り戻した後も、押さえつけるなどして性行為を続けようとした」と主張。こうした行為が「不法行為」になると訴えている。

損害の大きさについては「突然事件のことを思い出したり、街中で被告に似た人物を見ただけで吐き気を催してパニックを起こすという症状が現在に至るまで続いている」と主張。「身勝手な行為によって極めて重大な肉体的・精神的苦痛を被った」として、1100万円の損害賠償を求めている。

被告側は請求棄却を求めた。

閉廷後、詩織さんが裁判所の前で報道陣の取材に応じた。

刑事事件の手続きは、いったんは逮捕状が出たが、逮捕直前に「取りやめ」となる異例の展開を見せたあと、不起訴となった。そして検察審査会も「不起訴相当」と判断して終結した。

詩織さんは、なぜ民事裁判をおこしたのか。裁判に何を期待するのか——。

「いままで、どういった議論がなされて、不起訴になったのか。検察審査会でも、どういった議論、どういった理由で不起訴相当の結果が出たのか全く分かりませんでした。よりオープンな議論ができる場になるのかなと思っています」

「個人的にも、まったく何が起こっているのかわからなかったので、それをしっかりフェアな形で話し合っていただくのは、とても重要だと思っています」

風邪気味だという詩織さんは、少しかすれた声でそう話した。

民事裁判は、その行為が「犯罪にあたるかどうか」が問われる刑事裁判とは別ものだ。民事で裁判所がどんな判断をするかは、まだわからない。

「裁判所命令でしかいただけなかった証拠、たとえばホテルのセキュリティカメラの動画といった証拠もいただけると以前、約束していただいたので、それが出てくるのを待っています」

詩織さんはこう期待を込める。

きょうの法廷では、原告側には詩織さんら5人が座った一方、被告側は空席だった。

日本の民事裁判は、お互いが主張と主張をぶつけ合う場だ。だが、実際には、主張は書類の形で提出されて、法廷の場では「陳述します」というだけの素っ気ないやり取りが続く。

第1回口頭弁論には、訴えられた被告側は出廷しないことも多い。本人や代理人がいなくても、答弁書は陳述されたという扱いにできる。

詩織さんは、裁判の冒頭、テレビカメラが法廷を撮影する2分間、身じろぎもせずに、被告側の空席をまっすぐ見つめていた。

このとき、何を思っていたのか——。記者たちの「囲み取材」が終わったあと、そう尋ねた。

「一瞬...ここにいらっしゃったら...。私はどういう...、どう感じていたのだろうと思ったりしましたね」

詩織さんの頭をよぎっていたのは、そのとき、もし「相手」がそこに座っていたら...という思いだったという。

街中で似た人を見かけただけで体調が悪くなる、そんな状況下で、相手と直接向き合うのは、精神的な負荷が非常に大きい。事前に「もしかしたら被告側も来るかもしれない」と伝えられ、覚悟はしてきたという。だが、実際には誰も出廷しなかった。詩織さんは「不思議な気持ちだった」という。

Kazuki Watanabe
伊藤詩織さん

「裁判は、お互いに事実を述べ合う場なので、(本人でなくても)どなたかには向き合いたかった...。なので、空の席を見て、少しやりきれないというか、そうですね...。どこに気持ちを向けていいのか分からなくなってしまいました。ただ、意外と、考えていたよりも(席と席の)距離が近かったので、本当にそうだったときのことを考えると......」

原告席から、被告席までの距離は数メートルだ。

詩織さんはこう語る。

「ただ、もしできるのなら目を見て伺いたいと思っていたけれども...」

「自分の目の前で見たときに、お会いしたときに、自分がどういう反応になるのか想像ができなくて......」

2017年5月、顔と実名を公表して被害を告白した。

その声がきっかけとなって、性暴力の被害者支援、刑法の改正、警察・検察のあり方などの多くの議論が巻き起こった。

きょうの法廷にも大勢の傍聴者や記者が集まった。ただ、5月当時の緊迫した記者会見とくらべると、詩織さんは時おり、やわらかな表情も見せていた。空気は変わっただろうか。

「本当に、一番最初の5月に裁判所に来たときの気持ちとまったく違って...。あのときに司法記者クラブで見た顔は、やっぱりすごく『見られている』感じがしたんです。けど、今回は一緒に見守ってくださっている方も沢山いたので、気持ちは全く違うものでした」

詩織さんはこんな風に話すと、裁判所を後にした。