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後継者がいない棚田はどう守る? たった4人ではじめた伝統の受け継ぎ方【小泉親子も参加】

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日本海に突き出るように伸びる能登半島。その北部に位置する輪島市の「白米の千枚田」は、海に向かう急斜面に1000以上の棚田が重なり合うように作られている。田の広さは小さいものだと新聞紙1枚分ほどしかなく、現在のような形になった17世紀から19世紀以来、ずっと人の手で耕作されてきた。「日本の棚田百選」、「国指定文化財名勝」にも指定され、春夏秋冬美しい景色を織りなすこの棚田を、10年にわたって守り続けてきたのが「白米千枚田愛耕会」代表の堂前助之新さんだ。

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手塩にかけて育ててきた棚田を背にする堂前さん

定年後の新たな挑戦

棚田は複雑な構造のため機械化が図れず、維持管理はいまだに重労働だ。加えて、後継者不足によって途絶えてしまった田は少なくない。もちろん、それは名勝として名高い千枚田も同じだ。

「物事には絶妙なタイミングがあるんですね」と、緑の波となって海風にそよぐ稲を見ながら、堂前さんはこう振り返る。千枚田の管理を担っていた団体の人員が減ったことで、継続が難しくなったのが2006年。その時白羽の矢が立ったのが堂前さんだった。地元のJAを定年退職して2年目のことである。

当時堂前さんは62歳。打診されたのが在職中だったら、とても兼務はできなかった。反対にあと3年遅かったら、体力や気力の面で、新しい一歩に踏み出すことはなかっただろう。「この美しい景観を壊すことができない、田作りを絶やすわけにはいかない、と意気に感じたんです」。

しかし、これだけの水田を1人で守ることは不可能だ。そこで声をかけたのが中学時代の同級生3人だった。千枚田を守りたいと意見が一致し、このメンバーで愛耕会を結成した。「4人いれば相談できるが、最初から100人もいたらまとまらない。この人数も本当にちょうどよかったのです」。気の張らない幼なじみとの農作業は苦労の中にも喜びがあり、仕事帰りに1杯などという楽しみもできた。

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耕作の相談をする堂前さんと愛耕会の仲間たち

当初100枚の田を引き継いだものの、委託される数が増えていくのは目に見えていた。地元の力だけではどうしようもできない。

そう考えて考案したのが、オーナー制である。2万円の会費で「マイ田んぼ」を1枚持ち、田起こしから始まって稲刈りまでの年7回の作業に参加してもらう。直接来られなくても、愛耕会や他のオーナーたちが面倒を見てくれる。田の大きさに関わらず、収穫米10キロと地元でとれた山菜がもらえる仕組みだ。

愛耕会発足の翌年に募集したオーナー制は、50人から始まった。うれしいことにその数は年々増え、今では185人に上る。6割方は県外在住者で、遠く宮城や沖縄からの参加もあった。小泉純一郎元首相・進次郎氏親子や地元出身の漫画家永井豪氏らも名誉会員として名を連ねている。棚田のあちこちで、オーナーを示す著名人の表柱を見ることができ、堂前さんたちにとって心強い応援団となっている。「10人のプロより100人の素人」。堂前さんはこう言い切る。

今年5月もオーナーに加え、トヨタのハイブリッドカーAQUAが全国各地で展開する社会貢献型プロモーションのAQUA SOCIAL FES!! の参加者と共に田植えを実施した。イベント参加者とオーナー合わせて600人が田植えを行い、1時間ほどで作業を終えることができた。これだけの規模での田植えは、過去最大だという。

人と人との絆を深めた米作り

稲作を通じてお互いに作業を助け合い、声を掛け合ううちに、地元の人同士、またオーナー同士、オーナーと地元の人同士の交流が生まれ、それが堂前さんのやりがいにつながっている。中には同じ大学の同級生だった東京のオーナー同士が、偶然ここで顔を合わせたこともあった。また東京の女子大生が地元の青年と恋に落ち、能登にお嫁に来て千枚田で結婚式を挙げた。どれも堂前さんにとっては忘れ得ぬうれしい思い出である。

もちろん田に入るのも初めてという人がほとんどで、堂前さんたちの苦労も大きい。何より大変なのが田起こしの後、土を練って畦を成形する畦(あぜ)塗りだ。これをしっかり作らないと、水が外に漏れ出し、畦が崩れてしまうことがある。大事な作業であるものの、慣れないクワを持ち、中に空気が入らぬよう根気よく畦を塗りつけていくのは経験がないとうまくいかない。そのため、田の一枚一枚に対して指導や手直しの時間がかかってしまう。

また、棚田は各々の田が狭く、田植え機を入れることができない。そのため田に昔ながらの「わく」と呼ばれる六角柱の木製農機具を転がして十字に跡を付け、それを目印に手で3~5束の苗を3センチほどの深さに均一に植え付けていく。腰をかがめ、ぬかるみに足をとられながらの作業だ。農業の機械化が図られる以前、日本のどの水田でも見られた光景がここにある。

愛耕会ではこれ以外にも水を張った棚田に直接種もみをまいて苗を育てる「水苗代」という伝統農法も60年ぶりに復活させ、2014年には「日本農業の聖地」の商標登録が認められた。水苗代はまいた種もみが鳥などの食害にあったり、天候が成育に大きく影響するなど、手間がかかる。しかし、かつて行われていた農法を掘り起こし伝承していくのも、自分たちの責務だと堂前さんは話す。

世界農業遺産に認定

2011年、能登の里山里海が次世代に残すべき文化的財産だとして、千枚田が輪島朝市や輪島塗などとともに「世界農業遺産」に認定された。観光客も増え、隣接するポケットパークには地元で採れた野菜などの販売で盛り上がりを見せる。ここは観光スポットとして、地元の人の働く場としても機能している。

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棚田の風景

「絶景の地で米作りができるのは本当に幸せなこと」。日当たりもよくきれいな水で育ったおいしい米は堂前さんの自慢だ。この地を保全しなければ、という使命感よりも米作り自体の価値を実感することが保全につながると考えている。堂前さんの米作りへの情熱は高まるばかりである。

第2回AQUA SOCIAL FES!!は9月22日、堂前さんが稲作を行う千枚田の稲刈りを実施します。詳しくは「AQUA SOCIAL FES!!」公式サイトの石川県プログラムページ(http://aquafes.jp/projects/168/)をご覧ください。

(監修:北國新聞社 北本 駿介)

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