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ビジネス・スクール2.0 ――Japan Inc. のZen的可能性にアジアの未来が見える

2014年11月14日 15時56分 JST | 更新 2015年01月13日 19時12分 JST
YOSHIKAZU TSUNO via Getty Images
TOKYO, JAPAN: This is general view of Japan's Hitotsubashi University (main building) in Kunitachi city, suburban Tokyo 26 February 2004. AFP PHOTO/Yoshikazu TSUNO (Photo credit should read YOSHIKAZU TSUNO/AFP/Getty Images)

「やはり、アジア諸国は、依然日本に対して、リスペクトを抱いていると考えます。北京大学やソウル大学からも、日本のビジネス・スクールと組みたいという要望をいただく機会が多いのです」

こう語るのは、専門職大学院として文部科学省が日本で最初に認可したビジネス・スクールである、一橋大学院国際企業戦略研究科(以下一橋ICS)の研究科長、一條和生教授だ。

その一橋ICSがホスト役となり、11月15日土曜日に日中韓のビジネス・スクールで形成するアライアンスの年次シンポジウムが、一橋大学一橋講堂で催される。

政治サイドでは、日中のトップ会談が行われ、ようやく雪解けムードの兆しが見え始めているが、極東アジアの最も重要な二国間関係がこじれにこじれる中でも、産学協同で日中韓の交流と連携を重ねる努力が続けられていた。それが日本の一橋ICS、北京大学とソウル大学のビジネス・スクールで形成する『BEST Alliance(ベスト・アライアンス)』だ。ソウル大学からは総勢30名にも上る教員が大挙してやってくる。

ビジネス・スクールの世界的なトレンドと言えば、仏INSEADや米Kellogg School of Managementなど、欧米の名門ビジネス・スクールが我先にとシンガポール校や北京校の開設に走る中、当の中国と韓国を代表するビジネス・スクールは、今なぜ日本、なおかつ一橋ICSとの連携を求めるのか。

「それは一重に日本企業の力があるからです。MBAよりも成長しているEMBA(企業に在籍しながら取得できる学位)で言えば、ランキングナンバー1は香港科学技術大学と米・Kellogg School of Managementが組んだプログラム。ナンバー2は中国・清華大学と仏・INSEADが組んだプログラムと、世界の成長エンジンであるアジアのビジネス・スクールと組むことが欧米のビジネス・スクールの生き残り策となっています。ただ、日本に関して言えば、一橋ICSは2000年に最初の学生を迎えて以来、Kellogg School of ManagementやThe Drucker School、London Business Schoolといった名門スクールとの提携で実績を積み上げています。その上、トヨタ、ホンダ、オリックスといった、世界に誇る日本企業の強みを世界に教えることに重点をおいているので、一橋ICSでしか学べない日本企業のケースを研究したいと、アジアのみならず世界の人材が集まってきます」。

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一橋ICSは、日本の企業との強いコネクションを売りにしている。企業側も積極的だ。たとえば、UNIQLO/ファースト・リテイリング、良品計画(MUJI)、ローソンなどの幹部や経営トップも学生とのディスカッションに参加する。

それはどんな授業なのだろうーー。

世界のトップ27のビジネス・スクールが提携しているネットワーク(脚注GNAM参照)のプログラムの一環で、一橋ICSは、今年の3月に、各提携校から学生が参加する合同授業を実施した。その中で、参加学生はまずユニクロ銀座店の朝礼に参加し、開店前のスタッフの話し合いから、頬をゆるませる「スマイル体操」に到るまで、世界に冠たる販売アプローチの裏側を学ぶ。ストア・マネージャーのレクチャーを受けて現場を一通り体験した後は、本社に移動し、柳井正CEOと一時間に及ぶディスカッションを行う。

日本企業のトップに会い、彼らから直接学べるーーアジアからの学生にとって、これ以上のチャンスは無い。だが、実際に学生に話を聞いてみると、「企業カルチャー」の枠を超えた「日本的体験」こそが一橋ICSを唯一無二の存在たらしめていることが見えてくる。

中国の上海出身で、現在一橋ICSのMBAコース二年目に在籍中のハオ・リーピンさんに話を聞いた。

「一橋ICSの教授陣は日本企業のトップとのコネクションがとても強いのです。その上、教授陣はHarvard Business SchoolやColumbia Business Schoolといったトップレベルのビジネス・スクール出身のため、英語や授業のレベルも高い。でも、一橋ICSの何が一番私に影響を与えたかというと、メンタル、いえスピリチュアルといってもいい講義でした。一橋ICSでは他のビジネス・スクールでは提供していない特別な課題も出されるのです。<グローバル・シチズンシップ>という授業では、たとえば鎌倉の円覚寺にいって座禅を組んで<禅>の思想を学んだり、様々な障害を抱える子供たちと交流したり、高齢者のお世話をしたり。その経験を通じて、私は、自分はどうしたら社会に貢献できるのかを考えるようになりました。限られた資源をシェアするなど、日本の精神文化が、社会的責任も重視する日本の企業カルチャーの根幹にあると思います。それは、中国だけでなく、世界中の国、アメリカだって日本から学ぶべきことなんです。私には6才になる娘がいますが、大きくなったら、もっと市民がお互いを助け合えるような、利益追求だけがすべてではない社会で生きてほしい。だから、私はとっても大事なことを一橋ICSで学びました」。

「利潤追求だけでない、限られた資源をシェアできるコーポレート・ソサエティ」――上海からきたハオさんは、都市が猛スピードで、自然と農村を呑み込んで行っている母国、中国の現状に対して、ひとつのオルタナティブ――より調和した社会と企業の在り方の可能性を日本のビジネス・スクールで感じ取っていた。

興味深いことに、彼女たち学生の就職先企業に、5年ほど前からある変化が起きているという。

「10年程前は、外資系の金融とコンサルへの就職が9割。ところが4~5程年前から日本企業が増えはじめました。日本文化を理解したうえで、現地で活躍できる人材を探したい、という日本企業の強いニーズが背景にあります」。一橋ICSでキャリア支援を担当する佐々木加奈子氏が教えてくれた。

たしかに、学生の就職先リストには、当然ながら大手金融機関もずらりと並んでいるものの、ローソン、良品計画、ファースト・リテイリング、JTなど実に多種多様だ。

そう、アジアを市場とするのはもはや大手輸出業だけではない。十年ほど前であれば、日経平均36業種で「消費」、いわゆる「コンシューマー・ステイプルス」に分類される企業は超ドメスティック、つまり日本国内市場に依存し、かつ留まるものとされていた。だがいまでは、サントリーからイオン、そしてピジョンなど、ありとあらゆる消費関連業が、アジアでの存在感を増している。

品質を地道に高めることで、こつこつと消費者の信頼を勝ち取ってきた日本企業の努力が報われつつある今、あらためてJapan Inc. という言葉を思い出す。通産省や外務省が主導して日本企業のパイを創り出し、官民一丸となった日本特有の経済モデルを指し、Economic Animal 等と共に、80年代日本経済への欧米の否定的な視線を感じさせる表現だ。

だがいまでは、「官」ないし「政」が不在であろうと、円高だろうと円安であろうと、反日ボイコットで数百億円売上が吹き飛ばされようと、しなやかに荒波を切り抜け、なおかつ危機を成長のバネとする日本企業がたくさんある。上海出身のハオさんは、座禅を組むことで日本企業への理解度を深めたとも言っていたが、たしかに、今ふたたび成長軌道に乗り始めた日本企業の姿は、苦行を経て無常の境地に達し、自らの周りで起こる変化に振り回されないという、禅が目指す生の在り方にも似ている。

今週末開催される日中韓のビジネス・スクールが集う「Annual Symposium for BEST Alliance 」は、アジアのビジネス・リーダーが、どれほど熱い視線を日本企業に注いでいるかを知る良い機会になるだろう。今回、話を聞かせてくれたハオさんも参加するが、彼女は世界的な大手戦略コンサルティングファームの内定を勝ち取っている。新しい職場で、彼女はどんな夢を実現したいのか。

「MBAコースの卒業課題の一つに、ナレッジ・レポートというのがありました。20年後の自分はどんな姿かを述べよ、というものです。私は、中国の地方都市の高校生と、日本の高校生の交換留学を支援するNPOかNGOを作っています、と書きました。中国の地方都市の学生は、政府のプロパガンダでしか日本を知らず、本当の日本の姿に触れる機会に恵まれていません。私は彼らに日本に来て、自分の目で日本を見てもらいたい。逆に、日本の学生にも中国を見てほしい。私がコンサル・ファームに就職するのは、その夢の実現に、たくさんのお金と、たくさんの人脈と、活動をサポートしてくれるたくさんの人が必要だからです。究極的には、中国と日本、そして世界中の国同士がお互いを誤解することなく、争うことなく、もっと平和な世界になって欲しい。それが夢です」。

アメリカのビジネス・スクールはアジアの学生にとって、「アメリカン・ドリーム」の一端を体験できる場所だった。いま、そのアメリカのビジネス・スクールはアジアに向かう。それがビジネス・スクール2・0の潮流。だが、当の成長エンジンであるアジアの国の若きビジネス・パーソンたちは、欧米的資本主義とは一線を画した何かを求めて、日本に向かう。彼、彼女たちが抱くのは、Japanese Dream 。それは、言ってみれば、Asian Dreamでもある。

脚注 GNAM:Global Network for Advanced Management

http://advancedmanagement.net/  米Yale school of business、仏HEC Paris、英London Business School、香港科学技術大学など、原則的に1国1校で、世界の27のトップビジネス・スクールが提携しているネットワーク。日本では一橋ICSのみがメンバーシップを許されており、近年執行部でもリーダーシップを発揮しつつある。