ヴィジュアリスト手塚眞さんの「新たな伝説」

「自分たちが納得して作ったものを自分たちでやり遂げるには、自分たちでやるしかない。新しいことをしないと突破口はひらけない」(手塚眞さん)

クラウドファンディングに挑戦中の手塚眞さん=東京都内で、朝日新聞社撮影

新作映画「星くず兄弟の新たな伝説」が完成し、監督したヴィジュアリスト手塚眞さん(55)が、全国公開のための資金を集めている。

30年前、日大芸術学部の学生時代に映画「星くず兄弟の伝説」を監督した。今回の映画は、それに「新たな」を加えたタイトルだが、前作にとらわれないインディーズ映画に仕上がった。

「トレンドと反対のことをやった」というように、分かりやすさを目指さない荒唐無稽さが魅力だ。根底には「人間の発想は自由であるべき。作りたいものを作った」との思いがある。

■いつも時代の先駆けだった

「ヴィジュアリスト」という肩書は、大学時代に自ら作った。映画をはじめ様々な媒体の映像を作る人という意味だ。

映画が大きな地位を持っていた当時から、映画だけではなく、テレビ、パソコン、イベントでの画像......映像に関する仕事を幅広く扱うことになると予見。「映画監督」や「映像監督」に収まらない肩書がいずれ必要になるはずだと感じていた。

それだけではない。数々な分野で先駆けになった。

「インディーズ映画」という言葉がない時代に、そう名付けた。ビデオ映画「Vシネ」も先駆けて作った。映画なら出るがビデオならでないという俳優もいる中、ビデオデッキが各家庭に置かれてビデオで映画が消費される時代が来ると踏んで押し進めた。そうした開拓魂が、今回のクラウドファンディングの挑戦につながっている。

■リスクを恐れずクラウドファンディングの表に立つ

機材が安くなり、スマートフォンなども発達し、映像を見るツールが増えた。ただ、良質な映画が作られていても、劇場で上映するのは資金的に大変だという。

「農産物を欲しい人に直接届けることができる仕組みができたように、見たい人たちに見たい映画を届けたい。例えば、日本の映画館は一律1800円。価格も自由になるべきです。(映画供給側の都合だけではなく)見たい人の要望や都合が反映できるようにクラウドファンディングの力で映画つくりの流れを変えていけないか」と大きな視野から映画界全体の課題に臨んでいる。

すでに業績をあげた著名人が、クラウドファンディングのプロジェクトの表に立つことは珍しい。クラウドファンディングでは、何人から資金がどれだけ集まっているのか、ウェブ上で分かってしまう。失敗した場合も結果がはっきり表れるため、著名人はリスクをとることを恐れるからだ。

だが、手塚さんは表に出ることをいとわなかった。自身の顔写真をプロジェクトに掲載した。「映画の中心になっている人間が自ら真剣に話さないと聞いてくれないはずです」と話す。

「自分たちが納得して作ったものを自分たちでやり遂げるには、自分たちでやるしかない。新しいことをしないと突破口はひらけない」

■大胆に、自由に発想

インディーズ映画「星くず兄弟の新たな伝説」はロック・ミュージカル。「荒唐無稽」と手塚さん本人が言うように、見る者が一瞬その世界に入っていけるのか戸惑うような奇抜さがある。

「発想というのは、もっと大胆で、自由であっていいと思います。月に行く話というと、若い人はNASAなどリアルな話を想像すると思います。映画も月に人間が住んだらといった話になってどんどんリアルになっています。ただ、昔の人は、もっとおおらかに考えていましたよね。それこそ、月に都があったらいいねといったように。普段生活するときに想像力で豊かにするということにつながると思うのです」

「想像力がなぜ人間にとって大事なのか。人間は、動物が持っているような危険を察知するといった能力をなくしています。それを補うため、人間は『危険を想像』するようになったのですね。おそらくですが、動物は想像しないのですよ。想像力が衰えると人間として生きていけないと思います。もし無人島についたら、想像して生き抜く知恵を見つけると思います」

「例えば、今、子供たちに夢を聞くと、普通のサラリーマンになると言ったり、100歳まで生きたいと言ったりします。昔はパイロットだったり警察官だったりでした。そんなに長く生きるためには、何も起こらないほうがいい。淡々とおとなしく生きていくほうがいいという子供もいました。寂しい感じがしますね。僕はやんちゃでいこうと思います。大人がやんちゃじゃないと、やってみせてみないと、子供たちは自由になれないと思います」

■「よくわからない映画」でいい

「この映画の意味が分からず、「え!?」という感覚のまま、ついてこれなくてもいい。「何これ?」と思って欲しいです。分かる分かる、という共感意識で終らせてはいけないなと思います。今の映画は分かる分かる、自分と同じだから、といったものが多いですから」

「誰かが違うことをしないと、とすごく思います。マーケティングと逆のことをしてみよう、トレンドの正反対は何だろうという発想の中でこの映画はできています。まさにトレンドとは全く違うことをやりました。そういうことができるんだという自由さを知って欲しいのです」

(井上未雪)

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手塚さんが全国公開の資金を集めている朝日新聞のクラウドファンディングサイトA-portはこちらから。

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