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ブラック企業問題は市場原理が解決する

2014年08月03日 23時52分 JST | 更新 2014年08月03日 23時52分 JST

知り合いの大学教授から、「居酒屋でアルバイトをする学生の退学が増えて困っている」という話を聞きました。原因は、日本経済の大きな問題になってきた人手不足です。

居酒屋や牛丼の大手チェーンが次々と店舗の閉鎖に追い込まれているように、サービス業ではアルバイトの確保に四苦八苦しています。学生はイメージのいいカフェなどで働きたがり、“ブラック企業”のレッテルを張られるようなところには来てくれないのです。

これは、居酒屋の運営に責任を持つ店長にとってはきわめて深刻な事態です。そんなとき、優秀な学生がたまたまバイトに応募してきたらどうなるでしょう。

店長はこの千載一遇の機会を逃さないよう、あらゆる手段で学生を引き留めようとするにちがいありません。店を仕切れるスタッフがいなくなれば店舗は閉鎖され、店長の仕事もなくなって家族ともども路頭に迷ってしまうのです。

学生のなかには、いい年をした大人の必死の説得を断れない心根の優しい若者もいます。こうして学業とアルバイトが逆転し、居酒屋が生活の中心になって、単位が取れず退学せざるを得なくなるのです。

美容院を経営している知り合いは、同じ雑居ビルに入っている居酒屋に憤慨していました。なんど注意してもゴミ出しなどのルールを守らないばかりか、客と店員が喧嘩して警察を呼ぶ騒ぎを何度も起こしているのだといいます。

ビルの入居者を代表して彼が居酒屋に苦情をいいにいくと、店長は平謝りするものの、いつまでに改善できるのか具体的な話をいっさいしません。彼が問い詰めると、居酒屋の店長は驚くべきことをいいました。

「私にはアルバイトにはなにもいえないんです。わかってください」

事情を聞いてみると、その店を実質的に支配しているのは路上の呼び込みとアルバイトでした。客とのトラブルのほとんどは「(呼び込みのいったことと)話がちがう」のが原因ですが、客は歩合制の呼び込みが連れてくるので彼らに逆らうようなことはできません。アルバイトを募集しても応募はほとんどなく、厨房やフロアのスタッフを辞めさせることもできません。店長とは名ばかりで、スタッフの機嫌をとるのが仕事なのですから、管理などできるわけがないのです。

「あとはつぶれてくれるのを待つだけですよ」と、知人はあきらめ顔でいいました。

ブラック企業が批判されるのは、新卒の正社員を大量に雇い、残業代を払わずに最低賃金以下で働かせ、使い捨てていくからです。こうした「ビジネスモデル」は、人材が無尽蔵に供給されることを前提にしています。2007年の世界金融危機に端を発した景気低迷で労働市場の需給がゆるんだことで、この「価格破壊」が可能になりました。

ところがアベノミクスによる景気回復で、少子高齢化の日本が今後、労働力の枯渇に悩まされることがはっきりしてきました。

需要と供給の法則では、供給が少なければ少ないほど価値は高くなっていきます。人手不足によってブラック企業のビジネスモデルは崩壊し、やがて市場からの退出を迫られることになるでしょう。

皮肉なことに、道徳的な批判や政府の規制ではなく、市場原理によってブラック企業問題は解決されるのです。

週刊プレイボーイ』2014年7月28日発売号