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日本のテレビがLGBTをお笑いにするのは"時期尚早"だったのか 「保毛尾田保毛男」問題にLGBT当事者とウーマン村本の意見は

LGBTのことは言っちゃダメ、見ちゃダメ、という雰囲気になった結果、当事者たちが一番息苦しい思いをするんじゃないかと思った。

2017年10月18日 10時34分 JST | 更新 2017年10月18日 10時34分 JST

9月28日放送のフジテレビ「みなさんのおかげでした30周年SP」で石橋貴明さんが扮するキャラクター「保毛尾田保毛男」が復活したことに対し激しい抗議の声が上がった。

トランスジェンダーであることを公表している、株式会社ニューキャンバス代表の杉山文野さんも声を上げた一人。思いを綴った文章をネット上に公表、Twitterでは「保毛尾田保毛男の件、『悪気のない』笑いの裏でどれだけ多くの人が傷つき、時には自殺にまで追い込まれているという現実を知ってほしい」と訴えた。

フジテレビは16日、「とんねるずのみなさんのおかげでした」のホームページに「男性同性愛者を嘲笑すると誤解されかねない表現をしたことで、性的少数者の方々をはじめ沢山の視聴者の皆様がご不快になったことに関して、深くお詫び致します」との内容の謝罪文を掲載した。

今回の騒動について街で尋ねると、

「ビジュアルがあんまり好きじゃないかな。でもそれは表現の自由、好きな人は好きでいい。それで謝罪する必要はないと思う」

「数十年前ならよかったものが、今はダメになってきているから、時代を考えた方がよかったのかなと思う。ちょっとやり過ぎかなと思う」

「自分がハゲているとか太っているとかネタにしている芸人がいるが、自分自身が同性愛者ではない人がネタにしているようだったら不快感を持たれると思う」

「その時の解釈によってだいぶ変わると思う。時代の流れ」

「これは一つのコメディー。そんなに目くじらを立てることではないと思う」

と賛否両論。アニメーション制作をしているというメキシコ出身の男性は「問題はないと思う。コメディアンの仕事としてやったことで、人をバカにしているわけではない。メキシコはもっと開かれていて、ゲイの俳優やコメディアンが自分をネタに冗談を言うこともある」と話した。

番組への非難が高まる一方、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんが杉山さんのツイートに「お前だけが被害者面すんな、おれも学歴や職業や考えで差別されてると思うことは沢山ある。でも生きる」と反論した。

これに対し、NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんが「学歴や職業等、選択できるものとセクシャリティは違う。例え自分が差別され痛いからといって、現に痛がっている人たちに『痛がるな』という権利はない」という主旨の批判をするなど、村本さんは大炎上することになった。

そんな中、16日のAbemaTV『AbemaPrime』に、杉山さんと村本さん、そしてゲイであることを公表、LGBT支援団体の代表を務めている明治大学4年生の松岡宗嗣さんが生出演。LGBTと表現をめぐる問題について議論した。

■ウーマン村本「一緒に生きていきましょうという意図だった」

「人権を意識してエンタメを作るべきだと主張するつもりはない」と話す杉山さんだが、テレビの表現が原因で、学校では苦しい思いをしたという。

「小さい頃、テレビをつけると女性的な男性が"オカマ、オカマ"と笑われていた。"これこれ(手の甲を頬に寄せるジェスチャー)"というのも流行っていた。学校に行けば、みんながそれを真似して笑っている。『打ち明けたら僕もいじめられちゃうんじゃないか。居場所がなくなったらどうしよう。僕は変な人なんじゃないか』という印象を抱いたのが、あの番組だった」。

村本さんは問題になった自身のツイートについて、前後のツイートを読んでもらえばわかるが、杉山さんに宛てたものではなかったと主張。自身に批判的なTwitterユーザーたちに対し、身体的な特徴、後天的な要素、生まれ育った場所など、人には引け目を感じる部分、苦しんでいる部分が必ずあり、LGBTだけを特別視するのはおかしいという意図があったと釈明する。

「差別されて当然だということではなく、一緒に生きていきましょうという意図。LGBTだけは違うと言っているような気がして、引っかかっていた。LGBTを特別扱いして、腫れものに触るようにしている。LGBTのことは言っちゃダメ、見ちゃダメ、という雰囲気になった結果、当事者たちが一番息苦しい思いをするんじゃないかと思った。以前、会社でカミングした男性が当初は歓迎されたものの、飲み会に誘われなくなったり、無視されるようになったという話を聞いたことも記憶にあった」(村本さん)。

これに対し杉山さんは「番組を作る時にどれくらい想像力を働かせていたか。どういった現実があって、それによって何が起こっているかも検討した結果、出したのか」と疑問を呈する。その上で、「村本さんの懸念もすごく分かる。抗議文を出したのも、フジテレビやとんねるずさんを糾弾しようということではなく、また同じようなことが起きないよう、ちゃんと伝えようという思いからだった。自分たちが正義だと言うために相手を悪だと言う必要はない。正義の反対に悪があるという議論になってしまっている部分があるのが残念だ」と話す。

また、「憲法は"すべて国民は、法の下に平等"と謳っているが、そこに学歴や職業は含まれていても、LGBTは含まれていないと感じることが多い。僕の場合、見た目は男性で女性のパートナーがいるが、戸籍上は女性同士なので結婚することができない。婚姻の平等はまだない」と指摘、LGBT差別の問題と、村本さんの主張する学歴・職業差別の問題は必ずしも同一視できないとした。

今回、BPO(放送倫理・番組向上機構)は、保毛尾田保毛男について、「バラエティーの表現の自由の範囲内」として審議の対象にはしていない。フジテレビに対しては「真摯に対応してくださってるな」という印象を持ったという杉山さんだが、BPOに対しては「差別的に使われてきた言葉をOKにしてしまった。委員の方たちに知識がどれだけあったのか。社会課題を笑いにするのはいけないことではないが、何も考えずに笑いの対象にしているのをOKだとするのは残念だし、今後が心配だ」と批判した。

■LGBTをお笑いのネタにするのは「時期尚早」か

「五体不満足」などの著書で知られる乙武洋匡さんはブログで「チビ・デブ・ハゲに関しては就職で不利になったり親に勘当される例は聞かない。でもLGBTにはまだある。あまりに不当な不利益が大きすぎる」と訴え、

「ネタとして受け入れられない当事者の方がいまは圧倒的に多いと思う。だから僕としては公共の電波をつかってやるネタとしてはまだ早いのかな」「障害だって、LGBTだって、早くネタにできる時代が来てほしい。早く"ちょっとした違い"だと捉えてもらえる社会になってほしい。」と綴っている。

保毛尾田保毛男をリアルタイムで見たことがなかったという松岡さんは「LGBTという言葉が広がり始めて、ようやくありのままで生きることができる人が増えている中、"ホモ"という言葉がテレビで放送されてしまうということにびっくりした。逆行するかのようだと思った」と話す。

「これまでもテレビで活躍されている人は"オネエ"と言われている人たちばかり。ゲイやレズビアンとして普通に生活している人がテレビに出て活躍しているということが全然ないと思う。こういう大人になればいいんだというロールモデルがない中、カミングアウトしろということ自体、酷な部分もある。自分も笑いにするか隠すかしかないと思って生きてきた。カミングアウトできたのは、高校を卒業してからだった」。

松岡さんは、LGBTをお笑いの中で扱うことについて「誰もが知り合いにゲイがいて、悪いゲイもいれば良いゲイもいる、面白いゲイがいれば面白くないゲイもいるというという状態であれば、"自分の周りのゲイはこんなんじゃない"、と笑えるのかもしれない。でも、そうでない時代にああいうキャラクターが出てきてしまうと、ゲイというのはそういう存在なんだ、笑っていい存在なんだと植え付けられてしまうのではないか」と指摘、日本ではまだ時期尚早なのではないかとの見方を示した。

一方、新宿二丁目でゲイバー「コレステロール」を経営するタクヤさんは、「鈍感なのかもしれないんですけど、むしろ懐かしいなと笑っていました。なんとも思わなかった。二丁目の私の知っている範囲では問題になっていることも話題に上らなかった。でもそれは自分自身がメディアに出ているゲイだからだと思う。二丁目にはオープンの方も多いので、気にしていないのかもしれない。やっぱり言えない人の方が多いので、嫌だと思うひとの気持ちはわかる」。

そんなタクヤさんも、子どもの頃にはやはり辛い経験をしたという。

「保毛尾田保毛男は世代なので、ドキドキしながらも見ていた。ちっちゃい島の中で育ったので、"お前そうなんじゃないの"って学校でもいじられた。逆にそれをネタにして、クラスで笑いを取ったりもしたけど、悩みを抱えながら生きてきた。東京に出てきてからも、いじられるのは怖かったし、友達の目も怖かったのでしばらく黙って隠しててきたけど、この街では同じような人たちがいるから少しずつ話せるようになった。

テレビにオネエがたくさん出るようになって、こうやって活躍している人もいる、かっこいいなって勇気をもらった。初めてバラエティ番組に出させてもらった後も、周りの友達は変わらず優しく接してくれたので、それが救いだった。だから二丁目に来れない方、地方でひっそり暮らしている方は触れてほしくないと思うのかもしれない」。

タクヤさんにLGBTをお笑いで扱うことについて尋ねると、「私たちは仕事なので、楽しませるためにオネエ言葉を喋っているだけ。だから笑ってほしいです」とする一方、「でも、ゲイをああいう感じでいじるというのは、早いというか、まだ時期じゃないのかもしれない」と、言葉を選びながら語ってくれた。

杉山さんは「LGBTの中でも楽しかったとか、全然傷ついていないという人もいるし、別に抗議するほどのものではないという人もいる。そうした考えを否定するべきではないが、自分は傷つかなかったから、お前も我慢しろというのはよくないと思っている」と指摘。

「誰にだってマイノリティ性がある。僕だってLGBTという意味では少数派だけど、多数派に属している部分もある。"僕たち"という言葉を使ってはいるけれど、そもそもLGBTの中にも色々な人たちがいるので、一括りには語れない。マイノリティの中にも様々な違いがあるので、代表者だというつもりはない。ただ、顔と名前を出して主張できるひとが少ない過渡期なので、LGBTという言葉を無くすためにも、自分が出ることによって、もっと色んな人が出てくるといいなと思ってやっている」とした。

■今回の炎上事件は"成長痛"との考え方も

ナインティナインの岡村隆史さんはラジオ番組「オールナイトニッポン」の中で、「キャラクターとか演じられるのも、あと数年くらいじゃないですあ。おそらくこの先、もう女装もしたらアカン、カツラも被ったらアカン。そういう時代がくるんじゃないですか」とコメントしている。

村本さんは「子どもたちは悪意なく差別してしまうかもしれないので、LGBTの人がどんな苦しい思いをしているのかというのは考えないといけない」としながらも、「漫才の中での"年配よりも若い女性の方がいい"という発言に対して"傷ついた"という意見をもらったことがある。

でも、みんなが笑うものって、突き詰めていけば誰も触れないものとか、差別しているような意識がある。ハゲを扱うこともそう。普段笑っているもの、発している言葉のひとつひとつを見ていけば、誰も傷つけずに喋り切ることはできないと思う」と指摘。

また、岡村さんのコメントを受けて「テレビは無料だし、色々な人たちが見られる状況にあるので、人を傷つけるかもしれないという表現は地上波からは削られていって、YouTubeなどのネット媒体などでやるようになるんだと思う。芸人としては悪意がなく、笑いのプロとして表現している言葉、気持ちがあるはずなのに、あとで"やりにくい時代になったよね"と言うことには待ってくれよと思う。声を上げないとダメだ。みんなで話さないと、表現が奪われていってしまう」と危機感を露わにした。

2015年の電通の調査では、LGBTの割合は7.6%、約13人に1人は当事者という計算になる。

杉山さんは「LGBTの人に会ったがことないと思うかもしれないが、計算上、左利きの人やAB型の人と人口は変わらないと言われている。佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さんよりも多い。そう考えると、どれだけ多くの人がまだカミングアウトできていないんだろうということが実感できると思う。

だから傷ついている人がいるのに、そういう考えもあるようね、表現の自由だよねというのは違う。でも、村本さんのように30万人以上のフォロワーがいるひとにリツイートしていただいたことで、すごく良い問題提起になった。今回のことを"成長痛だ"と表現をしている人がいたが、理解が深まる過程で痛みを伴う部分があるのはその通りだと思う」と締めくくった。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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