これからの経済
2017年12月18日 05時00分 JST | 更新 2017年12月18日 16時23分 JST

会社で「安心・安全な場」をつくるのは、マネージャーの責任。

ユニリーバの島田由香さんと白河桃子さんに聞いた

「リーダーシップも働き方改革も、自分を知るところからスタートする」

働く時間・場所を社員が自由に選べる新人事制度「WAA」を2016年にスタートさせた、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社取締役、人事総務本部長の島田由香さんは語る。

政府が働き方改革を掲げ、個人の働き方も大きな転換期を迎えている。

自分の思い込みに気づく4つの質問とは?「働き方改革って生き方を決めること」と語る島田さんと、働き方改革実現会議の民間議員で「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」を出版したジャーナリストの白河桃子さんに、個人ができる働き方改革・実践編について聞いた。

Kaori Sasagawa
(左)島田由香さん(右)白河桃子さん

(これまでの記事)

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日本の働きすぎは「管理職がマネジメントをしていなかった」から

個人が、働き方を変えるために大切なこと

ーー働き方改革を進める上で、島田さんのような人がいない会社はどうしたらいいんですか?

島田:誰か必ず本当に変えたいとパッションを持っている人が会社にはいるはずです。役職がある人がそうだった場合のほうがいろいろやりやすいかもしれないですが、そうでなかったとしてもパッションがあれば必ずやれます。

しかしながら、誰もいないということが壁になってしまうようだったら、しなくてもいいんじゃないかと思います。私は人生は4つのことで決まると思っています。好きか嫌いか、やるかやらないかです。

Kaori Sasagawa

ーーシンプルですね。

島田:いや、本当にそうなんですよ。その組み合わせでいろいろな判断や評価を私たちは瞬時にしています。「やりたいな~」と思ったんだったら、やればいいんです。「でも...」っていくつもやらない理由を言うなら、やらなければいいんです。

やらない理由、できない理由、難しい理由は100万と出てきます。でも同時にやれる理由もそれ以上に出てくるけど、あなたどっちにする? これがマインドセットだと思うんですよ

ーーマインドセットをするために、どんなことができますか?

島田:マインドセットを変えるといっても、難しいですよね。大切なのは、「本当にやりたいのか?」を自分にとことん聞いていくこと。自分の中にある神話を疑ってみるということです。

WAAの考え方に共感してくださった方でつくる「Team WAA!」は、今800人ぐらいのコミュニティになっています、毎月のセッションでは、誰かゲストをお呼びし、ディスカッションもして、確実にアクションにつなげていっています。7月のセッションでは、航空自衛隊の人事教育部長の方をゲストにお呼びしました。

そこで使われた言葉が「神話」だったんですね。「どれほどの神話が自分の中にあるのか」と。つまり思い込みです。たとえばリーダーを巻き込むのは大変、社長を変えるのは大変、それも神話ですよね。その神話を、1回デソシエーション(自分を客観視する状態)して見るわけです。

白河:デソですね。

「どうせできないだろう」マインドをどう乗り越えるか

ーー「どうせできないだろう」というマインドがまだ根強いと思っています。普通の一般の社員がリーダーやマネージャーを巻き込んで、制度を浸透させるためというのは大変だと思うんです。そこをどうしたらいいでしょうか。

白河:下からはじめて、上につながったということが結構あります。若い女性だったり、ワーキングマザーだったりするんですよね。今の状況が非常に働きにくいとか、今はいいけど将来働きにくくなるとわかっている人たちが行動を起こすと、今は働き方改革の波があるから聞いてもらえるんです。

たとえば、(飲食メーカー)キリンの「なりキリンママ」というプロジェクトは社内で大きく広がろうとしています。あれは子どものいない営業女性5人でやった実践で、良い結果をみんなに共有した。実践するときに多くの人を巻き込んで、そこから広げていった。上を巻込む上で結果ってすごく大事なので、数値はちゃんと出したほうがいいです。

Kaori Sasagawa

ーー印象的な会社はありますか?

島田:Team WAA!にも参画しているNECマネジメントパートナーズさんがとても印象に残っています。人事ではない社員の方たち主導でテレワークを全社に広げた事例です。

テレワークの制度自体はあったけれど形骸化していたり、知られていなかったり。それが女性活躍推進活動でのある女性社員のある発言がきっかけとなり、テレワークの有効性を実証する働き方委員会が立ち上がりました。

その女性社員が言ったことは「プロとして働きたい。そしてフレキシブルに働いて効率化させたい!さらにライフも充実させてわくわくな人生を送りたい!」ということ。その声がきっかけとなって賛同する有志を公募、集まった59人で活動をスタートしました。

ーー有志から始まった。

島田:2015年はテレワーク実施人数が制度対象2400人のうちの4人だけ。それが活動の結果、2017年は9月までの9カ月間で681人が利用、実施者の69%が生産性の向上を実感、上司や同僚の70%がテレワークによる業務の支障なし、と回答しました。

ある社員が声をあげて、それに響いた社員が動いたこと、それが人事ではなくて現場の社員だという点、公募で同じパッションを共有するメンバーが一緒にやって確実に変化を起こした点、素晴らしいと思います。

白河:関西の人がやってたのは、ダイバーシティ西日本という試みです。関西企業ってすごく保守的なんですね。そこでトップ35社で「他社さんもやってます。うちもそろそろやったほうがいいんじゃないですか?」というのを勉強会で共有しているんです。足並みを揃えられる。そういうことも結構重要ですね。

マインドセットを変えるための4つの質問

島田:マインドセットを変えるときは、自分を知ることが大切で。実はリーダーシップもダイバーシティも、働き方改革も、自分を知るところからスタートするんですよ。

1つ参考になるのが、4 whatというものの見方。4つのキーワードがあって順にものを見ていくんです。

最初がwhy(なぜ)です。たとえば、なぜこの仕事をやっているんだっけ?と問いかける。

次はwhat(何)。何をやってるんだっけ? 何をやるんだっけ?

次はhow(どうやって)?どうやるんだっけ。

最後がwhat if(もし〜だったらどうなるか)。この学びを次に繋げたら何が起きるの? 1回このプロセスを経たら次はどうできるのか?

この4つを順番で見ていくんです。

自分のキャリアがわからなくなったとき、仕事にやりがいを感じられないとき、なんでだろうと掘り下げる。結局whyが一番の肝なんですね。ビジョンがなければ腹落ちできないから。人はこういうプロセスがあることで安心するんです。

Kaori Sasagawa

whyがないと、howを知っても意味がない

白河:私はいろんな人に働き方改革の悩みを打ち明けられるんだけど、人事の人たちに一番聞かれるのは、(働き方改革を)やらなければを押しつけられれて、「どうやったらうまくいくんですか?」ということ。結局みんな、howが知りたくて来ちゃうんです。

島田:それだと「なぜ働き方改革をしないといけないの?」に答えられないですよね。

白河:他社の事例はいっぱいあるけど、他社なりのビジョンや理由があってやっているわけです。whyがないとできない。人事の人が「やれ」といわれたときに本当にやることは、まず「なぜやるんですか?」って上に問い返すことなんじゃないかなって思います。

島田:同じことをするのではなく、whyが大事。

白河:whyは、それぞれ違うから。あなたの会社の課題を解決するためにやるわけで、それは人手不足かもしれないし女性が辞めちゃうことかもしれない。そこをすっ飛ばして、なぜかみんなhowからやろうとしている。whyを深堀りして、やるかやらないかをまず決めないと。

女性活躍とかダイバーシティは、小手先でやったら絶対失敗するし売上が落ちます。みんながやってる、政府に言われたからでは乗り切れない。

本当に、女が料理をしなければならないの?

島田:whyを聞くのは、自分の制限的思考を知ることにつながるんですよ。

たとえば、「女は料理をしなければならない」という思考があったとします。私にそれがあったんです。無意識に、「女が料理をしなければならない」とどこかで思っていて、でも「why? なんで女なんだっけ ?」と思ったんですよ。

白河:いいですねー。すごいwhyね(笑)。

島田:子育てと仕事の両立もそうですけれど、全部ちゃんとしなきゃって、どこかで思っていたんです。私はこれを手放せて、すごく気が楽になったんですよ。

料理が好きじゃないと言うことにも、最初は恥ずかしいとか、そんなことを女が言うべきじゃないとか、自分の中に制限がありました。、でも、別にそれでいいじゃないかと思って手放せたときに、ものすごく楽になりました。好きじゃなくてもも子どものためには作ろうと思うし、どうせ料理をするならおいしいものを作ろうと思えるから、「料理が好きじゃないです」って言うことが全然制限じゃなくなったんです。

ーーとても参考になります。

会社で、安心・安全な場所を作る方法

竹下:安心・安全な場の話に戻るんですけど、正直に話すのも勇気がいるじゃないですか? 「料理が好きじゃないです」と、オープンな場や社員の前でいうのは、すごく勇気がいると思います。そのセーフティーゾーンは、どういう風にキープしたらいいんででしょうか。

島田:安心・安全な場をいかにつくれるかが、実はマネージャーに求められる最大の能力の1つだと言えると思います。やっぱり一番自分の近いところからでいいんです。社長がいきなり全社員に、というのも抵抗があると思うから。

私は直属の部下のチームに、いつも最初に相談してフィードバックをもらう。一番心理的距離が近いからです。一番近い人たちとの間で、安心・安全な場をどうつくるか。そのためにはリーダーが自分から開示しなきゃいけないです。やっぱり恐怖があるし、恐れがある。でもリーダーが強くなきゃいけない、というのも神話なんです。

ーーたしかに。

白河:本にも書いたんですけど、慶應大学でイノベーションを創出する研究をしてる先生が、企業にいくと「うちの会社、同じぐらいの年の男ばっかりでダイバーシティのカケラもないんですよ。こういうところにイノベーション起きないですよ、とよく言われるんですよ」と言っていたんです。

でも男の人だろうが、みんな個人に立ち返れば、ひとりの人間で、開示すれば実はいろんなことがある。それを今まで押し殺してきたのが日本の働き方や企業の文化で、ちょっと開示するだけでもだいぶ違うんじゃないかな。いろんなことが起きてくると思います。

Kaori Sasagawa

個人の働き方、本当に大切なこと

ーー働き方改革について、何か最後にメッセージを。

白河:私は、人事も大切ですが、個人の生産性という問題ではなくて、経営者も覚悟を持たなければいけない。働き方改革は経営課題の最たるものだと思っています。

個人が、覚悟を決めない経営者を見限ることも重要だと思います。みんな真面目過ぎて、苦しみ過ぎていますよね。今いくらでも働きやすいところある。変わるところはどんどん変わっているので、知らないのはもったいない。世界を広げるためにどんどんつながって話してほしいです。

島田:最後に伝えたいのは、一番大切なのはやっぱり幸せであるということ。

働き方改革は生き方を決めること。みんな幸せになりたいわけじゃないですか。経営者から、変えていって欲しい。会社が変われば、社会が変わる。社会が変われば、国が良くなる。会社が次にどうなっているかというビジョンを持つ、いい機会なんじゃないかなって思うんです。