今の時代、「下積み」なんて必要なの? 仕事と育児とやりたいコト、全部やる

会社員、母、そしてアーティスト。27歳、草野絵美の生き方。
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歌謡エレクトロユニット 「Satellite Young(サテライトヤング)」
宇佐巴史

アーティスト・草野絵美、27歳。

レトロな80年代風ファッションに身を包みながら、未来感のある歌謡エレクトロユニット「Satellite Young(サテライトヤング)」のボーカルだ。

2017年3月、アメリカ・テキサスで開かれた世界的な音楽の祭典「SXSW(サウスバイサウスウエスト)」に招待出演するなど、音楽シーンでの存在感を増している

コアな海外ファンも多い異色のアーティストは、高校時代からフォトグラファーとして活動し、その後、会社経営の経験を経て、広告代理店に入社。2年目の社員として働きながら、4歳の息子を育てる母でもある。

生き急いでいるようにすら見える27歳の草野さん。やりたいことをどんどん実現していく秘訣は一体何なのだろうか。ハフポスト日本版がインタビューした。

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宇佐巴史

——高校生の頃からプロの写真家として活躍し、大学在学中にスタートアップ企業の経営者となった絵美さん。起業したきっかけは何だったのでしょうか。

高校生の時のフォトグラファー活動は、色んな人とつながったり世の中を見たりしたくて始めました。でも、「高校生フォトグラファー」などといって崇められるようになって、それに違和感を持ってしまって。「私よりもっとセンスがあってもっと有名になっていいクリエイターがいるのに」という気持ちが生まれ、そういった才能ある人たちのコミュニティを作ろうと思い起業しました。

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宇佐巴史

——その後、お子さんが生まれてお母さんになった絵美さん。経営していた会社を辞めて、広告会社に就職されました。子育てをしながら働く上で、会社員より時間の融通がききそうな経営者というポジションを捨て、就職したのはなぜでしょうか。

私が新しい創作活動に挑戦できなくなってしまったんです。クリエイターとしての強みを生かして起業したのですが、経営とSatellite Youngとしての活動、そして子育てのすべてをやることに無理が出て来てしまいました。

スタートアップ企業は、ちゃんとお金を調達していかないといけないし、ビジョンを貫いて常にサービスのことを考えていないといけない。自分より能力のあるエンジニアを引っ張っていかないといけないとなると、私自身が新しい挑戦ができなくなってしまって...。

せっかく立ち上げた会社の経営を諦めるのは、恥ずかしかったし悔しかったけど、創作活動をしながら、子どもも育てないといけない。将来的に好きなことで食べていくためにも、社会勉強も兼ねて一度会社に入ろう、と思いました。

当時は悔しかったけど、あのとき諦めて良かったなって今は思います。

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画像はイメージ
Getty Images/iStockphoto

——アーティストであり母でもある状況で大企業の新入社員になった絵美さん。周囲との関係性など苦労することはありませんでしたか?

入社して最初に配属された部署は、すごく忙しい部署で、みんな遅くまで働いている中、自分は子どものお迎えで6時には帰らないといけないので後ろめたさがありました。新人ならではの雑務も多いから時間もあっというまに経って、大したこともできずにもうお迎えの時間、という感じで。

アーティストでもある私のことを、周囲はユニークな存在として温かく認めてくれてはいましたが、やっぱりその部署の仕事には貢献できていなかった気がします。

それで部署移動を志望したんです。今の部署では、会社経営時代に得た経験や人脈を生かし、SNSで影響力のある人を見極めてキャスティングしたり、テクノロジー関連の最新トレンドを社内に共有したりと、特技を活かして好きな仕事をやらせてもらっています。

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「Satellite YoungのEMIです」
宇佐巴史

——入社2年目で、好きな仕事だけやれる環境を勝ち取るなんてすごく羨ましいです。

今の部署の上司は「得意なことだけやりなさい」って言ってくれる人です。私の経歴や現状が特殊なのもあるんですけど、「彼女には下積みはなくていいから、今まで培った知見や専門性が活かせる仕事がいいんじゃないか」と判断してくれたんです。会社には本当に感謝しています。

上司には、取材やテレビ出演などのアーティスト活動関連の予定も何でも共有しています。そうすることで上司も、より一層アーティスト活動を応援してくれるようになっている気もします。

——やりたいことを貫けるハートの強さがすごい。

同期が遅くまで残ったりしながら頑張っていると聞くと、私は好きなことだけやってていいんだろうかって思ってしまう時もあります。

でも、苦手なことを頑張って得意にする時間ないんですよね。子どももいるし、アーティスト活動もありますし。

こんな考え方になったのも子どもの存在がすごく大きいです。得意なことだけやろう、時間をかけなくても自分が貢献できることをやろうと思ったのは、母になってからだと思います。

私の働き方に対して「何だこいつ」って思っている人も半分くらいいると思います。でもあと半分くらいの人は応援してくれている感じがする。そういう私を認めてくれる人と仕事していますね。

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宇佐巴史

——上司の方の「下積みはなくていいから」という言葉が印象的です。多くの会社では今でも、若手は何でもコツコツ努力して社内で評価や信頼を勝ち取っていくものだという神話のようなものが存在していると思います。小さい子どもを持ちながら働く人たちは残業もできず特に後ろめたさを感じているのは、とも思います。

私の場合には、会社や上司に「得意なことだけやらせよう」といち早く判断してもらえたことが本当に幸運でした。また、私がもともと持っていた経験や知識を生かせる業界で就職したことも大きいと思っています。

もちろん業界によって色々状況は違うとは思うんですが、私みたいに、得意なことだけやれる状況の人が増えたらいいのになって思います。

今は得意なことがまだ見つかってないという人もいるかもしれないけれど、最終的には、何かのスペシャリストになっていくことを目指した方がいいと思うんです。女性は特に。人によっては出産もありますしね。

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画像はイメージ
MartinPrescott via Getty Images

——絵美さんみたいに割り切れずに、子育てと会社勤めの両立に苦労しているお母さんたちも多いでしょうね。

そうですね。全部やろうとすると本当に大変ですよね。自分の人生なのに、自分の好きなことが全然できなくなってしまう。

すぐにみんながそうできる訳ではないと思うんですが、気の持ちようとして、自分でやらなくてもいいことはなるべく人にやってもらうっていうスタンスで仕事に取り組んでいった方が絶対にいいと思います。

お母さんたちだけじゃなくて、ある意味ではみんなそうです。現実的に考えて、いずれ人工知能がルーティンに近い仕事を全部やってくれるようになったら、スペシャリストになっていないと自分の経済価値も下がっちゃう。

——アーティストであり、会社員であり、母である絵美さん。どの自分が一番自分らしいと感じていますか。

どれも私だしどれも大切だけど、母としての自分は、何とも切り離すことはできないですね。

子どもが生まれて働くことへの考え方も変わったし、子どもを妊娠してモーレツに曲を書いた記憶もあります。

子どもっていう、私がいないと生きていけなくて、絶対的に私のことを好きな味方というか、愛する存在ができたことで精神的にかなり強くなりました。心が折れなくなった。

子孫を残すという、一つの大きなプロジェクトを達成した感もあります。

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絵美さんと息子さん
Emi Kusano

——子育てで大事にしていることはありますか。

親子ってずっと続いていく人間関係だから、育てるという一方的な関係性じゃなくて、息子という一人の人間と長期にわたって話しあえる関係を作っていきたいと思っています。

もちろん子どもはかけがえのない存在だけど、親も子も独立した存在です。子どもにも人生があるように、私も自分の人生を生きなくてはいけないのです。

そういう意味では、子どもが生まれてからも私は自分中心で生きてるし、音楽性含めてそんなに大きく変わっていないのかもしれません。

私は、どこまでいっても私です。

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宇佐巴史

東京都出身。"90年代生まれ80年代育ち"。音楽ユニット「Satellite Young」の主催/ボーカル。作詞作曲やアートディレクションなども手がける。フォトグラファー・ラジオDJ・構成作家などマルチな経歴を持つ。

写真:宇佐巴史

ヘアメイク:KATO

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