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「風俗はセーフティネットなのか?」:風俗から現在のセーフティネットを考える【前編】

2015年11月26日 23時53分 JST | 更新 2016年11月25日 19時12分 JST

2015年11月1日に「性の公共」に取り組む一般社団法人ホワイトハンズ主催のセックスワークサミット2015秋「女性の貧困と性風俗〜性風俗は最後のセーフティネットなのか」が開催され、お招きを頂き登壇してきました。

messyでその日のレポート記事"いま改めて問うー「性風俗はセーフティネットか?」ー福祉と風俗経営それぞれの見地から"、ウートピでも前・中・後編と3部に分けて当日の様子をレポート記事がリリースされ、反響も大きいようです。

実際SWサミットが終わった後にも色々ご意見・反響をいただいていたのですが、いくつかの論点があるように思います。今回は、「セーフティネットとは何か?」というところから整理し、いくつかの観点から思っている点を述べたいと思います。

1. セーフティネットとは何か?

さまざまな分野でセーフティネットという言葉が使われます。が、セーフティネットとは直訳すれば「安全網」であり、ネット(網)を貼ることで転落を防止し、人々の安全を守ってくれるものです。ここでは、人々の生活をを支える「社会保障」としてのセーフティネットについて考えたいと思います。

社会保障については、何か一つをあれがセーフティネットなのかそうでないのかという議論をするのではなく、重層的に考える必要があります。具体的には、

「日本の社会保障には、国民皆保険、企業による雇用保障、子育て・介護における家族責任の重視、小規模で高齢世代中心の社会保障支出といった特徴がありました。」

(平成24年度版厚生労働白書35ページ)

とされます。つまり、セーフティネットとは生活保護やその他給付を始めとする公的な福祉だけでなく、医療・年金・介護・雇用といった保険、企業での雇用や個人や家族の自助努力まで含めて考えていく必要のあるものです。

2. 公的福祉の脆弱さ

「風俗はセーフティネットなのか?」という問いを考える時、一つには既存の福祉が行き届いていない現状、もう一つには性風俗に従事する人たちが該当する現役世代への公的社会保障の脆弱さが指摘できるでしょう。

本来「最後のセーフティネット」であるはずの生活保護の受けにくさ、縦割りで利用者本位でない各種制度、住宅施策や不十分さ、若者や保育等子育て世帯、女性への福祉の不足、障害福祉の予算の少なさなど、これまで各分野で言われてきたことの総体であり、まさにこのサミットの開催趣旨はこの点と性風俗との関連を主に議論したと言えるかと思います。

3. 男性稼ぎ手モデルによる社会保障

しかし、もう一つの論点は女性の労働の問題です。

現役世代にとっては社会保険と企業福祉がセーフティネットとなってきました。これまで企業に正社員で属していることにより、健康保険や厚生年金、雇用保険の社会保険に加え、住宅(社宅や家賃補助など)、家族手当、最近なら企業内保育所、その他の各種福利厚生というように、労働者(主に男性)に企業福祉が提供されてきました。

そして、それにより、妻やその家族にまで恩恵が行き届いてきたと考えられています。これは、皆が学校を卒業すると正社員で就職し、結婚をし、男性の終身雇用で家族にまで恩恵が及ぶ"新卒一括採用終身雇用による男性稼ぎ手モデル"を前提としたものでした。現役世代については、公的社会保障より男性の雇用保障がセーフティネットを形成してきたと言えます。

一方で、単身の女性やシングルマザーなどはどうでしょうか?元々このセーフティネットからもれていた人だったのではないでしょうか?例えば、私が昨年1月に出演したNHKのクローズアップ現代では、仕事だけでなく風俗が住居や保育を提供している様子が話題を呼びました。

住まいや保育を提供している企業は風俗だけでありません。特に住居に関しては上記のように男性労働者にはかなり幅広く提供されてきたものでした。企業が提供する福祉は優秀な従業員の確保や定着、就業意欲の向上などを狙っているものと考えられますが、風俗店の住居や保育の提供のニュースが驚きを持って受け止められた理由の一つは女性労働者の確保に生計を維持するに足る賃金を支払い、手厚い福祉を提供する企業が少なかった、ということだろうと思います。

しかし、労働者の非正規化が進行し、これまでのセーフティネットの有り様では対応しきれない社会になっているのは、社会全体の問題です。それが強烈な形で露呈したのがリーマンショック後の年越し派遣村でしょう。非正規雇用で働く人が4割を超えた今、企業福祉中心のセーフティネットでは立ち行かなくなっています。

また正社員の人たちにとっても、給与による所得保障のみならずさまざまな福祉を勤務先に依存している状況はリスクが伴います。保障と引き換えに、無制限の労働を強要されかねないことによる問題は、過労死、過労自殺、ブラック企業、マタハラ、パタハラ...と枚挙にいとまがないほどです。

これまでの男性稼ぎ手モデルによる社会保障のあり方は、企業の内部にいる人にも、外部にいる人にも大きなリスクとなっています。既に、現役世代の社会保障の中心を企業に依拠するのは限界に達しています。

さて、前編はこの辺りにしたいと思います。後編では地域での支え合いや貧困の連鎖、自助努力の限界について考えていきたいと思います。