PRESENTED BY AQUA SOCIAL FES!!

高知にある「奇跡の清流」を守る。荒廃した流域を蘇らせた市民たち どうやって?

日本一の水質を誇る高知の仁淀川(によどがわ)。かつての風景を残すため、市民はさまざまな活動を行っている。

「奇跡の清流」といわれる、日本一の水質を誇る仁淀川(によどがわ)。川の透明度と景観の美しさは他に類を見ず、一度訪れると虜になる人も多い。

仁淀川上流の旧吾北村に生まれ住み、幼い頃からこの川に親しんだ細川治雄さんは、今でも「細川に会いたけりゃ川へ行け」と言われるほどの川遊びの達人。仁淀川をとことん愛し、仁淀川漁業協同組合の代表理事組合長として、川を守る活動をけん引する。

細川さんはJAで勤めながら、吾北村村議会議員を務め、吾北村商工会でも地域振興に辣腕を振るった。地域の人や自然を大切に思い、寄り添ってきた人。仁淀川とともに暮らす人々のために、そして次世代のために、清く美しい仁淀川を残したいと考えているという。

仁淀川漁協の組合長を務める細川治雄さん。日本一の清流を後世に残したいとの想いは強い。

あの手応えと興奮が忘れられない

細川さんの原体験は、小学生の時に父に連れられて行ったうなぎ漁。夕方針にえさをつけた仕掛けを川に流し、早朝に見に行くと糸がピンと張っていた。うなぎが引っかかった証だ。岩にもぐりこんだうなぎを掴むと、その力強さに思わずひるみそうになった。「かまん、引け。切れやせん!」という父の言葉に、力いっぱい引っ張ってうなぎを獲った。その手応えが今でも忘れられない。

夏、夕立が降った後には、マスの一種であるアマゴがよく獲れた。お手製の竹竿で釣ったときの引きの感触も細川さんを魅了した。中学生の頃にはいっぱしの川漁師となり、川の恵みに対する感謝の心も、知らず知らずのうちに育っていった。

今もうなぎ、アユ、アマゴ釣りは細川さんの楽しみだという。その日の釣果を手帳に記し、仲間と「今週はこればぁとれた」と自慢しあう。息子たちが孫や友達を連れて「じいちゃんのアユとうなぎ」を食べにやってきて、「やっぱりうまい!」と舌鼓を打つ姿を見るのもたまらない。

川の荒廃を止めろ!

釣りのエピソードを聞くと、仁淀川の豊かさを感じる。しかし、経済成長が進む建設ラッシュの時代、砂利の大量採取により仁淀川も一時姿を変えた。川底の環境が大きく変わり、生き物の住みかや産卵場所がなくなって生態系にも影響が出た。この問題をなんとか解決したいと細川さんは住民らとともに砂利採取の禁止を訴える運動を起こし、2010年までの10年間続けた。その結果、最盛期には37ヶ所あった採取場が現在は4ヶ所に減り、川の環境は改善に向かっている。組合員が一丸となって取り組んだ川を守る一大プロジェクト。長年取り組んだことで住民の川を守る意識は向上し、ゴミの投棄量も激減したという。

かつて洪水の後には、堤の木々に白いビニール袋が大量に引っかかり、白鷺の群れのように見えたそうだが、近年の大雨ではほとんど見られなくなった。細川さんのアユの投網にも、昔は缶詰の缶やビニールの燃えカスなどの人工物がかかって難儀を強いられていたが、今はもうない。「人は、そこにゴミがあったら捨ててかまんと思うて捨てるし、なかったら捨てられんと思う。仁淀川を見た人は、汚したらいかんと感じてくれると思う」。

川を守るために、山を守る

細川さんは山の猟師でもあり、山の変化も痛切に感じている。40年前には山のあちこちに湧き水があり、登山に水筒は不要だった。しかし現在、水場はほとんどなく、「水筒がなかったらおおごと!」と言うほど山は水枯れの状況。保水力の低下は川や海の環境にも影響をおよぼす。川を守るために山を守る。流域住民らとともに、山に木を植える活動も行っている。

越知町の黒森山で植樹活動を実施。山を豊かにすることが川や海の水質改善につながる。

清流にアユはつきものだが、アユの生育の実態を詳しく知ることは難しい。仁淀川では2005年より「リバーキーパーの会」が活躍し、アユの成育状況の調査、産卵場所の整備などを無償で行っている。大学教授など川の専門家が参画して集めた細かなデータが、川とアユの関係を如実に表している。その年の漁が占えるほか、川を守るために何をすべきかを考え、行動する指標となっている。「我々だけではできないことを、たくさんの人に手伝ってもらっている」と話す。

アユの産卵場所造成。川を通して命と自然の大切さを学ぶ

細川さんは、トヨタのハイブリットカーAQUAが全国のNPO、地方紙と協力して開催するエコ活動「AQUA SOCIAL FES!!」にも参加している。5月に開催されたこのイベントでは、地域の子どもたちに向けて、稚アユに関する説明を行った後、50キロ分の稚アユを放流した。川から海へと旅をし、戻ってくるアユの生態を知った子どもたちは、「元気で大きくなって帰ってきてね」「また会おうね」と声を掛けながら、愛しさを込めて稚アユを送り出す。細川さんは、この気持ちが「いただきます」という感謝につながると話す。

今年2回目の「AQUA SOCIAL FES!!」は、細川さんが中心となって7月26日に仁淀川流域のいの町・波川公園で開催される。詳細は公式ホームページをご覧ください。

10月には「24土(によど)の日」として、仁淀川流域の7町村合同で清掃活動を行っている。「年々ゴミが減っていることがうれしい」という細川さん。改めて仁淀川の素晴らしさに気づくことができるこのイベントは、住民でなくても誰でも参加できる。日頃、仁淀川を楽しんでいる人にとっては、絶好の恩返しの機会となっている。

(取材・執筆:高知新聞社 岡林広太)

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