5年ぶりの総選挙目前! 強まる弾圧、増え続ける投獄

すべての「良心の囚人」の釈放を。

学生活動家ピョーピョーアウンさん。新たな教育法が学問の自由を妨げるとして非暴力の抗議を行い、2015年3月から拘束され続けている。有罪となれば7年の禁錮刑の可能性がある。 ©private

11月8日、ビルマ(ミャンマー)では5年ぶりの総選挙が実施される。軍政から民政に移行して初の総選挙となり、国際社会の注目度も高い。

総選挙そのものが公正に行われることが重要だが、投票日を迎えるまでの状況も注目したい。というのも2014年以降、再び市民運動を弾圧する暗雲が広がっているのだ。

94人の「良心の囚人」がいまも獄中に

ビルマ(ミャンマー)は2010年11月に20年ぶりの総選挙を実施し、翌年に軍政から民政への移行が始まった。国際社会からの圧力を受け、2012年と13年にテインセイン大統領は政治囚を大量に釈放した。

その中には、暴力も用いていないのに信念や信仰、人種、発言内容などを理由に囚われていた「良心の囚人」数百人も含まれていた。こうした政権の姿勢は国際社会から歓迎され、改革が順調に進んでいることを印象づけた。

しかし、実はビルマには、現時点でも少なくとも94人の「良心の囚人」がいる。さらに、2014年に入ってから当局の取り締まりが強化され、報道関係者や人権、学生活動家の逮捕や起訴、禁錮刑が再び増えている。新たな「良心の囚人」が大量に生まれつつあるのだ。

学問の自由を求めて逮捕

ピョーピョーアウンさんは、ビルマ最大の学生団体である全ビルマ学生連盟(ABFSU)を率いる若きリーダーだ。2015年3月に逮捕され、現在も拘束され続けている。

ABFSUは、議会で可決された新教育法が学問の自由を狭めるとして、同法の修正を求めて抗議活動を続けていた。2月初旬、ABFSUはじめ複数の学生団体は、新教育法への反対をアピールするためにそれぞれ違うルートで国中を行進、ヤンゴンで落ち合うことにしていた。しかし、ヤンゴンに近づいていた3月10日、道をバリケードで塞いでいた警察と対峙し、ピョーピョーアウンさんを含む100人以上の学生が拘束された。

行進を指揮したピョーピョーアウンさんら学生リーダーは、複数の法に違反した嫌疑をかけられている。有罪となれば10年以上の禁錮刑となる恐れもある。

農民の弁護人となって逮捕

弁護士であるゾーウィンさんは、ビルマ第二の都市マンダレーで、土地を没収された農民の弁護を引き受け、裁判で闘っていた。

2014年5月、ゾーウィンさんは申し立てている事案の審問のために地方裁判所の法廷にいた。休憩中に裁判所の外に出た彼は、道路を歩きながらメガホンで、不公正な判決を取り下げて司法の改革を行うよう道行く人に訴えた。そのときに問題は何も起きず、彼は裁判所に戻った。

ところが1カ月ほどたった8月下旬、ゾーウィンさんは自宅でいきなり逮捕されたのである。容疑は「許可なく抗議行動を行った」こと、そして「扇動罪」である。それ以来、ゾーウィンさんは現在までマンダレーの刑務所に収監されており、裁判が続いている。

政権批判を封じ込めるための法律

ピョーピョーアウンさんとゾーウィンさんの他にも、数百人が2014年以降に逮捕され、禁錮刑を受ける危険に直面している。この10月にも、24歳の女性と平和活動家2人が軍のトップをからかう内容のメッセージや写真をFacebookに投稿したとして逮捕された。彼らはみな、平和的な手段で自らの意見を述べたり政権を批判したり、あるいは開発によって土地を奪われた農民を支援していただけの人びとだ。

こうした弾圧には、さまざまな法律が利用されている。とりわけ、市民運動や活動家を取り締まるために軍政時代から使われているのは、刑法143条(不法な集会への参加)、147条(暴動)、295条(宗教侮辱罪)、505条(b)(扇動罪)などだ。さらに、前述したFacebookなどSNSやブログを使って政権を批判した場合、「電気通信法」を利用して逮捕・起訴され有罪判決を受ける例もある。

植民地時代に制定された国家機密法は、国家の安全や利益に損害を与えるような目的の情報を所持したり伝えることを違法行為とし、機密とされている公的情報を受け取ったり所持したり伝えたりする者は誰でも2年の禁錮刑に処すとしている。しかし、「国家の利益」があいまいに規定されているため、政府の恣意的な解釈で、これまでも多くのジャーナリストや活動家が有罪判決を受けてきた。

また、2011年に制定された平和的集会と行進に関する法は、「国家の安全や法の支配を脅かす」と見なした集会や行進を許可しない権限が政府に与えられているが、これもまた定義があいまいであり、違反したものは最長3カ月の禁錮刑となる恐れがある。

真の改革のために、すべての「良心の囚人」の釈放を!

国際社会は、来る11月8日の総選挙がビルマの真の改革の試金石と考えている。しかし同時に、総選挙の陰で悪化している表現の自由への弾圧を見過ごしてはならない。テインセイン大統領は総選挙実施を待たずに、すべての「良心の囚人」を釈放し、平和的に活動している人びとへの弾圧をやめるべきである。

(アムネスティ・インターナショナル日本)

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アムネスティは現在、良心の囚人が全員釈放されるよう求める署名活動を展開中です。ぜひ参加してください。

署名:11月総選挙目前 ! 「良心の囚人」を自由に !!

【ビルマの国名表記について】

1989年、同国の軍政は、国名の英語表記を「ビルマ(Burma)」から「ミャンマー (Myanmar)」に変更しました。しかし、正当なプロセスをふみ樹立された政権でないことは明らかであり、また一方的な国名表記の変更に対する国民の 反発も強くあります。そのため、同国の民主化を求める人びとや欧米の一部の国々、マスメディアな どは、「ビルマ」という表記を使い続けています。 こうした事情を踏まえ、アムネスティ日本は、国名を「ビルマ」または 「ビルマ(ミャンマー)」と表記しています。

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