地域の住民を抑圧したビルマの経済発展~銅山開発をめぐる人権侵害~

銅山の開発を進めるために、政府は何千もの住民を強制的に立ち退かせた。反対する住民たちが抗議をするたびに、武力で鎮圧され死傷者が出ている。

座り込みの抗議活動を続ける農民 ©AP/Press Association Images

ビルマ(ミャンマー)では民政移管の中、欧米諸国からの経済制裁が2012年より実質的に緩和され、外資による投資に門戸が開かれた。テインセイン大統領も政治改革に並行して経済改革を行うことを発表した。

石油や天然ガス、鉱物、希少宝石などの資源が豊富なビルマだが、資源採取産業は、資金不足や技術不足のため発展途上だった。そのためこの国に進出する国際的な石油会社、天然ガス会社、鉱山開発会社が増えてきている。

アムネスティ・インターナショナルはビルマ北西部、ザガイン地域で行われているモンユワ事業(モンユワ銅山の銅資源開発)が人権状況にどのような影響を与えているかについて、1年かけて調査した。その結果、人権面でいくつかの問題があることが判明した。

▽ ビルマ:最新の報告書を読む(PDF)

■□■ 強制立ち退き ■□■

モンユワ銅山の開発を進めるために、政府は何千もの住民を強制的に立ち退かせた。このプロジェクトでは4つの村落の全面立ち退きが前提となっており、2014 年5 月の段階で、4 村落の245 世帯が別の地域に転居させられた。しかし、事前の相談はなく、適正な手続き、補償、移住先の提示、法的救済措置などもなかった。その結果、立ち退きさせられた住民は生計を立てられなくなってしまい、他人の農地で農作業をするなどしている。

その一方で196 世帯は転居を拒否している。開発を進めている企業は開発対象地域を拡大すると公表しており、転居を拒否した世帯に加えて、強制立ち退きを迫られる住民はさらに増えるだろう。

■□■ 抗議活動を鎮圧する政府 ■□■

銅山開発に反対する住民たちは、抗議をするたびに警察の武力で鎮圧され、死傷者が出ている。その際に白リン弾が使われたという報告もある。白リンは毒物で、焼夷剤や煙幕など空中で発火し白煙を出す弾薬として軍で使われているが、平和的に抗議する人たちに使用することは、国際法に違反する行為である。白リンの被害を受けた人の中には深刻な火傷を負って、一生消えない傷が残ってしまった人もいる。

なお、この鎮圧行為では、開発に携わる企業の一つである中国系企業のミャンマー万宝社が警察に対して物的支援をしていることも明らかになっている。また、抗議活動に参加する人が逮捕・収監されてもいる。政府は恣意的に解釈できる法律を利用して逮捕し、刑務所に拘禁しているのである。

白リン弾で重い火傷を負った僧侶の足 ©Amnesty International

■□■ 環境汚染 ■□■

モンユワ銅山開発の影響を受ける村は、程度に差こそあれ、およそ36 にのぼるだろう。村民の大部分は、農場での季節労働など農業で生計を立てている。どの村もきわめて貧しく、農地などを失ったり被害を受けたりすれば、自給自足の村民には壊滅的な打撃となる恐れがある。開発事業の環境へのリスクは村民の生活に直結するもので、管理が適正でなければ、人権侵害にもなりうる。

モンユワ事業の場合、採掘中の硫化銅の鉱床から通常より高濃度の酸が発生し、環境悪化を加速させている。採掘事業から出る酸や重金属は、地域社会の暮らしを支えている地下水や河川に重大な影響を与える恐れがある。このような排出物は、有害物を浄化するのが難しく、他の水域を汚染する可能性もあるため、長期で広範にわたる問題を引き起こしかねない。

■□■ モンユワ事業から見えてくる問題点 ■□■

モンユワ事業は、多数の問題を抱えている。政府は、さらなる人権侵害を防ぎ、すでに起きている人権侵害については救済措置をすぐにでも行うべきだ。また、土地取得や環境保護、抗議への治安対策について、適切な法制度の整備も必要である。モンユワ事業が証明しているように、企業による自己規制では解決にならない。政府が人権を保護し、人権侵害者の責任を確実に追及することが不可欠なのだ。

一方でビルマに進出する企業の本国となる政府(現在のモンユワ事業ではカナダ・中国が相当する)は、投資やビジネス展開が人権に及ぼす影響などを事前にきちんと調査・分析するよう、企業に義務付けることが必要である。

開発対象となる土地を持つ政府、開発に関連する企業、その企業の本国政府、この三者が連携し、開発地域の人びとの人権を蹂躙することのないようにして、はじめて開発は進められるべきである。自国の利潤追求のみで進むことがあってはならない。

(アムネスティ・インターナショナル日本)

※ ビルマの国名表記について

1989年、同国の軍政は、国名の英語表記を「ビルマ(Burma)」から「ミャンマー (Myanmar)」に変更しました。しかし、正当なプロセスをふみ樹立された政権でないことは明らかであり、また一方的な国名表記の変更に対する国民の反発も強くあります。そのため、同国の民主化を求める人びとや欧米の一部の国々、マスメディアなどは、「ビルマ」という表記を使い続けています。こうした事情を踏まえ、アムネスティ日本は、国名を「ビルマ」または「ビルマ(ミャンマー)」と表記しています。

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