浪速のジョー、伝説はまだ終わらない 元世界王者・辰吉丈一郎、47歳の今も現役貫く

「人間あきらめたら終わりですよ。自分の人生、一回しかないんですよ。やりたいことやりましょ。生きてる限りは努力せんと、もったいない」

デビューからわずか8戦目、国内最短記録(当時)でボクシングWBC世界バンタム級王座を奪取。網膜剝離などで一時は引退を勧告されながらも復帰し、世界王者に返り咲いた「浪速のジョー」こと辰吉丈一郎選手。

彼は47歳になった今も現役のボクサーとして練習を続け、4度目の王座奪取を目指している。日本のプロボクシングは原則37歳が定年だが、それを10歳上回っても現役にこだわり続けるのはなぜなのか。

(Project Joe 提供)

「普通みんなやっていないでしょ、どんなアスリートでも。僕も年齢を狙ってやったわけじゃなくて、気がついたら、こうなっとっただけ。年を取るのは早いな。うちの父ちゃんがよう言うとった。『あっという間に年を取る。今したいことをせにゃいけん』」

7月下旬、大阪府守口市の飲食店での取材で、辰吉選手に47歳という年齢について尋ねると、こんな返事が返ってきた。白髪と顔のしわは、重ねてきた年齢を感じさせたが、体は引き締まっていて40代とは思えない。体重は常時58~59キロをキープしているという。

「ボクシングを始めた16歳のころからこんな感じ」と辰吉選手。網膜剝離で入院して太った時期を除けば、大きな変化はないそうだ。所属するバンタム級の体重の上限は53.52キロ。試合が決まれば体調を崩すことなく減量できるレベルだろう。

ボクシングに興味がなくても、40代以上の人なら、ほとんどの人が辰吉選手を知っているのではないだろうか。平成の幕が開けた1989年に19歳でプロデビュー。91年には当時の国内最短記録となる8戦目でWBC世界バンタム級王座を獲得した。

WBC王座を獲得したグレグ・リチャードソン戦の一場面=1991年、朝日新聞社撮影

網膜剝離で一時は国内で試合ができず、引退の危機に追い込まれたが、所属ジムの尽力や復帰を求める約6万4千人の署名などに後押しされ、再び道を開く。97年には3度目の世界王座奪取に成功した。

元王者に与えられる日本ボクシングコミッション(JBC)の例外規定で定年の37歳を超えても試合を続けたが、2008年9月に日本のプロライセンスが切れて国内での試合ができなくなった。2009年3月のタイでの試合が、今のところ最後の試合となっている。

それから8年が経った今も、辰吉選手は世界チャンピオンを目指して練習を続けている。朝は4~5キロのロードワーク、夜はジムワーク。毎日のスケジュールはボクシングを始めた16歳のころから同じだ。より今の自分にあった練習を模索し続けることで、練習の密度はむしろ若いころよりも濃くなっているという。

(Project Joe 提供)

「自信があるからやっているんで。現在に至るまで、回りが勝手に言っただけで僕は引退したつもりはない。昔から『3度目の正直』って言うでしょ。『2度目の正直』はないんで。次をとれば3度目の正直になる。(4度目の世界王者は)目標じゃない。なるからやっている」

ライセンスが切れ、国内で試合をすることは厳しい状況だが、辰吉選手が意に介する様子はない。

「まわりの人間は『年もとったし、もう日本じゃボクシングできへんから、今後どうすん?』といろいろ心配してくれる人もいるけれども、大きなお世話です。自分ができるんであれば、行動にうつしたほうがいい。それを指くわえて見ているような人間にはなりたくないですね。どっちかといえば『指をくわえて見とけや』というふうにやりたい。自分自身の目標は決まっているし、16のころから大阪に来てボクシングをやって、30年以上ずっと練習をやってる。自分の人生に何の悔いもないんで」

(Project Joe 提供)

今夏、「辰吉選手をもう一度リングに立たせたい」という趣旨に賛同するカメラマンや映像監督、ライターらが集まり、「Project Joe」を結成した。代表の山本昭三さん(47)は、辰吉選手の同級生だ。

公式サイトを立ち上げるために、朝日新聞社の「A-port」でクラウドファンディングを実施しており、賛同するファンから「魂揺さぶられテレビを観ていました」「辰吉さんが満足するまで『辰吉丈一郎の道』を突き進んでください」などとメッセージが寄せられている。

インタビューに応じる辰吉丈一郎選手=大阪府守口市、朝日新聞社撮影

「50歳前の同世代、20代のころに僕の試合を見てくれていた方々が多いと思うんですけど、そういった人らが『うちらの年代すごいやろ』と思えるように、盛り上げていきたい。僕らの年代ってベビーブームのときの子なんで、日本で一番人口が多いと思う。ぼくが世界のトップを狙ったら、見ている人間側もおもしろいんちゃいますか。網膜剝離のときとか、今までに僕も色々と助けてもらった。恩返しではないんですけど、『まだ世の中捨てたもんじゃないよ』『まだ面白いことあるよ』と一緒に楽しみたい」

「人間あきらめたら終わりですよ。自分の人生、一回しかないんですよ。やりたいことやりましょ。失敗したら、またもう一回やればええやん。死んだらそれまでですやん。生きてる限りは努力せんと、もったいない」

47歳。「浪速のジョー」は、まだ終わらない。

「Project Joe」のクラウドファンディングは10月30日まで。アドレスは、https://a-port.asahi.com/projects/joewoakiramenai/

注目記事