アカデミー賞の辻一弘さん、高校時代の異能ぶりを恩師が語る

彫刻刀とサンドペーパーだけで生み出した作品「発想、表現、技術のすべてがあいまっていた」
辻さんが高校時代に制作した木彫の作品
辻さんが高校時代に制作した木彫の作品
宮永良二郎さん提供

第90回アカデミー賞で、日本初の「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」を受賞したメーキャップアーティスト、辻一弘さんの高校時代の作品が、Twitterで話題になっている。段ボールにしがみついているフンコロガシの様子を克明にとらえた木彫の作品だ。

母校・龍谷大付属平安高校(京都市下京区)で美術の授業を担当した宮永良二郎教諭(63)に、この作品が生まれた当時を振り返ってもらった。

高校3年の2学期、4カ月かけて30センチ四方、厚さ3センチの朴(ほう)の木の板を使った創作の授業をしました。テーマは設けず、「何を作るかは自由な発想で」と伝えるだけです。

たいていの生徒はここで皿を作ろうとします。だけど、彼(辻さん)は、彫刻刀とサンドペーパーを駆使して、段ボールにフンコロガシがしがみついている様子を自分で彫り出しました。

宮永良二郎さん提供

彼が元々持っている独創的な発想力だけでなく、段ボールの表面や寄っているしわ、昆虫のしぐさなどを精密に表現する力、それらを実現できる高校生離れした技術。すべてがあいまった作品でした。

1学期には絵を描く授業をしましたが、その時彼は、狼男を描きました。

辻さんが高校生のときに描いた「狼男」
辻さんが高校生のときに描いた「狼男」
宮永良二郎さん提供

私は授業などで素質があると感じた生徒には、美大の受験も考えるよう勧めていますが、狼男の作品を見て、やはり美大を受けないか、と勧めました。

だけど、その時点で「僕には行きたいところが決まっています」と言われました。大学には進まず、ハリウッドに行きたいと言うのです。

その時点で、彼は様々なフィギュアを作っていて、できた作品は写真に撮り、ハリウッドで活躍していた特殊メークの第一人者、ディック・スミス氏に送るなどして、自分の進路につなげようとしていました。

「段ボールにしがみつくフンコロガシ」はいまも教室に展示されています。授業で生徒に見せて作品作りの参考にしてもらっています。

教師として35年、約6000人の子供たちを教えてきましたが、彼のように当時から明確な夢を持って実現しようとしていた子は初めてでした。

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