「目標は、煩悩と同じ108種のデザイン!」 動植物を描いたオリジナルの吉祥文様で 新たな手ぬぐいの世界を拓く女性作家

古くから日本の庶民に愛用されてきた手ぬぐい。その奥深い伝統工芸に魅せられ、自ら図柄を考案することで、新たな世界を拓こうとしている女性がいる。

クラウドファンディングサイトA-portに挑戦中のてぬぐい作家の中村幸代さん

■デジタルの世界から手ぬぐいの世界へ

古くから日本の庶民に愛用されてきた手ぬぐい。木綿が普及した江戸時代には、汗ふきなど日用品として以外にも、個性を表現するファッションとして、挨拶に配る名刺代わりとして、粋な江戸っ子たちに大流行し、瞬く間に生活に浸透していった。

現在でも、ワインを包んだり、テーブルの上に畳んでカトラリーケースにしたり、ヘアバンドやブックカバーなどに使われたり、様々な用途で活用されている。

その奥深い伝統工芸に魅せられ、自ら手ぬぐいの図柄を考案することで、新たな世界を拓こうとしている女性がいる。中村幸代さんだ。

もともとは、富士通デザインセンターやソフトバンクコンテンツ事業部で、WEB関連のデザインやアートディレションを担当していたデジタル業界の人。現在もフリーランスでWEBデザインの仕事は続けているものの、「私のライフワークは、手ぬぐいのデザインです」と言いきる。

■全ての行程は手作業

中村さんのデザインした手ぬぐいを染める足立区の戸田屋商店=中村さん提供

手ぬぐいに魅せられたのは、12年前。たまたま手ぬぐい専門店「かまわぬ」を訪れた際、古典柄から現代美術までを網羅するバリエーションの豊かさに驚き、独特のアートの世界、ユーモアの感覚に魅了されたという。

以降、気に入った手ぬぐいのコレクションを始め、手ぬぐいを染める工場にも足を運ぶようになった。

「足立区の染め工場にうかがい、全ての行程が手作業でされていることに感激しました」。手ぬぐいの図案が持つ「意味」にも、心をつかまれた。

「日本には古来、吉祥文様(きっしょうもんよう)という縁起が良いとされる動植物などを描いた図柄があります。

例えば、幾何学模様のような麻の葉の文様。麻の木は成長が早いことから、赤ちゃんがすくすく育っていくことを願い、昔から産着に使われてきました。

クジラの目だけが横に描かれたデザインには、『目くじらを立てるな』という意味が込められている。そんな数々の文様に込められた思いを知るたびに、私もオリジナルの吉祥文様を作ってみたいと思うようになったんです」

■手ぬぐいがもたらしてくれた出会い

そんな経緯で出来たのが、初期の代表作の「燕柄」。2007年、東京都国立市の展覧会に出品するのに当たってデザインしたものだ。

2006年秋に取り壊された国立駅の三角屋根の駅舎に毎年巣を作っていたツバメたちがどこかで元気に飛び回っていることを願い、デザインを起こした。

また、大好きなオスカー・ワイルドの物語『幸福な王子』に登場するツバメのように多くの人に幸せを運びたいという思いもこもっている。

「現在、運営しているオンラインショップの名前も、tsubame shopと言います」

不思議なことに、この「つばめ柄」を手がけてからというもの、手ぬぐいの仕事が増え続け、たくさんの出会いにつながったという。「つながる鰻柄」の手ぬぐいもその一つ。

「『鰻登り』という言葉がありますが、ウナギは商売繁盛の象徴。この柄には実は、ところどころに∞(無限大のマーク)が入っています。商売が無限につながっていくことを願った柄なのです」。

この手ぬぐいは、本郷にある老舗鰻屋さんの目に留まり、以後お得意さんになってくれている。

■108の作品発表をめざし、毎年新作に取り組む

2011年のデザイン(中村さん提供)

夢は、108のオリジナルの吉祥文様の図案を作ることだという。108は、人間の煩悩の数。その数だけ願いもあると考えているからだ。

こつこつと毎年数回新作を発表しているが、2011年の震災後は、すでに出来上がっていた新作の図案を全てとりやめ、被災地への思いを込めた図案に切り替えた。

この時、自然と頭の中にアイデアが降ってきて完成したのは、火の鳥柄、獅子柄、一角獣柄の3種。火の鳥には「再生・復活」、獅子には「強い心」、一角獣には「優しさ」の意味が込められている。「少しでも気持ちが明るくなる色を選びました」

A-portより

今取り組んでいる次の新柄は5種。テーマは「未来の自然」だ。

オオカミ、一角、北極熊、サイ、コウノトリなど、絶滅の危機に瀕している動物をモチーフにしている。

「今回は、動物たちのためにデザインしようという気持ちで取り組みました」

動物も人間も同じ地球の仲間。動物たちの生態を知れば知るほど、懸命に生きようとする姿にたくさんのエネルギーをもらえるという。

「家も車も服も持っていない過酷な環境を生き抜き、必死で子どもを守り育てている彼らを見ると、本当に大切なことに気づかされる思いがします」

■クラウドファウンディングに初挑戦

インターネットを介することで、多くの人に手ぬぐい文化の奥深さを知ってもらえるかもしれない。

また、今回のテーマでもある危機に瀕した動物たちのことを少しでも意識してもらえる機会にもなってほしい。そう考えて、クラウドファウンディングに初めて挑戦する決意をした。

「日本だけではなく、世界中の人に手ぬぐい文化の素晴らしさを知ってほしい。クラウドファウンディングを通じて、手ぬぐいの魅力を発信していければと思っています。」

現在、クラウドファンディングサイト「A-port」で制作資金を募集中だ。

手ぬぐいを乾かしている様子=A-portより

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