「週刊朝日」表紙カメラマン、自分のために撮った写真は 世に出せるのか

華々しいキャリアを持つ馬場道浩さん。写真家として集大成となる自分の写真集の出版をクラウドファンディングを使って目指す。「こんなおじさんが挑戦しているんだからと若者も思ってくれるに違いない」。

■インスピレーションで女優にソファー

2月下旬、東京都港区内のスタジオで、週刊朝日の表紙の撮影があった。

「おはようございます」。女優がスタジオに到着すると、表紙担当カメラマンの馬場道浩さん(56)の明るい声が広い空間に響き渡った。

到着した女優がメイクと着替えで1時間ほど控室にいる間も、馬場さんは笑顔を絶やさず、スタッフや週刊朝日の記者をはじめ、集まった4、5人の関係者と言葉を交わしていく。大きなスタジオを行ったり来たり、動きを止めない。

馬場さんは、隣の小さな部屋のドアを開けると大声を上げた。「ここ、いいね。ここで撮影しよう」

そこには若草色のソファー。女優が着る藍色の衣装を見せられた後、その藍色に合うと一瞬にして判断した。

この一声で、スタッフたちが動き出し、本スタジオにすでにセットしてあったライトや確認用のパソコンのモニターをこの小部屋に移動させ、即席スタジオが完成した。

「もう少しほほえんでいらしてください」「お、すごくいい感じです」「なかなか、こんな感じ出ませんね」。こうした軽快な馬場さんの言葉がけに、女優はリラックスした表情でポーズをとっていく。

■華々しいキャリアの持ち主。自分のための写真集は

馬場さんのモットーは「元気に楽しく」。撮影の日は食事をしない。「空腹の方が研ぎ澄まされる感じがするから」だ。「ベストコンディションになるために、昔の写真家のように深酒をすることもない」という。

プロになってから25年間、メーカーや自治体などの広告写真から著名人の写真までさまざまな対象を撮影してきた。

そして、出張先などで時間を見つけては、気の向くままに自分の作品用にシャッターを切った。

だが、プライベートで撮る写真と、日常的に撮影している作品とは色合いが異なる。自分の心を自由に遊ばせると、浮かび上がったのは、独特の世界だった。

海辺や鉄道のホームなどさまざまな風景からシンメトリーな構図を切り取り、静かな世界を伝えている。

「こうしたプライベートで撮った写真がみんなに見せられたのは、年に一回の年賀状や、展覧会だけだ」。写真家になって25年。仕事の写真は、日本広告写真家協会の経済産業大臣賞や年鑑日本の広告写真2004優勝など数々の受賞歴がある。ただ、「(仕事とは違う)自分の写真集を作りたい」。その思いは深まっていった。

馬場さんの撮り貯めた写真

■「オヤジ写真家」の背中を見ろ

3年前に一度、出版社を回った。だが、「出版不況の中、理由はきちんと言われないまま、やんわりと断られた」。

写真集はなかなか売れないため、出版の道は閉ざされているのだという。

写真家として集大成となる自分の写真集。自費出版する方法もあったが、「あえて新しい方法のクラウドファンディングを使えば出版不況の中、こんなおじさんが挑戦しているんだからと若者も思ってくれるに違いない」と考えた。

馬場さんの写真集を作るプロジェクトは、クラウドファンディングA-portで27日現在、114人から195万円あまり、目標金額の65%を集めている。「感動的です」と語る馬場さん。これからもこつこつと支援を呼びかけていきたいと思っている。

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