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1万匹以上の装具を制作、日本初の動物義肢装具士・島田旭緒さん きっかけは義眼・指を失った祖父

連絡がなければうまくいっているんだなって安心できる

2017年11月10日 16時34分 JST | 更新 2017年11月10日 16時34分 JST

Abema TIMES

人間と同じく、ペットの犬や猫にも高齢化が起きている。一般社団法人ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」によると、猫の平均寿命は2010年度の14.4歳から2015年度には15.8歳に、犬の平均寿命は2010年度の13.9歳から2015年度には14.9歳と延びた。人間に換算すれば、この5年間で平均寿命が4年延びたことになる。

要因として考えられるのが、「飼育の質の向上」「動物医療の発達」「環境の改善」。特に動物医療の進歩により動物病院の数が増え、定期的なワクチン接種や血液検査、レントゲンなど人間と同じような医療サービスを受けられるようになったことで、ペットの平均寿命は格段に伸びた。

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平均寿命が伸びるにつれ、高齢のペットは増加の一途を辿っている。老化、病気で体の自由が効かなくなり、歩くことが難しくなるケースも少なくない。そんな歩行困難になったペットたちに再び歩く力を与えているのが、日本初の動物専門の義肢装具士・島田旭緒(あきお)さんだ。島田さんが作っているのはペットの歩行を補助する装具。ペットの状態に合わせて、一つひとつカスタムメイドで制作している。

じん帯を切ったために後ろ足がつけず、跳ねる様に歩いていた犬には、金具で横の動きを抑制しつつ足がまっすぐに伸びて脱臼するのを防ぐストッパーを付けた装具を作成。この犬は装具によって普通に歩くことができるようになった。

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また、病気で右前足を切断した犬には、飼い主が上に釣り上げるように補助する装具を作り、一緒に散歩ができるようにした。飼い主の女性は「歳だからいつまで歩けるかわからないけど。後ろ足の負担が軽くなったぶん楽みたい。それが一番嬉しい」と話す。

これまで、島田さんが装具を作ったペットは1万匹以上。全国からは「めいちゃんにとって欠かせない体の一部となっています。本当に素晴らしいものを作っていただきました。感謝いたします」といった感謝の手紙が届く。島田さんは「うれしいですね。その子を喜ばせることが次の仕事にもつながるし、患者(飼い主)さんも喜ぶし、やっぱり仕事がうまくいくのと患者(飼い主)さんに喜んでもらえたっていうのは、リンクして自分のやりがいになります」と語った。

■病気が進行した足は元に戻すべきか

島田さんの装具づくりは獣医師からの依頼を受けて始まる。横浜にある動物病院で、島田さんのもとに新たな依頼が舞い込んできた。ミニチュアダックスのカレンちゃん13歳(人間で約75歳)。両足にリウマチ性関節炎を患っている。

カレンちゃんの手首の関節は進行性でどんどん壊れていくため、通常は肉球で体重を支えて歩くはずが、本来曲がるはずのない所で足が曲がってしまう。通常つかない箇所が地面に接地するため、その部分が擦れて皮膚が破れてしまったり、炎症ができて水が溜まったりすることもある。

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島田さんはまず石膏で足の型を取り始めた。「リウマチって骨が溶けちゃうので、その子その子によって残っている骨の形が全然違う。型を取らないとその子にあった装具がつくれないんです」。

飼い主の森田正江さんに話を聞くと、カレンちゃんはこの1年間近く家の中で寝て暮らすことがほとんどだという。外に出ても足の痛みからか歩こうとしない。共に暮らして13年、森田さんは「何ともいえない気持ち。去年から病気がちなので、ご飯も喉を通らないほど心配です。大きい公園で走り回らせたい」と話した。

その頃、島田さんは悩んでいた。病気がかなり進行しているカレンちゃんの足は、元の形に戻すべきなのか。

島田さんはある決断をする。「まっすぐにして固定してあげることもできるんですけど、手が曲がった期間が長いので、そういう子は曲がっている方が歩き慣れているんです。だから、無理くり良いとされる姿勢にしちゃうと、かえって肘や肩に違和感を覚えてうまく歩けなくなっちゃう子が多い」。

島田さんはカレンちゃんの曲がった足をそのままにして、痛みを和らげて歩かせる方法を選択した。踵の部分にシリコンを入れ痛みさえ和らげればきっと歩けるはず、というこれまでの経験から導かれた答えだ。

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島田さんは制作に取り掛かった。まずは、カレンちゃんの足から取った石膏の足型に紙をあて、型紙を作っていく。「どういう形で作るのが一番歩きやすいのか、この時点(型紙)で決めてあげないといけなくて、皮膚に密着したものを作っているので、いかに擦れないように微調整を繰り返すか。2mm違うだけでも全然違います」。肉球の部分が出るように、肘を曲げた時に装具とぶつからないように、微調整を行いながら理想の形を追及していく。

■技師装具士を目指したきっかけは義眼・指を失った祖父

なぜ、島田さんは動物専門の義肢装具士の道を歩こうと思ったのか。きっかけはおじいさんにあるという。「おじいちゃんが義眼なのと、プレス機で手を挟んで指がなかったんです。だから(義肢装具の)学校に行きたいなと、興味があったんです」。

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島田さんは、身体に障害を持つ祖父のような人のために、人間の義肢を作る専門学校に通い始めた。しかし、課題に取り組む中でふと動物の義肢に関する論文が無いことに気づく。当時、アメリカにもその論文は見当たらなかったという。「人も動物も障害を持つ苦しみは同じはず。誰も作っていないなら自分が作ってみよう」。そう考えた島田さんは、人間の義肢装具会社を経て、10年前に日本初の動物専門の義肢装具会社を設立した。しかし、それは前例のない中で道を切り開く困難な作業の始まりでもあった。

いわれのない批判に晒されたこともあったという。「お前は金持ちで、道楽でやっているのかって。こんな意味のない物よく作れるなって散々言われましたね。しかも、先進国のアメリカにもないぐらいだったので。大変でしたね、昔は」と当時を振り返る島田さん。

そんななか、ある獣医師からの一言が大きな転機になった。「動物って口では言えないので、気持ちを汲み取って装具をつくっていきなさいと言ってもらったことがあります。もっと(動物を)観察しないといけないんだなって思いました」。

石膏でカレンちゃんの足の型を取ってから、2週間。出来上がった装具をつける日がやって来た。はたしてカレンちゃんは歩いてくれるのか。島田さんにとって緊張の一瞬だ。

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「カレンおいで」。森田さんの呼び声に反応して、何かを探るように1歩、2歩。そして、尻尾を振りながらカレンちゃんは森田さんの後を歩いて追いかける。「すごいすごい!」と思わず声を上げる森田さん。

それを見ていた島田さんは、「ワンちゃん自体表情が変わって、よく歩くようになって、それを飼い主さんが汲んで喜んでくれる。僕としてもその光景が見れて嬉しかったです」と話した。ただ、装具作りはこれで終わりではなく、カレンちゃんの病期の進行、体の変化に合わせて今後も装具の調整は続く。

さらに2週間後、公園には病気をする前と変わらぬ姿で散歩するカレンちゃんの姿があった。立ち止まったまま登ろうとすらしなかった階段も1歩1歩登っていく。「まさか、こんな歩けるとは思わなかった。もう歩ける感じだから、ここの公園にみんなで来れる。島田さんに感謝」と森田さんは感謝の気持ちを述べた。

最後に島田さんは「僕が関わるのは装具の時だけなんです。なので、そこだけはしっかりサポートしてあげる。そうなると喜んでいる顔を見ることは難しいんですけど、僕の仕事はそういうところなので、連絡がなければうまくいっているんだなって安心できる」と、義肢装具士としての決意を改めて語った。

(AbemaTV/『けやき坂アベニュー』より)

(2017年11月10日「Abema TIMES」より転載)

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