トランプ大統領令はイスラム教徒の難民への宣戦布告

この大統領令は、はなから合理性に欠け、ばかげているのだ。そして、あまりに不穏で恐ろしい。
© Amnesty International

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1月27日、ドナルド・J・トランプ大統領は、「外国籍のテロリストの攻撃から国を守る」という大統領令を発令した。署名一つで、シリア難民を米国から追い返し、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、イエメン出身の人すべての入国も事実上阻止したのだ。

2月3日に、米連邦地裁が一時差し止めの仮処分を命じ、仮処分取り消しを求める政府側の控訴も退けられたが、トランプ政権は徹底的に争う姿勢を見せている。

これら7カ国には2つの主要な共通点がある。イスラム教徒が圧倒的に多い国であること、そして庇護を求める人びとの大多数が、迫害や拷問などの深刻な人権侵害から逃げてきたことだ。

大統領令では、イスラム教徒の難民が対象だとは明示していないが、背景に反イスラムの考えがあるのは明らかだ。米国はイスラム教徒から保護されなければならず、イスラム教徒は本質的に危険なのだ、と言っているようなものだ。

世界のイスラム難民との戦いを宣言したも同然である。

イスラム教徒であろうとなかろうと、難民が一般市民よりテロ行為を犯す危険性があるという考えを裏付ける根拠などどこにもない。難民はテロリストではない。その逆で、テロリストから逃れてきた人たちである。

そもそも国際法では、テロ犯罪者は自動的に難民として認められない。米国の難民認定プログラムでは、難民は入国の際に、移民や観光客などよりはるかに厳格で細かい審査を受けている。

この大統領令は、はなから合理性に欠け、ばかげているのだ。そして、あまりに不穏で恐ろしい。

現在、2,100万人もが国を追われているという世界的な危機に直面している。そんな中で、最も豊かで最も強力な国の一つが、難民の数少ない希望である「第三国定住」という道を奪う決定を下したのだ。

第三国定住の仕組みを使えば、レバノンやヨルダン、ケニヤ、パキスタンといった国に逃れ、そこで過酷な生活を送っている難民が、別の国で新たな暮らしを築くことができる。

親のいない子ども、紛争で夫や父親を失った家庭、性暴力の危険にさらされる女性、医療が必要な人など、最も追いつめられた人たちを救う道なのだ。要するにこの大統領令は、米国が受入国となることを捨て、弱者の中の弱者に鞭をふるっているのだ。

■ 米国だけの問題ではない

大統領令では、宗教的な迫害を受けていれば、例外として入国禁止の適用を除外するとしている。しかし、あくまで対象は宗教的少数派に限定されている。イスラム教徒の国から逃れてきたキリスト教徒なら認めるという措置だと受け取れる。

宗教的差別を、宗教迫害という言葉で覆い隠したわけだ。確かにいくつかの国では、キリスト教少数派の人たちが、外国人だから、あるいは「アメリカ」の宗教を信じているからという理由で、差別や暴力に直面している。そして、この特別扱いで、彼らへの危険が増すこともあり得る。

「イスラム国」などの武装勢力は、米国のような国々がイスラム教徒を敵視しているのだと示したくて仕方がない。そんな武装勢力にとって、今回の大統領令は、新兵集めに格好の材料となるのは間違いない。

2016年、米国が受け入れた難民の72パーセントは、女性と子どもであった。このことを忘れてはいけない。「難民」という言葉は、新天地での平和な生活を求めて、荒海や砂漠、暴力を乗り越えてきた人びとをきちんと表していないと思う。

私は光栄にも、これまで何人かの難民に出会い、そのたびに、想像を絶する逆境の中で立ち直ってきた力に、謙虚な気持ちにさせられた。米国を含め各国は、このような人びとを受け入れることで、必ず恩恵を受けるはずだ。

大統領閣下、あなたは本気で戦うつもりなのかもしれない。しかし、今日、世界の2,100万人の難民と、保護を求める人びとの傍らで、あるいは彼らのために活動している多くのと組織が連帯し、私たちも戦いを始めた。

(アムネスティ・インターナショナル事務総長 サリル・シェティ)

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アムネスティ日本では、今回の大統領令について、大使館を通じてトランプ大統領に抗議する声を集めています。ぜひ、ご参加ください。

▽ 署名:国や宗教で差別するな!トランプ大統領の入国規制にNO!

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