これからの経済

20代〜30代は、もう出世を望んでいない

「わたし、管理職になりたくありません」

2017年12月08日 10時46分 JST | 更新 2017年12月08日 10時48分 JST
Yuji_Karaki via Getty Images
「管理職になりたくない」のは甘えでしょうか?
本記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

「管理職になりたくない」という若手、中堅社員がここ数年で急速に増えています。

リクルートマネジメントソリューションズが3年おきに実施している「新人・若手の意識調査」によると、「管理職になりたい」および「どちらかといえばなりたい」と回答した肯定派の割合が減少し、2010年の新人では55.8%だったのが、2016年の新人では31.9%となっています。

しかも、この2016年の新人は、「管理職になりたくない」「どちらかといえばなりたくない」という否定派の割合が37.9%となり、本調査で初めて管理職になりたい人たちを上回る結果となっています。さらに、新人だけでなく、3年目の若手、7年目の中堅でも、管理職になりたくないという否定派が、肯定派を上回る結果になっています。

また、キャリアインデックスが2017年5月に実施した「有職者に向けた仕事に関する調査」では、管理職になりたくない人の割合は、20代男性は51.9%、30代男性は48.7%、さらに20代女性は83.1%、30代女性は84.2%と8割を超える結果になっています。

今の管理職の状況を見れば、若手や中堅が管理職になりたくないと思うのは当たり前でしょうか。彼らは甘えたことを言っているだけでしょうか。ミドルクラス以上のビジネスパーソンにとっては、放置できない問題と感じるかもしれません。

負担が嫌だから?

拙著『"誰も管理職になりたくない"時代だからこそ みんなでつなぐリーダーシップ』でも詳しく解説していますが、管理職になりたくない理由を若手・中堅世代に聞くと、「ストレスが増えるから」「責任が増えるから」「管理職に向いていないから」「ワーク・ライフ・バランスが大事なので」など、自分が大変になるからという回答が真っ先に返ってきます。

ところが、その背景にある理由をさらに深く聞くと、今の管理職やリーダーという存在に対する根本的な疑問、違和感が出てきます。

まず、管理職という役割自体への疑問です。そもそも仕事の専門性も多様性も進んでいる中で、上司がすべての業務に精通しているわけでもありません。だから、部下が困ってアドバイスを求めても適切な指示や助言が返ってこない。上司の言うとおりにしても、成果が上がるとも思えない。むしろ余計な管理やプレッシャーをかけてくるだけ。上司に存在価値を見いだせないというのが、1つ目の理由です。

同時に、若手・中堅は管理職の大変さも理解しています。役割があいまいになる中で、成果とリスクへのプレッシャーが高まり、細かな管理をしなければならなくなり、自分たちメンバー以上に余計なことに振り回され、業務負荷を掛けられていく。しかも、そうやって頑張っても金銭的にも時間的にも報われない。働き方改革も仕事の仕方が変わらなければ、部下がやりきれない仕事を引き受けなければならなくなる。

部下から見ると、今の管理職は厳しくなるビジネス環境のしわ寄せを一身に抱え込まされている存在に見えています。にもかかわらず、それに見合うだけの報酬を得られない。おカネという報酬だけでなく、管理職だからこその喜びや意義ある貢献という報酬が見えてこない。自分の生活を犠牲にしてまで、そんな負荷を背負う存在にはなりたくない。これが2つ目の理由です。

若手世代との価値観のギャップを埋められるか?

ただ、もう1つ、より根幹にある大きな理由があります。それは、若手世代が働くうえで重視している価値観、考え方が大きく変化しているということです。

先ほどのリクルートマネジメントソリューションズの「新人・若手の意識調査」によると、若手世代が働くうえで重視しているのは、「収入が安定している」「失業の心配がない」「健康の心配がない」といった安定・安心にかかわる項目。その次にくるのが、「仲間と楽しく働けること」。これが、若手世代が働くうえで重視する上位の4項目です。

逆に、下位2項目は「責任者として采配が振れること」「世間からもてはやされること」になっています。若手世代にとって、自分が上に立つ、自分が目立つことは、大切なことではないということです。

日本生産性本部が新入社員に毎年実施している「働くことの意識調査」でも、2003年以降から「働く目的」の最上位が「経済的に豊かになる」ことや「自分の能力をためす」という項目ではなく、「楽しい生活をしたい」となっています。人生を楽しく、充実していきたい。そのとき、何も上に立つこと、目立つことが、人生を楽しく生きることにつながるとは思えない。こうした意識が見えてきます。

この回答を見て、「だから最近の若いやつらはダメなんだ」と思う人も多いでしょう。「仕事なんてそんな甘いものじゃない」「生活を犠牲にするから給与がもらえるんだ」「責任ある立場になることで人は大きく成長するんだ」。今の40代以上はそういう考え方を持っている人も少なくないかもしれません。

でも、そういって若者を説得できるでしょうか。

問われているのは、管理職という存在だけ?

この若者の価値観の変容は、時代の大きな変化と連動しています。バブル崩壊以降に見せてきた人と組織との関係の崩壊は、企業社会に依存する人生の怖さと難しさを若者たちに植え付けてしまいました。情報技術の進化によるボーダーレス化は、フラットに人とつながる行動原理を育んでいます。教育システムも紆余曲折しながらも、社会の問題と向き合える人づくりが徐々に進んでいます。

若い人たちはすでに、これまでの多くのしがらみ、枠組みから解き放たれて、人生を豊かに生きていく、自分らしく生きることを模索し始めています。ところが企業に入ると、思いや夢を聞かれることも、ボーダーレスにつながることも、社会のために意味あることをしようという意志も感じられなくなる。目の前の業績を出すことに追い立てられ、組織の論理に振り回されていく。その象徴的存在が、管理職なのです。

管理職を魅力的な存在に変えられるのか、若手の価値観や意識を変えるのか、あるいは管理職という存在を軸に動かしてきた企業システムそのものあり方を根幹から変えるべきなのか。少なくとも、このままでは今の管理職を中心にしたマネジメント構造を維持するのは難しくなるでしょうし、自らリーダーシップをとる人も生まれなくなります。

今、管理職を軸にしてきた組織マネジメントのあり方が、根幹からの「問い直し」を迫られているのです。

(高橋 克徳 : ジェイフィール代表取締役、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授)

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