ギブソンが経営悪化。ムーディーズの担当者「今年は危機的だ」

レスポールを生み出したエレキギターの老舗が苦境に陥っている。
レスポールのエリック・クラプトン「ビーノ」モデル
レスポールのエリック・クラプトン「ビーノ」モデル
GABRIEL BOUYS via Getty Images

「レスポール」などの名器で知られるアメリカのギター・メーカー「ギブソン」の経営が悪化している。

ムーディーズが2017年8月に、ギブソンの格付けを下から3番目に低いCaa3に引き下げたばかりだが、今度は本拠地を置くテネシー州の地元メディアの報道がきっかけで「倒産の危機」という話が広まり、世界中のギターファンを驚かせている。

■ムーディーズの担当者「今年は危機的だ」

ナッシュヴィル・ポストの2月9日の報道によると、ギブソンは3億7500万ドル(約400億円)の担保付き約束手形が7月23日に返済期限を迎えると報じた。

手形を更改できなかった場合、別の1億4500万ドル(約155億円)の銀行ローンを支払わなくてはならないという。

このメディアは「残された時間は少ない」と見出しにとり、ギブソンの格付けを引き下げたムーディーズの担当者、ケヴィン・キャシディ氏に取材した。

彼によると、ギブソンのヘンリー・ジャスキヴィッツCEOには「3つの選択肢しかない」という。

「一つは、支払期限が迫っている負債を、新しい手形と交換できないか交渉することですが、適正な価格にはならないでしょう。

もう一つは、負債の支払いと引き換えに、自分の持株を売ることです。

この2つともうまく行かない場合には、ナッシュビルに本拠を置く世界的なブランドが倒産裁判所に呼ばれることになるでしょう」

キャシディ氏は「今年は危機的だ。ギブソンに残された時間は急速になくなっている」と結んでいる。

この報道を受けてCNBCや、VARIETYインディペンデントなど世界中のメディアが「ギブソンが倒産の危機に直面している」と報じた。

一方、ギブソンは倒産危機の報道を否定した。デイトン・デイリーニュースによると同社は、手形は問題なく更改できるとしている。辞任した最高財務責任者(CFO)のビル・ローレンスの後任として、ベンソン・ウーが復帰するという。

ギブソンはアメリカ国内に3つある生産拠点の一つ、メンフィスの工場を規模を縮小して移転することが2017年10月に報じられたほか、東京・八重洲に設置したショールームを12月に閉鎖。経営悪化の影響ではないかと推測する声が出ている。

■エレキギターの売上げが急激に低下

ポール・マッカートニー(2017年撮影)
ポール・マッカートニー(2017年撮影)
Reuters Photographer / Reuters

ワシントンポストは2017年10月に、過去10年間でエレキギターの売上高は、年間約150万台から年間100万台に急激に低下したと報じた。

ギブソンとフェンダーの2大企業は負債を抱えており、業界3位のPRSギターはスタッフを削減し、安価なギターの生産を拡大しなければならなかったという。

ポール・マッカートニーは、ギター不振の原因について同紙のインタビューで残念そうに振り返っている。

「電子音楽が増えて、若者は以前と違った聴き方をしている。私はジミ・ヘンドリックスに憧れたものだが、ギターのヒーローは、もういないんだ。かつては誰もがギターを欲しがったものだが......」

■ギブソンとは? 拡大路線で日本のティアックを買収

石橋楽器によると、ギブソンは1902年創業した。1952年の「ES-150」を皮切りに、レスポール、フライングV、エクスプローラー、SGなどがエレキギターの名器を輩出した。

ギブソンを愛用しているギタリストには、エリック・クラプトンのほか、ジミー・ペイジや、スラッシュ、カルロス・サンタナらが挙げられる。人気アニメ「けいおん!」の主人公、平沢唯も劇中でレスポールを使っている

エレキギターの売上低下に伴い、ギブソンは近年、ギター専業メーカーから総合音響メーカーへの脱皮を進めていた。

2013年に日本のオーディオメーカー「ティアック」を買収し、オンキヨーの主要株主となり資本提携した。翌2014年には、オランダの電機メーカー「フィリップス」のオーディオ部門を買収し、ヘッドフォン、スピーカー、デジタルレコーダーをギブソンのブランドに追加していた。

老舗ギターメーカーの行方に注目が集まっている。

注目記事