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スーダン:4月4日は国際地雷デー・地雷被害を乗り越えて

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南北間の大規模な内戦が終わった後も、西部ダルフールなどで紛争が続くスーダン。各地に多くの地雷や不発弾が残され、毎年、事故に遭う人が後を絶ちません。2015年だけでも各地で33人が死亡、71人がけがをしました。政府は国を挙げて地雷対策に乗り出していますが、人々を危険に曝している地雷・不発弾の除去に集中せざるを得ないうえに予算不足もあり、2012年以降、地雷被害者への支援が中断されていました。

AARは2006年から、地雷・不発弾の危険から人々を守るための地雷回避教育を続けてきましたが、昨年7月からは地雷・不発弾による被害が最も多い地域の一つである東部のカッサラ州にて被害者支援活動を実施しています。活動は大きく分けて、①義足・三輪車の供与とリハビリ②地雷被害者の経済的・社会的な復帰支援③地雷被害者支援のための国家戦略の策定の3つです。

スーダンではどれぐらいの地雷被害者がいるのか、信頼できる統計がありません。支援を開始するにあたっては、社会福祉省や障がい者連盟、地雷対策センターなどに何度も足を運んで396人の情報を集めました。そして「リハビリに耐えられる」「過去に支援を受けていない」などの基準で、地雷被害者を中心に35人を支援対象に選びました。

義足で堂々と明るく... 三輪車で気軽に外出も


義足と三輪車の提供はカッサラ州の国立義肢装具センターを通じて行いました。センターにはこれまで理学療法士がいなかったため、AARが雇用して派遣しました。

義足を受け取った5人のうちの一人、カリッド・アフメド・オスマンさん(41歳)はトラックの運転手をしていましたが、2年前に運転していたトラックが対戦車地雷を踏み、一命を取り留めたものの左足を膝下から切断しました。以来、松葉杖を使って歩いていましたが、村の市場に出かけても機敏に動けないため、周りの人から邪魔者扱いをされて野次をあびることもあり、心を痛めていました。

最初に会ったときは周囲の人の目が気になり、自信がなさそうな、誰かから心ない言葉を浴びせられるのではないかという不安そうな表情をしていました。しかし3カ月後にカリッドさんに再会すると、新しい義足にも慣れて、しっかりとした足取りで歩行していました。何よりも自信のなさそうな表情が消えて、明るく堂々とした表情に変わっていたのが印象的でした。

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義足製作のための型を取ってもらうカリッド・アフメド・オスマンさん(左)。3ヵ月後に会うと、その表情は大きく変わっていました(2016年12月13日、以下写真はすべてスーダン・カッサラ州)

三輪車は、未舗装のでこぼこ道が多いスーダンでも問題なく使えるよう、不整地を走行するために設計された手漕ぎのものをケニアから輸入し、10人に提供しました。

対象者は、地雷被害やポリオなどのために両足を切断したり、麻痺したりして、地面を這わないと移動できない人たちです。スーダンでは障がいのある人はバスや乗合タクシーなどの公共交通は無料ですが、自宅からバスに乗るまで、またバスを降りてから目的地までの移動など多大な労力を伴います。

三輪車を受け取った人たちは気軽に近所の友人や知人の家を訪ねたり、市場まで物を売りに頻繁に通ったりできるようになりました。

地雷被害に遭う前の生活を取り戻すために...


地雷被害者とその家族の生活は、地雷事故を境に一変してしまいます。地雷の事故によって手足を切断したり、体が麻痺して歩けなくなったり、視力を失ってしまった被害者は、仕事に復帰することが困難です。

AARはそんな地雷被害者に小規模ビジネスの起業支援を行うことにし、ラジオとテレビ広告でカッサラ州内に広く呼びかけて応募者を募りました。そして20人に、希望に応じて①小さな売店を営むための小屋と商品、②放牧を営むための羊を提供しました。

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小規模ビジネスを始めるにあたって、支援対象者に研修を行いました(2017年2月9日)

支援した20人は事故に遭ってから定職につけず、日雇いの仕事などをするものの、家計を支えるための充分な収入を得られておらず、借金を抱えている人も多くいました。今後、ビジネスを軌道に乗せられるよう、AARはモニタリングと技術指導を継続する予定です。

「ありのままの私を見せよう」


地雷は身体を傷つけるだけではありません。心に負った傷もとても深く、長年にわたって被害者を苦しめ続けます。地雷被害者や障がい者のなかには、障がいを負い目に感じたり、差別を受けたりして、地域社会への参加に一歩を踏み出せない方たちがいます。

そこでAARは、今回支援の対象となった全員が参加する心理カウンセリング・ワークショップを行いました。心理カウンセリングでは、泣き出してしまう参加者もいるなど、一人ひとりが心の奥に隠していた辛い思いが垣間見えることがありました。

一方、この試みは参加者のある女性の行動を変えました。バトゥール・ハルーン・オスマンさん(42歳)は両足に麻痺があり、自力での歩行が困難な状態で3人の子どもを育てていますが、好奇心からか近所の主婦たちが毎日家にやってきて、バトゥールさんがどうやって家事をしているのか見ようとしていたといいます。

これまでバトゥールさんは自分が床を這う姿をとても見せられず、主婦たちが帰るのをただじっと座って待っていたそうです。

しかし、カウンセラーの言葉に「私は不完全な人間などではない。ありのままの私を見せよう」と思い立ち、帰宅した後、いつものように主婦たちがやって来ると、床に這って家事をする姿を堂々と見せつけました。主婦たちはすぐに帰ったそうです。自分の障がいと向き合い、どう折り合いをつけるかで、その後の人生の歩み方や社会との関係の築き方が大きく変わってきます。

その意味で心理カウンセリングは地雷被害者支援に欠かせない活動といえます。

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バトゥール・ハルーン・オスマンさん(右)とAARが雇用した理学療法士(左)。いつも人の目を気にしていたバトゥールさんですが、カウンセラーの言葉に勇気づけられました(2017年1月31日)

新国家戦略が今年中にも施行


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地雷被害者支援の国家戦略策定のためのワークショップ(2016年8月31日)

スーダンにはもともと国際社会の支援によって作られた地雷被害者支援の国家戦略と5カ年計画が存在しました。しかし2012年に5カ年計画が失効して以降は、改訂作業が手つかずのままとなり、これが冒頭で紹介した地雷被害者支援活動の空白期間を生みました。こうした状況を打開するため、国連地雷対策サービス部(UNMAS)スーダン事務所の要請を受けて、AARが国家戦略の策定支援に取り組みました。

昨年8月に初回のワークショップを開催して数年ぶりに地雷被害者支援活動の関係者が一堂に会し、その後も関係者間で何度も話し合いを重ねて作成した文書を、今年3月にスーダン政府に提出しました。政府の承認を得た後に、新しい国家戦略が今年中に施行されることになっています。

地雷回避教育を専門としてきたAARスーダン事務所の地雷対策チームにとって、今回初めて取り組んだ地雷被害者支援の活動は大きな学びとなりました。

今回の活動を通じて、地雷被害者の方々ひとりひとりと触れ合い、その苦しみ、悲しみ、そして希望を知ったことで、今後の地雷回避教育の内容や教材開発をより厚みのあるものにできると考えています。スーダンで地雷対策活動を行う唯一の国際NGOとして、スーダンの人たちの安全な生活のためにAARは活動を続けていきます。

【報告者】記事掲載時のプロフィールです 2017-03-30-1490864743-7361264-aarjapan_20170330_kakizawa.jpg

スーダン事務所 柿澤 福郎
2016年6月より現職。2013年5月よりAAR東京事務局でアフガニスタン、パキスタン事業などを担当。2013年フィリピン台風などの緊急支援にも従事。神奈川県出身