青年校長5年目。学校運営は、教員の成長が鍵

何かの拍子で考えがブレてしまった際にも基軸に立ち戻れます。

前回の記事(リンク)で、教員採用のあれこれが完結しました。次は教員の育成が重要なフェーズに移ります。

ただ、教員育成という大枠について話をすると、組織風土作りや人事評価方法など、多くの要素が関わってきてしまうので、ここでは採用後の教員研修についてお話しします。

採用した現地教員に対する私の想い

K.Furusawa

年度の始めはいつも、私は教員たちに「みんなをこのような教員に成長させる」といったコミットと想いを話します。

それは「自ら考えて、自ら行動できる自立型教員」です。教員研修内容や組織文化を構築する時もそうですが、私のほとんどの言動がそれに紐づいています。

学校の現場では教員自ら判断しなければいけない状況が多々あります。子どもや保護者とのやりとりもそうですし、たまに予想だにしない事件も起こったりもします。対応マニュアルなんてものはありません。

彼らが自ら判断する、もしくは責任者に報告・相談する。一人ひとり、各現場の状況に応じて考えることができる教員に育てなければいけないと思っています。

これらは日本企業における社員教育から見れば当たり前かもしれませんが、バングラデシュは「上の言うことは絶対」です。指示されたらその通りに動く、また勝手に動いて怒られることのないように指示以外のことはしない。そういった文化が根強くあります。

ただ、私たちの学校は教員、そして生徒みんなの学校であり、関わる人みんなで作っていく学校。上も下もありません。そのためには自ら考えて行動できる人が必要です。近い将来のことを考えれば専門教科を教えるだけでなく、学校内のプロジェクトを任せることができる教員も必要ですし、学校運営側に立つ教員も必要です。

そういったことを、彼らに常日頃から意識してもらうために、事あるごとに私の想いを伝えています。時には厳しいことを言うこともありますし、私が教員に相談された際も「あなたはどう思うの?」「あなたの意見は?」と質問で返すことがほとんどです。そういった中で、少しずつですが、私の言動を理解している教員が多くなったように思います。

チームの成長ステージ、はじめは「帰属」から

K.Furusawa

教員採用後、8名全員が集った最初の顔合わせの場で、まず私が意識したのは彼らに帰属心をもたせることでした。

これは私が恩師から教わったことですが、チームには帰属 自己主張 協力という3つの成長段階があり、各ステージによってアプローチ方法も異なるということです(ここでは詳しくは話しませんが......)。そのチーム作りのはじめの段階が、帰属です。

採用されたばかりの教員に帰属意識を与え、自らがこの学校を作り上げていると実感をさせるために、開校前ながら彼らの最初の仕事として「学校の制服づくり」をお願いしました。

8名でどのような制服にするかをゼロから考え、決定するまでの仕事です。彼らはミーティングを重ね、いくつかデザインが絞られた時のこと。ある教員から提案がありました。

「3種類のデザインまで絞ることができました。どれも良い案なのでここから私たちがひとつに絞ることは難しいです。来月の開校式で会場に来ていただいた方々に投票してもらい、最終決定するのはどうでしょうか?」

予想もしていなかったけれど面白い発想だということで、地域や支援者の方々の投票で決める形にしました。その後、開校式の投票で決定しましたが、8名のやりきった表情が自信に満ちていたのを今でも覚えています。

8名の中に帰属心と共に団結力が芽生え、開校後バタバタする時期も難無く乗り越えることができました。その後も、毎年採用が終わって初めての研修には、帰属意識を高めるイベントを行っています。

それがどこまで関係しているかは定かではありませんが、本校では不当な理由での離職は今まで一切ありません。

年間通しての定期的な教員研修

K.Furusawa

毎月1回ないし2回、講義式の教員研修を行っています。現在は新人教員、2年目以降、そして管理職と分けてそれぞれ違う研修を実施していますが、開校当時は全員が新人教員です。

信じる宗教も異なれば、文化や慣習も違います。もちろん一人ひとりの価値観も違います。そういった中で全員が共通した基軸をもつために、休日のまとまった時間を使って研修を実施しています。教員研修として定期的に実施していることをまとめると、大きく3つあります。

・本校の教員として最低限必要な基本的な考え方・価値観

・各種スキル(ビジネススキル含む)

・授業スキル

特に重要なのが本校教員としての基本的な考え方・価値観です。学校理念・目的についてより深く浸透させるためにケーススタディを用いてディスカッションを行ったり、私たちがなぜ働いているのかを考えさせたり、などなど。

そういった研修から私たちの基軸や指標を理解させていきます。もちろん、頭で理解できたとしても価値観はすぐには変わりません。そのため、何らかの事象をあげながら何度も話をします。

私たちの学校にいくつかある基軸の中で、一番重要かつ中心にある軸が「子どもたちのためになるかどうか(幸せかどうか)」です。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、バングラデシュの教育現場にはそうとはいえない状況が多々あります。

例えば過去、こういうことがありました。

3日連続で学校を休んだ生徒がいました。たまたま私がそのことを知り、担任教師に欠席理由を聞いたところ、親には電話は繋がらない。

その生徒の友達曰く、遊びに行っているとのこと。担任はそれに対して、「遊びに行っているのなら、その生徒が悪いだけなので、そのままにしている」とのこと。

私は何もアプローチをしないまま放っておくことが本当に子どもにとって良いことかどうかを問いかけました。彼も何かに気づいたようで、すぐ放課後に彼の家へ行き、生徒と話をしてきました。生徒は翌日から再び登校するようになりました。

こういった判断の基軸をもつことで、何かの拍子で考えがブレてしまった際にも基軸に立ち戻れます。

また学校としての共通している基軸なので、現地教員たちと共通理解する概念のひとつとして、コミュニケーションもとりやすいですね。

各種スキル研修

K.Furusawa

教員にビジネススキルが必要かという議論がありますが、私は必要だと思っています。そこには、私が彼らに「自分で考えて自分で行動できる教員になってほしい」という想いがあるからですが、教員だからこそ授業スキルだけでなくコーチングスキルやカウンセリングスキル、論理的思考、タイムマネジメントなどを学ぶことによって、より生徒とのコミュニケーショ向上やより広い視野で物事を見ることに活用できると思っています。

また授業スキルについて基本的なことは研修で私が話をしますが、実践的なところではPDCAサイクルを実施しています。

年間シラバス作成 指導案作成 研究授業(公開授業) 周囲からのフィードバック 次回の対策というローテーションです。研究授業という形で多くの教員に見学しに来てもらい、授業の評価をもらっています。

もちろん教員間のフィードバックでは言いにくいこともあります。ただ、私はお互い言い合える組織文化を作りたかったので、共通理解としていくつか自分たちのルールを作っています。

例えば、「ソフトラブとハードラブ」(造語です!)。

ソフトラブは相手の良い点や褒めたい点などを指し、ハードラブは改善点などを指します。ハードラブは、「本当に相手のことを思っているからこそ、言いにくいことも言える)という意識付けをすることで、仲間にはソフトラブだけでなくハードラブを伝えてあげたほうがいい、と話をすると、研究授業後、自ら「私のハードラブを教えて!」と多くの教員が積極的に聞きにいくようになりました。

お互い高め合える環境が浸透してきたことで、各教員の授業の質もどんどん上がってきています。あとは数年後の高校卒業試験の結果に期待!

最後に

K.Furusawa

ここまで教員の教育について長々話をしてきましたが、教員を育てるには「OJT」に時間もエネルギーも多くを割いてきました。しかし全てが計画通りにうまくいくわけもなく、研修時に教員たちに理解をさせることはできても、行動に移せるようになるまでにはかなりの時間を要します。何度も何度も異なるケース・スタディをしたり、カウンセリングやアドバイスをしたりして、少しずつ良くなってきました。

現在は、今まで私がやってきたことを、今度は現地スタッフたちが教えられるよう、指導をしているところです。教える側になることで彼らがより深く学ぶ機会にもなりますし、組織が大きくなればなるほど教員の成長も必要になってきます。その引き上げに、今はまた時間をかけているところです。

Ambassadorのプロフィール

K.Furusawa

K.Furusawa

宮城県仙台市出身。大学在学中はプロキックボクサーとして活躍。卒業後は日本の私学教員をやりながらタイ、カンボジア、ネパール、ミャンマーなどアジアの教育支援に携わる。その後、とある公益財団法人の仕事としてバングラデシュでモデル校となる学校建設・運営を任される。現在は生徒数約800名の学校をバングラデシュで運営中。

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