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SNSで"盛る"時代に、坂本龍一・スガダイローら音楽家が自らを"からっぽ"にして生み出す音楽

2016年12月08日 22時22分 JST | 更新 2016年12月12日 18時40分 JST
A-port

様々なタイプの「写真加工アプリ」が存在する昨今、SNSのタイムラインは見栄え良く"盛られた写真"が散見されるようになった。「盛られていない写真を探す方が難しい」といった人もいるのではないだろうか。

そんな中、Facebookは「Facebook live」を、そしてTwitterは「Periscope」をリリース。どちらも、動画をリアルタイムに配信することができるアプリだ。これらを使って、盛った動画を作ることも可能だが、どちらかというと、飾ることよりも"今"を伝えるために使用することを重視しているようにみえる。

また、これから流行しそうな、「Snapchat」や「インスタStories」などは、一定の時間が過ぎると投稿動画が削除される仕様となっており、よりその瞬間を楽しむものと言えるだろう。加工されたコンテンツも良いが、そうではなく、"瞬間的""直感的"なコンテンツにも、光が当たり始めている。

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そんな瞬間的・直感的な楽しみ方として、最近注目を集めているのが"即興"だ。

■発見・創造・発信を同時に行う"即興"

『フリースタイルダンジョン』は、オーガナイザーにヒップホップMCのZeebraを起用し、「1対1のMCバトル」を展開する人気TV番組。MCバトルといえば、アメリカの人気ラッパー・エミネムが出演した映画『8Mile』を思い出すとわかりやすい。使うのは言葉だけ。その言葉をもって、相手と観客を制するのだ。

同番組では、いかにうまく韻を踏めたかを審査員が判定し、勝ち負けを決める。ラップが身近ではない人にとっては、なかなか想像のしにくい世界ではあるが、「即興でそんな言葉が出るの!?」と驚くシーンは少なくない。

とにもかくにも、この"即興"というスタイルに視聴者は心をつかまれるのだ。相手の出方に合わせて自分の表現を変える。自分勝手な発信をしていても評価はされない。相手の発信をしっかりとくみ取った上で、自らのクリエイティブを重ねていくのだ。

「発見」「創造」「発信」の三つを同時に行うのがこの"即興"というパフォーマンス。出演者のみならず、次にどのような展開が待っているのかと、観客も固唾をのんで見守ることになる。加工して盛ることに慣れてしまった私たちにとって、瞬間的な要素のつまった"即興"という世界は、まさに非日常である。

そんな"即興"はいま、多様な広がりを見せている。

■"即興"に挑む坂本龍一や高木正勝、菊地成孔ら

音楽家同士が、"何も決め事なく自由に即興的に音楽を奏であう"プロジェクトが行われている。2006年にはじまった『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS(ボイコット・リズム・マシーン・バーサス)』だ。同プロジェクトには、これまで、坂本龍一をはじめ、大友良英、いとうせいこう、Shing02、DJ KENTARO、渋谷慶一郎、高木正勝、GOMA、菊地成孔といった面々が出演してきた。

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※2012年3月21日 Shing02 vs いとうせいこう 会場:後楽園ホール

「音楽による異種格闘技戦」というコンセプトからはじまった同プロジェクト。2006年4月9日に、アサヒ・アートスクエアで行われた「菊地成孔vs半野喜弘」、2010年12月12日に国立科学博物館で行われた「ASA-CHANGvs康本雅子」、2012年3月21日に後楽園ホールで行われた「坂本龍一vs大友良英」 など、様々なバトルが実施されている。

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※2012年3月21日 坂本龍一 vs 大友良英 会場:後楽園ホール

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※2006年4月9日 菊地成孔 vs 半野喜弘 会場:アサヒ・アートスクエア

■"即興"への出演に断られることも

"即興"の世界は、奥が深い。同プロジェクトの主宰者である清宮陵一さんは語る。

「普段は、楽譜や決められた進行の中でパフォーマンスを発揮する音楽家たち。しかし、この"即興対決"に挑戦しようとなれば、終わるタイミングすらわからないし、そもそも相手がどのように出て来るのかもわからない。なので、自然とその音楽家の本能が引き出されます」(清宮さん)

試されるのは、音楽家たちの引き出しの多さ。そして、度胸だ。

「このプロジェクトへの出演は断られることもあります。何も決まっていない中で演奏をするわけですから当然ですね。しかし、この舞台に立ってくださるミュージシャンは、何も決まっていない中でも音楽を保ち、場を創ることができる方々です。」(清宮さん)

確かに、何も決め事なく自由に即興的に音楽を奏であうことは、誰にでもできることではない。"即興"は、音楽家にはリスクのあるパフォーマンス方法なのだ。

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※プロジェクトを語る清宮さん

■引き出しが"からっぽ"になってからが勝負

「即興は、良い面も悪い面も、その人がもっているもの全てがでる」

こう語ったのは、菊地成孔さん。対戦相手の奏でる音に融和する瞬間もあれば、破綻してしまう瞬間もある。手持ちの武器がつきた時から、この"即興"の見どころとなる。

ジャズピアニスト・南博と対峙した音楽家・高木正勝。即興が始まってすぐは、お互いが出方を見ているようだったが、時間が経つにつれて状況が変わる。自身の引き出しからテクニックを出し続けるが、それはいずれ枯渇する。リズムが崩れ、音楽が破綻したのだ。しかし、そんな中から2人の音楽が融和する。南の発信する音楽の中から、ジャズではなく、ドビュッシーのようなクラシックのメロディーが顔を出したのだ。そうやって自らの枠組みを超えた時にこそ、クリエイティブな瞬間が生まれる。

「基本的には初顔合わせのブッキングをしています。仲が良い二人だから良い演奏になる、ということではないですね」(清宮さん)

■"即興"の舞台が日本を飛び出しNYへ

そして、2016年12月17日、この"即興"の舞台は日本を飛び出す。『BOYCOTT RHYTHM MACHINE WORLDWIDE VERSUS』と題し、これからは、日本人音楽家が世界の各大陸に挑むスタイルに。

まずは、ニューヨークへ。そこで待ち受けるのは、ブルーノートやECMで数々の名作を世に送り出してきたワールドクラスのジャズピアニスト・JASON MORAN(ジェイソン・モラン)。そして、挑む日本代表者は、日本ジャズ界のなかで "孤高のピアニスト" として地位を築きつつあるスガダイローだ。ジャズの本場アメリカにたった一人で斬り込むことになる。

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このニューヨークでの対決を録音・映像収録するために200万円が不足しており、現在、クラウドファンディングに挑戦中だ。ここで支援を集め、できあがったDVDをリターンとして支援者にお返しする。12月16日(金)が最終日となっており、7日現在で支援は517,000円と、まだ目標に達していない。

「このプロジェクトを始めたとき、参加してくださったある音楽家の方から"音楽に限らず生きていること自体が即興である"というお話を伺う機会がありました。人は社会に属しながら人生を全うしますが、同時に自らの欲求に従って本能的に進む道を選び取っていく生き物でもあります。とすると、このプロジェクトは"個人が即興的に社会を生き抜くこと"を未来に向けて提示できるようなものであるべきではないか、と考えるようになりました」

と語る清宮さん。"見栄えを良くする"ことが容易になったこの時代に、生々しい場所を追い求め続ける。12月17日、スガダイローがどのような音を瞬間的・直感的にニューヨークの舞台で放つのか、今から楽しみで仕方が無い。

朝日新聞クラウドファンディングサイトA-portで、スガダイローさんがジャズの本場で戦っている様子を記録するための費用を集めている。

支援はこちら(リンク https://a-port.asahi.com/projects/brmwwv1/)。