東京医科大の入試得点の不正操作で合格した学生の処遇は?「地位剝奪はふさわしくない」(会見詳報)

一方、得点の不正操作で不合格になった受験生には「追加合格」の可能性も示唆した。
会見での質疑応答に対応する行岡哲男常務理事(左)と宮沢啓介学長職務代理=東京都新宿区
会見での質疑応答に対応する行岡哲男常務理事(左)と宮沢啓介学長職務代理=東京都新宿区
SHINO TANAKA

東京医科大学で起きた裏口入学に関連し、女性や多浪の受験生の得点が一律に減点されていたことが、同大の内部調査委員会の調べで分かった。8月7日に開かれた同大の会見では、行岡哲男常務理事と宮沢啓介学長職務代理らが出席し、入試得点の不正操作で不合格になった学生の追加合格について認める可能性にも言及した。

会見では、内部調査委員会での報告を踏まえ、次の対応策を挙げた。

・不正な得点操作で合格した学生への対応については「得点調整そのものは大学側が行ったので、学生の地位を剝奪するのはふさわしくない」としてさらに検討する

・文科省元局長の息子は「得点調整がなくても繰り上げ合格となっていた」可能性が内部調査委員会の調べで分かった一方、今回文部科学省の事業採択の「対価」とも指摘されていることなどを踏まえて、対応を検討する。

・女子の2次試験での一律減点、浪人の得点調整のいずれも根絶

・入試改善委員会で具体的な改善策に着手

・入試以外の女性差別にも対応する

以下、会見の内容を詳報する。

■文科省の元局長の息子の処遇は?

宮沢)贈収賄の事件で発生した支援事業の対価として認定されなければ、(文部省元局長の息子も)ほかに一般入試で不正操作で上がってきた学生たちと同等(の扱い)でよろしいとは思うが、今回に関しては、法的な問題が絡んでくる可能性があります。内部調査の報告書で指摘されているような問題があるので、大学独自の判断のみで判断するのは難しいと考えている。

ただ、ちょっとホッとしたのは彼自身、可能性が100とは言えないが、(入試得点の不正操作をしなくても実際の得点で)繰り上げ合格で入れた可能性があったというレポート内容だったのはよかった。社会でかなりの批判を受けて、つらい立場と思う。特別甘くする必要はないが、そういった観点から、慎重な対応をせざるを得ないのではないのかとおもいます。

45点、49点、48点と極めてすごい加点もあった。入学後もカリキュラムについていけるのかということもある。留年してドロップアウトする可能性もあるのではと心配している。

加点によって合格した人は、今後、いろんな状況を考えて対応していきたい。

得点調整は学校側がやったこと。これで学生の地位をはく奪するのはふさわしくないというスタンス。ご批判があるのは想像できる。「なぜ大学が擁護するのか」というご批判もあると思うが、当大学の責任で入学許可証を発行してしまった。その責任だと思う。

Q)(文科省元幹部の息子を除き)加点された受験生5人の属性について。監督官庁である、文科省幹部のご子息が優遇措置を受けたことで、同じようなケースはないのか。

理解している限りにおいては、官庁、政治家の子弟にかかわるようなものは(文科省元局長の息子以外には)ない。

Q)文科省元局長の息子の近況は

なかなか大学に出られない状況の中で、今後の進級に影響がないように対応している。7月の2~3週目にある試験を受けないと退学が決まる。別室受験で対応したらどうかということになり、別室で受けた。

■得点操作で「不合格」の受験生への追加合格の可能性は?

宮沢)救済措置だが、今回、贈収賄の事件として資料が押収され、大学に残っている資料が極めて少ない中での調査になった。本来なら対象になった女子の受験者、浪人もそうだが、想定して早急に対応したいが、そこの点で時間がかかるかもしれない。

ただし、皆様に、特に女子の受験者に大変なご迷惑をかけたので、大学当局としても誠心誠意対応したい。大学としての定員もあるが、社会からのご批判に十分耐えうるような対応をさせていただきたい。これこそが実は、このような一連の事案で不利益を被った皆様への対応こそが信頼回復の第一歩だと考えている。ぜひ、よろしくお願いいたします。

Q)誠心誠意な対応というのは、つまり追加合格を認めるということか?

私自身はそういう方向ですが、いまの立場は学長職務代理なので、昨日この調査報告書をいただいたので、まだ学内で十分議論がなされていないが、調査書を十分吟味した上で今後の対応をしていきたい。

Q)学内では追加合格を認める方向で調整するという理解でいいか。

そういう可能性が十分あると、現時点ではそう答えさせていただきたい。たぶん、現在の教授会の意向としては、そういう方針で異論を唱える者はいないのではないかと思います。ただし、今後、監督省庁である文部科学省のご意見もあるので、協議を重ねながら決定していかなければならない。

■なぜ女子の減点が行われるようになったのか

宮沢)東京医科大学では、学内、病院で、多くの女性医師の働き方改革、職場の環境を整える活動が盛んに行われている。

だからよもや、入試委員会も、こうした点数加算で、女性の受験者に不利に働くようにしていたとはまったく認識していなかった。

個人的な見解だが、8月3日、ある報道で本件に関する報道があったが、必要悪、女性医師3人に男性医師1人、という大学関係者のコメントが報道されましたが、我々教職員が、これらの発言は、現役の職員が発した言葉とは思っていない。これは私の感覚ですので、個人的な見解ですので否定されるかもしれないが、今回、こういうことを指示した臼井前理事長、鈴木前学長というのと、現在の現役のスタッフの認識に大きなずれがあり、我々の知らないところで行われていたのだと思う。

行岡)驚愕した。なぜそんなことをするのか考えたが、女性がジェンダーの違いで可能性やチャンスを一律に変えてしまってはいけないというのは、現代社会を支える、根本的なルールの一つだと思う。そのルールへの感性が鈍麻していたとしか考えられない。

二つ目はダイバーシティー推進委員会をつくってやってきたつもりだったが、なぜダイバーシティーを推進しなければならないのか、という問いかけが少なかったと思う。現在の社会はものすごい勢いで変わっている。その変わっている社会に対応していかなければならない。

多様な対応は多様な人材にあると思う。女性が活躍できないような組織は、多様な対応が弱くなってしまい、社会の貢献というチャンスを失ってしまう。

だからこそダイバーシティーを推進しなければならないという考えで、ダイバーシティーの推進委員会をやってきたつもりだったが、組織の中にそうしたことがしみこんでこなかったとは痛恨の極みだったと思う。

■「不正を認識していなかった」

宮沢)前学長が担当されて4年か5年あったが、そのようなかたちの属性による点数調整をしていたのは、入試委員は認識してなかったと思う。そういうことからすると、鈴木前学長の中には、そうした考えが抜け切れてなかったとおもう。たしかに外科系は男子が多く、女子は少ない。また、本学に限らず、女性医師は内科、産婦人科、麻酔科、乳腺科に増えている。

ただ、着実に効果が出ていて、男性誌しかいなかった分野にも少しずつ出ている。外科医に女性が少ないかというと、女性は男性より劣るかと言えば、私はまったくそんな考えはないし、女性の優れたところは、日々認識している。もしそこで外科医の資質に男女が同等ならなぜ外科に女性がこないのか、それは職場環境の問題だと思っている。

やはり外科に行くための環境を整えていこうと進めてきたが、まったく時代に逆行したことが、調査の中で明らかになった。わたしは本当に、女性医師がそういうような職場の中で、進むべき環境を制限されてしまうことが本当に気の毒で申し訳ないとおもう。

今回の件で、大学が一新して、属性による点数調整がないような、クリーンな入試を目指したい。さらに女性医師、女性スタッフ、教員が働きやすい環境を推進していくような大学になってほしいという気持ちで運営したい。

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