「いつでもクビにできる」 上司から「日本の法律無視」の退職強要を受けたと男性が提訴

上司も本人も外国籍で日本語は使えず…
Kazuki Watanabe / HuffPost

グローバル人材向けのリクルート会社に勤める外国籍の20代男性が、勤務先の上司からパワハラや違法な退職強要を受けたとして、会社と上司に慰謝料や未払い賃金など約870万円の損害賠償などを求める訴えを12月20日、東京地裁に起こした。原告男性と代理人弁護士が東京・霞が関の厚生労働省で記者会見し、明らかにした。

公用語が英語。男性も上司も外国籍で日本語を話さない。そんな職場で起きた労働トラブル。男性側の代理人・板倉由実弁護士は「日本の労働ルールが浸透していない職場で、不当に扱われた外国人労働者が、言語の壁から泣き寝入りするケースが多くある」と指摘した。

まず、事件の流れを整理する。

訴状と原告側の説明によると、訴え出た男性はフランス国籍の20代で2015年12月、リクルーターとして採用された。

2017年6月、男性が紹介したある候補者が、顧客企業に採用された。しかし、採用された候補者は、給与に35時間分の固定残業代が含まれていることを「知らなかった」「残業代が支払われない」と不満を抱き、8月に退職した。

ただ、リクルーターである男性自身も「固定残業代については知らされていなかった」ため、自分に責任はないと考えていた。採用後に交わされた内定通知書でも、35時間分の固定残業代について説明はなかったからだ。

ところが、この一件を理由に、男性は1週間の停職処分を言い渡され、パソコン等へのアクセスが禁じられた。

さらに9月5日、男性は上司に呼び出され「退職か、降格か」という2択を突きつけられた。

降格を受け入れて、リクルーターとして会社に残る選択肢も用意されていた。しかし、降格後には、会社のリクルーターが通常利用する転職掲示板へのアクセスを禁止すると言われた。

そのうえで、男性は特定の業界の特定の役職・経験を有する転職候補者と「1週間に5人以上」直接面談するという目標を課せられた。

転職希望者と出会うきっかけが、勧誘電話とイベントへの参加などに著しく限定される中で、「目標は達成不可能だった」と男性は言う。

実際のところ、当の上司も、男性に向かって「もし、私があなただったら他の会社で新しいスタートを考えるよ」と話したという。

激しい言葉で...

男性は「私が何か悪いことをしたという理由を知りたい、客観的な証拠を示してと言ったのに、それは一切出てきませんでした」と嘆く。

処分に納得がいかない男性は9月8日「退職もせず、降格も受け入れない」と伝えた。だが、上司には、あなたは降格だ。目標を達成できなければクビだと言われたという。

さらに上司は、次のようにまくし立てたという。

「もし拒否したら懲戒処分だからな、解雇まで警告書を出し続けるからな、簡単なことだよ」

「何の書類もいらない。解雇するためにはメールで十分。良い選択肢を与えているのに、なぜ戦うのか理解できないね。私たちはいつでもあなたを解雇できる」

「あなたのための場所はない。結局解雇なのだから。あなたは自分で勝手に問題を発生させているだけで、私たちはあなたを解雇する。オーケイ? もう1カ月だけここにいたいのなら自由だが」

「バカだよ、どうしてこんなことしたいの? 単なる好奇心? なぜ歓迎されていない場所にいたいの?」

「じゃあ、月曜日の朝に」

男性はショックを受け、不眠や焦燥感で体調不良になった。

診断書を出したのに...

病院で診断を受けた男性は、9月11日の朝9時ごろ、上司にメールで「診断書を送ります。残念なことですが、治療のために数週間の休みが必要です」と連絡した。

それに対する、上司の返事は「LinkedInの個人アカウントパスワードを教えろ」というものだった(※LinkedInは世界最大の転職SNS)。

「大事に至らないといいね。気分がよくなったら、(降格された立場で)君が戻ってくるのを待っているよ。君のLinkedInの経歴を、新しい肩書きと職責にアップデートしなければならないので、アカウントのパスワードを教えてください」(上司からのメール:9月11日9時6分)

「午後5時までにパスワードを渡さなければ、汚点のついた君の人事記録に、さらなる懲戒処分をするぞ」(上司からのメール:9月11日12時49分)

記者会見で

男性はただでさえショックなところに、このような追い打ちを受け、会社に行けなくなったと話す。いまも通院中で「毎日悪夢を見る」ため、睡眠薬と抗不安薬を飲んでいるという。

「大手のグループ企業なら、労働法規が守られていると思っていました。ところが、私が上司から受けたのは、ハラスメントとしか言いようのない扱いでした」

板倉弁護士は「停職や降格処分は無効で、職場でのパワハラについては会社にも責任がある」と話した。

会社側はハフポスト日本版の取材に対し、「担当者が不在で、折り返し連絡する」と答えた。

社員の半数以上が外国籍で、社内では英語が公用語。

板倉弁護士は「このような職場では、日本の労働法への理解も足りず、日本の法律では違法になるような退職強要が多く行われています」と話す。

外国人労働者は解雇されたら在留資格がなくなる可能性もあり、日本人労働者と比べて不安定な立場にいる。そのうえ、言葉の壁から違法な解雇にあっても泣き寝入りをする事例が多いという。

板倉弁護士は「今回の事件は象徴的。日本で働く外国人労働者へのサポートがもっと必要だ」と話していた。

注目記事