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2017年12月15日 15時20分 JST | 更新 2017年12月15日 15時21分 JST

ヨーロッパに翻弄されたエルサレムの歴史 トランプ発言でアラブ諸国にテロや暴動の可能性も

「不満や怒りは自国の政府に向かうはずだ」

 「エルサレムはイスラエルの首都だ」。トランプ大統領による決定が世界に波紋を広げている。

 イスラエルのネタニヤフ首相は「エルサレムはこれまでもずっと我々の首都であり、ほかの民に属したことは一度もない」「だからこそ、トランプ大統領の発表は歴史的であり、平和にとって極めて重要なのだ」とコメント。パレスチナ自治政府のアッバス議長は「トランプ大統領の決定は全く受け入れられない。アメリカのこうした姿勢は、中東地域での政治的な取り組みを放棄するものでで、はや役割を果たしていない」と厳しく批判。さらにパレスチナ自治政府は9日「アメリカとはいかなる協議も行わない」という声明を出し、予定されていたペンス副大統領との会談を拒否する意向も明らかにしている。

 13日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、積み上げられてきた和平へのプロセスをひっくり返す"ちゃぶ台返し"に揺れる中東情勢を読み解いた。

■ヨーロッパに翻弄されたエルサレム

 城壁に囲まれた旧市街地、エルサレム。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教の聖地が存在する土地でもあり、イスラエルとパレスチナが互いに帰属を主張し、幾度となく武力衝突を繰り返してきた。

 今から3000年前。エルサレムにはユダヤ人の王国があり、ユダヤ教もここで生まれた。しかし紛争によって王国は滅ぼされ、ユダヤ人の多くが追い出されてしまう。ローマ帝国の支配下の時代にはキリストがこの地で誕生したことから、キリスト教の聖地となる。638年、今度はアラブ勢力が占領、イスラム教の預言者が昇天した岩が置かれ、イスラム教の聖地にもなった。16世紀ごろからはオスマン帝国が長期支配を続け、3つの宗教を信じる人たちが共存してきたものの、20世紀に入りイギリスが支配。第二次世界大戦後、そのイギリスが撤退すると世界中に散っていたユダヤ人が集まり、イスラエルを建国。エルサレムを首都だと主張してきた。

 そして1993年に入り、ようやくイスラエルとパレスチナ解放機構が「オスロ合意」で歩み寄り、エルサレムについても和平交渉の中で協議するとされた。

 内藤正典・同志社大教授は「イスラム教徒の国であるオスマン帝国はキリスト教徒・ユダヤ教徒から税金を取っていたので、たしかに平等ではなかったが、彼らを根絶やしにしようとは全く思っていなかった。むしろ保護しなければいけないという責任を追い、共存してきた。そこにちょうど100年前、イギリスの外務大臣バルフォアが、ユダヤ国家の建設を目指すシオニストに宛て書簡を出した。"国"ではなく"ナショナル・ホーム"という曖昧な言い方にしておいて、"大英帝国は援助を惜しみませんよ"と。しかし一方でイギリスはアラブ人にも独立を認め、フランスと一緒に中東全域について国境線を引き、分断してしまった。同じ民族、宗教の人々が国境によって無理やり分断され、"国家が絶対ですから従いなさい"と言われても、うまくいくはずがない。イギリスやフランスは、中東やアフリカで植民地を持っていたことをただの一度も謝ったことがない。あったことをなかったことにしてしまうのは絶対にだめだ」と説明する。

 「そもそも"中東の民族"というのは、イギリスやフランスが持ち出したもので、それをめぐって争ってきた。しかし今、民族ではなく、イスラム教に帰ろうという動きも出てきている。極端に言えば、『イスラム国』の発想にも近づいていってしまう。今回の決定は、二つの国家が共存する道を断ってしまう可能性がある。憤ったパレスチナの人々の敵意がイスラエルの人たちに向かうことになる。イスラエルの市民としても、必ずしも歓迎しないだろう。イスラムの敵と闘う、それがジハードだと思い込む若者を増やすことは目に見えている。中東でまた人の命が奪われてしまう」(内藤教授)。

■アラブ諸国でのテロや暴動につながる可能性も

 アメリカ議会はクリントン政権時代の1995年、大使館をエルサレムに移転する法案を可決している。その一方、歴代大統領は中東和平を損なわないよう、移転の実施は見送ってきた。しかしトランプ大統領は今年5月、現職として初めて、エルサレムにあるユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を訪問。親イスラエルの立場を鮮明にした。

 内藤教授は「サウジアラビア、イラク、クウェート、UAE、カタール、バーレーンなど、ペルシャ湾岸の産油国には米軍基地があり、反政府活動などを押さえ込み、既得権益を守ってもらっている。そうしたアラブ諸国のリーダーたちは、トランプ大統領の決定を知っていて、仕方ないと黙認したんだろうと思う。きつい言い方すればグルだったということ。これらの国は政情不安になればアメリカから武器を買うし、イスラエルもアメリカから武器を買う。トランプ大統領はさすがセールスマンだ。そして油価が上がれば、アメリカはシェールガスでさらに儲かるようになっている。ビジネスチャンスを活かすのはいいが、これから中東をどうするのかという構想がトランプにあるのか。アメリカ国務省の人たちにとっても悔しい話だと思う」と話す。

 中東21か国からなる「アラブ連盟」は、アメリカの決定の撤回を求める共同声明を出しているが、内藤教授はこれについても「言っていることは正しいが、行動に移すことはしないだろう。確かにトルコは怒っているが、サウジアラビアは外務省の代表しか送っていない。もし本記だったら要人を送ってくるはず。トランプ大統領も、アラブ諸国は何も出来ないだろうと読んで、このタイミングで決定したのだろう」だと指摘した。

 イスラエルのテルアビブではアメリカへの抗議の声が上がっており、同様の抗議デモは世界各国で巻き起こっている。今回の決定が、第5次中東戦争の引き金になるのではないかという見方さえ出てきている。

 「ありえない。最後にアラブ諸国がパレスチナと連帯してイスラエルとたったかったのは1973年。それ以来なにもしていない。むしろ裏切りに裏切りを重ねてきたのはアラブ諸国だ。人権を奪われているのは市民で、そのために国家は働かなければいけないのに、イスラム教徒が多数を締めている国が、困窮しているイスラム教徒に手を差し伸べなかった。アラブ諸国の国民にもそれが今回見えてきたはずで、不満や怒りは自国の政府に向かうはずだ。テロや暴動が増える可能性が増える可能性もある」(内藤教授)。

 プーチン大統領も「複雑な情勢を不安定にするだけだと考えている」とコメント、フランスのマクロン大統領は「容認できない残念な決定であり、国際法と国連安保理決議にも抵触する」と発言、批判の声は欧州からも上がっている。しかし内藤教授はEUの中にはアメリカに同調する国も出てきているとして、イスラエルの外交戦略はこのEUの分断を突いてくるだろうとの見方を示した。

 そんな中、菅義偉官房長官は「本件の動向については大きな関心を持っており、これからも注視して参りたい」とコメント、河野外務大臣は「トランプ氏が恒久的な和平合意の促進への強固なコミットメントと二国家解決への支持を表明したことは評価する」としている。

 「確かにトランプ大統領もこのことに触れてはいるが、演説の肝ではない。JICAも協力して日本は援助を続けてきたのに、もしここでトランプの方に行っちゃったら、いままでの努力がフイになってしまう。やっぱり世界各国で、何が正しいのか、何が間違っているのか、市民のレベルで言い続けるしかないんじゃないか」(内藤教授)。

(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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