児童養護施設等入所者・退所者の自立支援にハウジングファーストを

ハウジングファーストとは支援をする上では「まずは住まいを提供」という考え方です。ホームレス支援や困窮者支援で提唱されていますが、児童養護施設等社会的養護にもこの考えが浸透する必要があると思っています。
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GWに入り4月も終わりですね。この1ヶ月は高校生支援に携わる者としては、特に入学したての1年生が学校に馴染めなかったり、通学交通費の捻出が難しいとか、遠くて家庭のサポートに乏しいので朝通ってくることが難しい等学校に通う生活の難しさが顕在化し、中退リスクの高い時期の一つとして気をつけたい時期になっています。

中でも特に慎重に考えていきたいのが児童養護施設等社会的養護の施設に入所中の生徒達です。彼ら彼女らの多くは、高校を中退したら施設を出なければならないからです。

今日は、この施設退所者の状況と支援について少し書いてみたいと思います。

中退・卒業で高校を離れる施設入所者が直面する問題

高校を中退や卒業で離れる施設入所者の多くが、同時に施設も退所しなければなりません。これまで児童養護施設等は従来義務教育までが対象年齢で、高校等に進学した子どもたちに限り施設に残ることができていました。高校進学後も、中退すると退所することになります。現在、厚生労働省は必要に応じて高校卒業後も20歳まで措置延長することや、義務教育終了後進学しなかったり、高校中退で就労する者であってもでき得る限り入所を継続していくことが必要だとしています。それでも、実際には退所してしまう子どもたちも多くいます。

これはつまり、高校生という身分と同時に住まいも失ってしまことを意味します。

施設退所後の進路

そのため、多くの施設入所者は高校生の間にアルバイトをして施設退所後の一人暮らし資金を貯めるか、そうでなければ寮付きの仕事という条件で就職口を探すことになります。高校生が学業と両立しながらするアルバイトでは一人暮らしのスタートアップ資金を全て賄えるだけの金額を貯金することは難しく、現実には多くの施設入所者が寮付きの就職口を探すことになります。これは非常にリスクの高い進路選択です。

一つには寮付きの仕事がある業種・職種・会社が非常に限られることです。一般的に仕事を探す上では自分の適性や興味に合わせて職業や会社、働き方を選んでいくことで、良い職業生活を実現していきます。これは長く続けることにつながり、長く続けることで職業人としての能力をつけていきます。しかし、寮付きの仕事という条件で職業を選択するのでは自ずと進路が限られ、自分に合わない仕事を選び、離職してしまうリスクが高まります。充分な力をつけないまま職を転々とする生活を送っていくと、キャリアが積み上がらず、より就労が困難になります。

二つ目は、リーマンショック後の派遣切りに見られたように、住まい付きの仕事はその仕事を失った時に同時に住まいも失ってしまうというリスクを持っていることです。さらに、住まいを失うと、再就職が難しくなるというリスクもあります。特に正社員の就職では保証人が要ることもあり、家族に保証人を頼めない施設退所者は不利になりがちです。そこに加えて住所がないのでは、就職にあたっても極めて不利な状況に置かれます。

施設入所者・退所者への自立支援にハウジングファーストを

最近、施設退所者の奨学金制度が創設されたり、就労支援に取り組む団体さんが活躍されていたり、退所後のサポートが充実してきています。これは非常に喜ばしいことです。

しかし、進路選択を充実させるために最も重要なことは、児童養護施設等を退所する時の「住まい確保」なのではないかと思います。

未成年で児童養護施設等を退所する若者は住まいを確保するのが極めて難しいのです。難しさを列挙すると...

・不動産業者に支払う初期費用

・生活を始めるために必要な家財道具一式

・保証人or保証会社の審査を通過するための安定した雇用

・緊急連絡先

・保護者の同意orそれに代わる身元引き受け人等

このような条件を確保して初めて住まいが手に入れられるのです。これは非常にハードルが高いことです。だから適性よりも寮つきという条件を優先して職を選ばざるを得なくなってしまうのです。しかし、これは既に述べたように非常にリスクの高い進路選択の方法です。本当は住まいは住まいで確保して、その上でそれぞれの適性や希望に合わせた進路が選べるようにする、"ハウジングファースト"が支援の基礎であるべきです。

ハウジングファーストとは支援をする上では「まずは住まいを提供」という考え方です。ホームレス支援や困窮者支援で提唱されていますが、児童養護施設等社会的養護にもこの考えが浸透する必要があると思っています。

※本記事は鈴木晶子の若者困窮者支援日記「児童養護施設等入所者•退所者の自立支援にハウジングファーストを」に若干の加筆修正を加えたものです。

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