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「全力で漏らせ!!」シャープよりも先に鴻海の出資を受けた日本のベンチャー企業

ありそうでなかった世界初の装置。

2018年01月26日 09時32分 JST | 更新 2018年01月26日 09時33分 JST

 世の中を大きく変える起業のヒントは身近なところに転がっているかもしれない。そんなことを思わせてくれる企業がある。

 日本で介護を受けている人はおよそ600万人、そのうち、1人でトイレに行くことができない65歳以上の人はおよそ130万人いるといわれている。東京・練馬区のとある老人ホームでも、3時間おきの排泄ケアのため、介護士たちが時間に追われていた。特に脳梗塞になると尿意や便意を感じにくくなるとことから、タイミングが合わないことも日常茶飯事。「自分の意思がはっきりある人はもちろん、認知症が進んでいる方でもそういう時は『ごめんなさい、ごめんなさい』という方がとても多い。それは恥ずかしいという部分が残っている」(現役の介護福祉士)。

 そんな介護の現場で活躍するこの"計測器"「D Free」を開発したのが、トリプル・ダブリュー・ジャパンの代表・中西敦士だ。排泄のタイミングを事前に教えてくれるこの装置は、現在150施設で2000人以上の高齢者が利用している。

 東京・渋谷駅から徒歩3分のビルにあるトリプル・ダブリュー・ジャパンの創業は今から3年前。中西が留学していたアメリカ・サンフランシスコでスタート、現在、社員は24歳から67歳までと、幅広い年齢層の社員21名で運営している。

 中西が開発した排泄のタイミングを予測する「D Free」は、「電源を入れて、恥骨の上に機器を貼って、あとはスイッチを押すだけ」。小型パーツの中に超音波装置が入っており、サーバーを通じて膀胱の大きさの変化を解析、あとどれくらいでトイレに行きたくなるのかをスマホやタブレットに表示してくれるデバイスだ。しかもトイレに行けば行くほど学習し、正確さを増していくという。

 「現場では、誰が、どのくらい、何が出るのか分からないという"ゲリラ戦"みたいな中で、2時間、3時間に1回とチェックしているが、人間ってそこまで規則正しいわけじゃない。食後、トイレの前が大行列になっちゃうし、待っている間に出ちゃいました、ということも起きる。D Freeによって、30%の労力を減らすことができる。人件費でいうと3万円分くらいだが、おむつの費用も半分くらいになる」。

 さらに中西は興味深いデータを示す。「世界で1秒間に300人が漏らしている。大人が。すさまじい勢いで漏らしている」。

 このインパクトに国内だけではなく、世界中から問い合わせが殺到しており、中西はこの装置を引っさげ、若手ベンチャー企業が集う大会に次々と出場してきた。

 中西がプレゼンの冒頭で流す"最高のツカミ"がある。自らが語りかけるVTRだ。「2013年夏、アメリカ西海岸の風に吹かれながら、うんこを思いっきり漏らしました。やっちまった...。でも、みなさんもそうした経験、ありますよね。そこで排泄のタイミングを予知するウェアラブルデバイスを開発しました...」。このインパクトで注目を集め、数々の賞を総ナメにしてきた。賞金や資金調達で得た金額は15億円にも上る。

 この留学時代の"屈辱のお漏らし体験"は実話で、まだ鮮明に覚えているという。

 シリコンバレー留学中、徒歩30分ほど離れた場所に引っ越しすることになった中西が冷蔵庫の中を空にするべく扉を開けると、キムチと鷹の爪と辛ラーメンがあった。それを一度に、全て食べてしまったのだ。引っ越し先まで徒歩で2往復。1往復目はクリアしたものの、2回目の途中でお腹に異変が起きる。「あれ?グルグル来てるぞ」。荷物を運び始めた以上、戻るのも手間だ。しかし、次第に"ノック"は激しさを増す。「最後は背筋で止めちゃおうとのけぞっちゃう。でも肛門に背筋はないですからね。肛門がぱかっと開いて、思いっきり漏らしたわけですよね。辛ラーメンが一気に出て」。家に戻り、友人に「ズボンを貸してくれ!」と叫んだ。

 中西の胸に、「29歳で漏らすの辛いな、と。なんで人類はうんこしてるんだ!と思って。うんこもおしっこもいらなくない?」という考えが去来した。やがてその思いは、ひとつの決意に変わる。「せめて予測ができれば...」。調べ始めると、大よりも小の方が漏らしている人が多い。特に女性で、60歳過ぎると増えることが分かった。

 この問題を解決する発明をしようと意気込んだものの、慶應義塾大学商学部卒業のバリバリの文系の中西。その上、人間の排泄に関する仕組みも知らなければデータもない。まずはエンジニアを誘い、起業への第一歩を踏み出した。最初に使用したのが、妊婦が用いる超音波診断装置だ。

 最初の検証テーマは「超音波で便が出てくる時に最後、直腸が膨らんで便意を感じる。それを捉えられるのか。どれくらい膨らんだら便意を感じるのか」。データは自分たちの体から取った。

 「まずは下剤を飲んで、おむつをはいて。そして、金属棒を(お尻から)突っ込んでみよう。ぐいぐいぐいと。そうしたら『あ、見えるねー』。と(笑)。次は数珠を入れて物理的に膨らませてみよう。どれくらい膨らんだら便意を感じるのか。そしたら1つ目の段階で『すみません、出そうです』と」。

 想像を絶する試行錯誤。本当にこんなことを行っていたのか、創業当時から中西を支えてきた技術部長の正森良輔さんに話を聞くと、「最初は排便の予知を目的に開発を進めてきたが、そもそもどのような仕組みで出てくるのか分からないので、体験してみるしかないな、と。肛門の中にソーセージを突っ込んだり、コンドームに水を入れて突っ込んでみたり。入れられる人には大きいモノをいれてもらってました。お尻の中にモノが入っているっていうのは自分で分かるので、データとしてはいいものが取れた」。

 こうして「気合と根性」をエンジンに、多くの人の協力を得て、アメリカの地で起業した。

 最も難航したのは資金の調達だ。前代未聞の「便チャー」に投資は集まりにくかった。だが、高齢化社会を肌で感じている日本の投資家の反応が良かった。それでも、誰が買うんだ?という批判の声は止まず、なかなか出資には結びつかなった。最終的にはニッセイキャピタルから出資を受け、いよいよものづくりの段階に進んだ。

 そして、中西の名前が世界的に知れ渡る日がやってくる。「2015年2月、D Freeのアイデアを話したら。僕のFB周辺がざわざわした。"何か起きたぞ"と。アスキーで取り上げていただいて、世界中から連絡がきた」。なんと、その数、約30カ国。さらに、鴻海精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)会長にプレゼンをする機会も得られた。そこで中西はプレゼン直前、前出の正森さんに「尿溜めとけよ」とプレッシャーをかけた。その結果、装置の動作をアピールできたが、水をガブ飲みした正森さんは漏らす寸前だったという。

 結果、プレゼンは大成功。中西たちが郭会長に宛てた

  • 製造してくれ

  • 開発させてくれ

  • スタディツアーをアレンジしてくれ

  • インベストメント(投資)をお願いしたい

 という「4つのお願い」も、全て「easy easy!!」と快諾してくれた。シャープより先に「兄貴分」として出資を受けたことになる。

 今後は尿だけではなく便の予知もできるよう、開発を進めるという中西。「おねしょに悩む子ども。便秘に悩む女性、美容の方面にも」と意欲を見せる。これから創業を志す若者に向け「全力で漏らせ!!」と熱いエールを送る中西。自身の経験をもとに、「一度漏らしてほしい。どうしようもない状況で無力になってほしいから」と笑う。

 ありそうでなかった世界初の装置は日本の、世界の日常生活を大きく変えるかもしれない。今後の中西、そして「D Free」に注目だ。

▶次回『偉大なる創業バカ一代』は27日(土)夜10時から放送!