「海賊版サイトは潰すのではなく競争して勝つべき」 マンガ『やれたかも委員会』の作者、吉田貴司さんは訴える

本が売れないのは本当に海賊版サイトだけのせいなのか?
書店の写真
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Ina Fassbender / Reuters

2017年の漫画単行本の売り上げは前年比13%減と大幅に縮小した。その一端にある、と指摘されているのが、商業漫画をタダで読ませる「海賊版サイト」の存在だ。

しかし、その取り締まりは困難を極め、出版社と海賊版サイトのイタチごっこが続いている。

だが、「海賊版を潰そうとする前に、やるべきことがある」と、漫画家の吉田貴司さんは話す。

吉田さんは、従来のレールから外れた"異端"の漫画家だ。

自分のマンガ『やれたかも委員会』の著作権は、すべて自分で管理している。

作品を連載するのはネット上。紙のマンガは双葉社の発行だが、「電子書籍化は自由、映像化など二次利用もすべて作者管理」との条件付きだ

『やれたかも委員会』より
『やれたかも委員会』より
(C)吉田貴司

吉田さんはハフポスト日本版の取材依頼メールに、次のような回答をくれた。

吉田さんはこう語る。

《海賊版は潰すべきではなく、ビジネスで競争して勝つべきだと考えます。法的措置や閉鎖させる運動は全く意味がなく、逆効果です。人は便利な方に流れる生き物なので、それを綺麗事を叫んで止めても無駄。意味がない。》

極論だが、その背景にあるのは、現状の出版界への危機感だ。

《海賊版サイトは違法(※)ですが、それに対する出版社、出版関係者の現在の対応は最悪だと思います。そもそも本が売れないのは「本当に海賊版だけのせいなのか?」とみなさん落ち着いて考えて欲しいです。》

《海賊版は昔からありますし、これまで何個も潰したけれど、漫画単行本の売り上げは2005年から下り続けています。(海賊版サイトの)「はるか夢の趾」と「フリーブックス」を潰しても売り上げは1円も上がってません。下がってる。

海賊版サイトを潰しても下がるなら、原因はそれじゃないと考えるのが普通じゃないでしょうか。分かりやすい敵を一つ決めると、解決策を練る努力をしなくて済むので楽です。》

(※編集部注)海賊版サイトに典型的な「リーディングサイト」と言われるタイプの場合、著作物の無断での「複製」と「公衆送信」に該当し、日本の法律では著作権侵害にあたる。一方、海賊版のマンガを見る行為自体は通常は違法ではない。

閉鎖された漫画・雑誌などの投稿サイト「Free Books(フリーブックス)」。(※画像の一部を編集部で加工しています)
閉鎖された漫画・雑誌などの投稿サイト「Free Books(フリーブックス)」。(※画像の一部を編集部で加工しています)
「Free Books」のトップ画面

では、海賊版サイトだけが問題ではないしたら、どんな「打開策」があるのだろうか。

《出版社の漫画本と電子書籍の売り方は果たしてベストなのか?

なんで紙と電子が同じ値段なの?

パックして積んでおけば売れる時代ですか?

何でこんなに種類が多いんですか?

種類が増えて、中がわからなくて、1冊500円で、面白くなくても返品不可のおみくじみたいなもの、買いますか?

価格、売り場、見せ方、漫画の作り方、全部正しいですか?

売り方が20年変わってない。コミックのビニールカバーひとつ外せない。最近はスピンオフ(内輪受け)を量産して外へアプローチしてない。そりゃお客さんは離れて当然ではないでしょうか。》

売る側の都合で決まっていることが多すぎないか、というのが吉田さんの指摘だ。

《そういった改善策を全て棚に上げて、出版社がやっているのは読者と作者を煽りまくっての海賊版叩きです。最悪の悪手だと思います。わざとかな?って思うくらい。

単行本は出版社の商品で、それが時代の流れで売れなくなった。じゃあ売り方のアイデアを会社内で出しあって改善策を練るのが企業として当たり前のことじゃないでしょうか。何で出版だけいつも国とか読者に守られて海賊版のせいにできるんだろう?と思います。

作家はそういう会社に自身の作品を電子権も映像権も全て預けている。今の時代そのことにもう少しだけ自覚的になるべきではないでしょうか。》

「海賊版叩きの悪いところはまだあります」と、吉田さんは続ける。

《海賊版サイトを利用している人は漫画を読む習慣がある人。基本的に漫画を好きな人たちです。一般の人(漫画に普段興味のない人。=日本のほとんどの人)は海賊版サイトなんか読みません。そんなもんより、嵐とか、ドクターXとかを見てるんです。》

《世の中には漫画に興味のない人の方が圧倒的に多い。せっかく漫画を読む習慣のある人を悪者にしてはダメです。漫画を読む習慣がある人が一定より減って、一部のマニアだけのものになったら、いよいよ漫画は終わりです。落語とかプロレスみたいにエンタメの第一線から退くことになるでしょう。

物事には必ず良い面と悪い面があります。海賊版サイトは著作権侵害をしていますが、出版社が漫画の売り方を改善しないせいで漫画から離れようとしている一般読者を繋ぎ止めている一面があります。》

イメージ画像
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Getty Images

《じゃあどうすればいいかと言うと、今もある海賊版サイトを利用している人が、「この値段でこのシステムだったら利用しようかな」と思える定額読み放題サイトを作るべきだと思います。今も読み放題サービスはあるけど、本の数が圧倒的に少ない。読みたい本がない。》

《今、問題視されている海賊版サイトをよく見てください。エロ広告もガンガン出るし、全然いいサイトじゃない。運営元も謎だし、ウイルスも怖い。読書体験として質が低い。ただコンテンツが多いだけ。

そんなものより出版社が協力すれば、より便利で優良な定額課金システムを作れると思うんですけどどうでしょうか。ダメなのかな?》

吉田さんは、こう危機感を表明する。

《このままいくと、それを外資のKindle Unlimitedにやられます。そうなると、読者はそれでいいでしょう。定額読み放題で読める作品が増える。海賊版もある程度なくなるでしょう。

でも作者側からすると、売り上げからAmazon Kindleと取り次ぎと出版社、少なくとも3つ以上から抜かれることになるので、大したお金が入ってこないと予測されます。

それでもみんな出版社と組むのかな。それとも同人で電子を出す活動が増えるのかな。それはまあわからないですが。》

AmazonのFireタブレット
AmazonのFireタブレット
Bosca78 via Getty Images

吉田さんは、「個人的にやってほしいことは、いくつもある」という。どんな内容だろうか?

《まず、マンガのビニールを外して、コミックス売り場に人を戻してほしいです。あと、出版点数も減らして、きちんとセレクトしてほしい。

僕は商店街にあるような古本屋が好きなんですが、ああいう店はおっさんが1人で置く本をセレクトしているから棚を見ているだけで面白い。お店の中から「知」の匂いがします。そういうのがあれば売り場に人は来ます。》

《あとは電子の価格を下げてほしい。在庫も抱えないのに何で紙書籍と同じなんだ?そして人気作を網羅した定額読み放題を作る。本で買うか電子で買うか読み放題で済ませるのか。読者にストレスなく選択させないとダメでしょう。》

本気で呼びかける一方で、吉田さんは楽観的でもない。

《しかしながら僕がたった10年ですが、出版社の方々と接してきた感覚だと、多分今後も変われないだろうなと思っています。僕が言ってることなんか何も新しくないし、過去に色々な人が言ってきたことです。それでも変わらなかった。ブックオフの時も自炊業社の時もTPPの時も敵を一つ作って攻撃して、国に守ってもらおうとした。》

《まあ今回も無理でしょう。これからも出版点数を増やし、ビニールをかけて売り続け、海賊版を叩き続けるでしょう。そもそもよく考えると「出版社変わってください」って社外の人間である僕が言うこと自体がおかしいですし。

「頑張ってください。できれば海賊版を攻撃しないでください。」ぐらいしか僕は言う権利はないのかなと思います。僕は僕で自衛することで精一杯です。》

海賊版サイトをめぐっては、漫画家や出版関係者、漫画を愛する読者の立場から、さまざまな意見が交わされている。

吉田さんは、海賊版サイトについてTwitterで「海賊版サイトなんかハナクソみたいな問題で叩いている人は『タダ読み=泥棒』から思考停止してる」と見解を述べていた

今回のインタビューを受けるべきか葛藤もあったと言うが、以下のコメントとともに、「一漫画家」として取材を引き受けてくれた。

「僕は成功者でもないし、特にめちゃくちゃ漫画界や海賊版に詳しいわけでもない。でも(取材の)ご依頼をいただいたということは、僕のTwitterやインタビューでの発言が、今の世の中の考えの流れと全く違うからだと思います。

確かにネットができてから考え方が一方向に流れがちで、そういった雰囲気が海賊版の考えにもあるような気がしますので、一漫画家の立場から、そこに一つ石を投げこめればいいかなと思います」

今回、吉田さんが投げ込んだ一石は、思わぬ波紋を広げるかもしれない。

でも、もし海賊版サイトに対抗するため、どんな方法を取るべきかという点で意見が食い違っても、「漫画が好き」で「漫画文化を守りたい」という根底にある想いは同じはず。

漫画を守るために、前向きな議論を深めていきたい。

吉田 貴司(よしだ たかし)さんプロフィール】

2006年「弾けないギターを弾くんだぜ」でデビュー。 これまで「フィンランド・サガ(性)」(講談社刊)「シェアバディ」(作画:高良百)(小学館刊)などを発表。 2016年「やれたかも委員会」がネットで話題に。単行本1巻(双葉社刊)が現在発売中。

ハフポストでは、今後も海賊版サイトの問題や出版界の未来について考えていきます。aya.ikuta@huffingtonpost.jp にご意見をお寄せ下さい。

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