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"小田急火災"なぜ燃える現場に車両は止まったのか? 専門家「ヒューマンエラーを責めない文化作りを」

故意ではなく、単なるミス、ヒューマンエラーで事故が起きてしまった場合の考え方に課題がある。

2017年09月24日 17時09分 JST | 更新 2017年09月24日 17時09分 JST

今月10日に起きた、小田急線の線路脇で起きた火災が車両に燃え移るという衝撃的な出来事。幸い、ケガ人は出なかったが、大惨事にもつながりかねなかった今回の事故。運転士はなぜ、火災現場を通り抜けることができなかったのだろうか。AbemaTV『AbemaPrime』で検証した。

当初、電車は最寄りの踏切で非常停止ボタンが押されたため、自動的に踏切から約23m手前で緊急停止。運転士はマニュアルに従い、異常確認のため踏切まで移動。そして電車に戻る時に、線路脇の建物から火が出ていることに気づき、運行を指揮する司令所に「踏切に異常はないが、沿線に火災がある」と報告した。

8分後、電車に戻った運転士は現場から離れようと運行を再開。しかしその間に、炎が電車に燃え移ってしまった。そこに駆けつけてきた消防士が「運転士!開けろ!電車に火が移った!逃せ!」という叫び声を上げて停車を指示。この時点で最初に停車した場所から約123m進んでいたが、最後尾車両は火災現場を抜けきれず依然として煙に包まれていた。しかし、停車の指示があったためその場からは動けず、結局その場で乗客の避難誘導を先頭と最後尾の2箇所で行い、30分かけて完了したという。

事故当時の映像には、炎や黒い煙が電車を覆うように迫る様子が記録されており、「嘘でしょ?そんなところに止まっちゃダメ」と叫ぶ撮影者の声も確認することもできる。乗客は当時の様子について「いきなり停車して停止信号かと思ったら、後ろの方から『わー!』と声が聞こえて見たら煙が出ていた。すごいパニックな感じで不安で」「避難指示自体が5分か10分くらい経った後に『最後尾の方に移動してください』と。でも、最後尾でも火がついている状態でどうするの」と振り返る。

小田急電鉄のマニュアルでは、踏切の非常ボタンが押されて停車した場合、運転士は「押された踏切まで行って安全確認をし、安全が確認できたら現場で解除」「司令所に連絡し、許可を得てから発進する」と定められている。また、沿線火災時には「その場の状況で、最も安全な対応をするように」とあり、運転士の裁量に事実上任せている部分もある。

■関係者の証言を聞いて十分検証する必要がある

都内の私鉄に2015年まで10年間勤務し、その内5年間は運転士として乗務していたという、ナレーターの響丈氏は「いざ目の前で電車が燃えていれば焦りもするだろう。運転士なら、なるべく現場から遠ざかりたいという葛藤もあっただろうが、消防から止まれと言われれば、咄嗟にブレーキをかけてしまうのではないか。もちろん運転士の責任だが、避難誘導が完了した30分というのもそんなに長い時間だとは思わない。300人もの方を安全にケガ一つなく避難させたというのは、良くやったんじゃないかなと思う」と話す。

鉄道の安全対策に詳しい関西大学の安部誠治教授も、「緊急停止ボタンが押された場合、踏切の安全を確認して司令に報告しないと電車を動かすことはできない。踏切を見に行って確認し、戻ってくるのには8分くらいかかるだろう。手順に問題はなかった」と話す。

一方、「自動停止装置は踏切の手前で止まるようになっているので、火事の現場が踏切の向こうであれば良かったのだが、今回の事故は非常にレアなケースで、たまたま止まった位置が火事の現場だった。速やかに現場から立ち去る必要があったが、列車の長さを十分に認識していなかったと思われる消防の人が止めてしまった。最後尾に火が回り、もっと火災が大きくなった可能性がある。消防隊員を責めるわけではないが、その判断や経緯について、関係者の証言を聞いて十分検証する必要がある」と指摘した。

消防庁のマニュアルには、沿線火災に関する決まりは存在しないというが、線路に立ち入って消火活動を行う場合は「鉄道関係者に停止要請を行い、列車の停止を確認し、確認者の立ち会いを求める」とされている。しかし今回、小田急の運行司令部に対して火災発生の連絡はあったが、列車の停止要請はしていなかったという。また、鉄道会社側のマニュアルについて安部氏は「トンネル内で火災が起こった時はどうすればいいかというマニュアルはあるが、それ以外の場所での火災についてのマニュアルはない。今回のことをきちんと調べて、トンネルじゃない所、例えば周辺の建物が燃えている時にどうするかということをこの際、一から検討してマニュアルを作る必要がある」と話す。

■安全のために頑張ろうとして上手いかなかった時には責め立てないという文化を

しかし、マニュアルを守らなかった時の批判や社内での懲罰を恐れるあまり、マニュアル通りに行動することに固執してしまうことによる弊害はないのだろうか。まさに現場を目の当たりにしている人たちが、マニュアルを優先した結果、かえって被害を大きくしてしまう可能性も予想される。反対に、最善を尽くしたつもりが犠牲を出してしまう場合も考えられる。 

この点について安部氏は「大原則は作った上で、平時はマニュアル通り動かすことが鉄道の安全を守る原則だが、緊急事態の場合は現場の安全を一番良く分かっている運転手がどう判断するかということが非常に大事。大切なのは、運転手が緊急事態の時、臨機応変に適切な対応ができるように日頃から訓練しておくこと」と指摘する。

「2011年の東日本大震災の際に、JR仙石線野蒜駅で同時に上り・下り線列車が走っていた。片方の列車は停車しマニュアルに従って近くの小学校に乗客を避難誘導した。マニュアル通りにやった結果、その小学校が津波に襲われて乗客が何人か亡くなっている。もう一方の列車は、高い所に止めた。そして乗客が『ここは高いから安全だ』と言って、乗務員もそのアドバイスに従って列車から出ずにそこに留まっていた。少し時間が経った後に周辺に大津波が来て、結果として高台に止まっていた列車の乗客が助かった」(安部氏)。

こうした教訓を踏まえ、近年、鉄道会社では緊急時に運転士が適切に判断、行動できるよう、訓練や教育が始まっているという。

 

「故意ではなく、単なるミス、ヒューマンエラーで事故が起きてしまった場合の考え方に課題がある。日本社会はうまくいくと褒めるが、マニュアル通りにやらなかったことで重大な結果を招いた場合、メディアも含めて当事者を批判する傾向がある。13年前に福知山線脱線事故があったJR西日本では、ヒューマンエラーの場合には罰しないと、会社全体で考え方を変えた。これは非常に良いことだと思っている。安全のために頑張ろうとして上手いかなかった時には責め立てないという文化を社会全体で作っていくことが、安全を向上することにつながる」(安部氏)。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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