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ドナルド・トランプを当たり前の存在にしないために

2016年07月29日 22時14分 JST | 更新 2017年07月30日 18時12分 JST
JOSHUA ROBERTS / REUTERS

ドナルド・トランプは、自分はみんなから愛されていると主張するのが好きだ。ヒスパニック系は彼が好き。アフリカ系アメリカ人も彼が好き。女性たちも彼が好き。LGBTコミュニティも彼のことが大好き。テキサス州の人も彼のことが好きだから不支持には回らない。

しかし、トランプがこのような主張をしないグループが1つだけある。「政治記者は、私が今まで出会った中で一番不誠実な連中だと思う」と彼は言った。6月の記者会見で、記者たちから退役軍人への寄付に関して質問されたときの話だ。「メディアは自分たちを恥じるべきだ」と彼は言った。「君たちは私を悪者に仕立てようとしている」。これまで、彼はワシントンポスト、サロン、そしてもちろんハフポストを含む記者たちの取材許可証を取り上げてきた。

今回の選挙運動で私たちが目にしてきたように、トランプは自分がヒスパニック系、アフリカ系アメリカ人、女性やLGBTのコミュニティから好かれていると勘違いしているのと同じく、メディアに嫌われていると思い込んでいる。メディアとトランプの関係は選挙運動の当初からとても奇妙なものだった。2015年6月、トランプタワーのエスカレーターから彼が降りてきた瞬間から、彼の支持率は非常に好意的な報道に支えられて上昇してきた。

トランプはコラボレーションやブランド契約が好きだ。トランプは自分の名前を出し、相手はそこに見返りを提供する。これはまさに、予備選でメディアがやったことだ。そして選挙キャンペーンが始まるとメディアは流れを変えようとしたが、トランプと同じく、気まぐれで一貫性を欠いてきた。

「ゲームが変化した」と書いたのはコロンビア・ジャーナリズム・レビューのデイビッド・ウバーティ氏だ。オーランドの銃撃事件に対するトランプの恥ずべき反応に対し、多くのメディアが正当に批判したことを受けてのものだ。「大統領選での政治とメディアの動きは、これからの5カ月間でトランプに対する報道がより継続して攻撃的になることを示唆している」。そう願いたいものだが、果たしてどうなることやら。ウォーターフロントの不動産やカジノ開発業者のように、メディア側がトランプに対する姿勢を変えるのは難しそうだ。

トランプの支持率上昇にメディアがどれだけ重要な役割を果たしたのか?  ハーバード大学ショレンスタイン報道・政治・公共政策センターが発表した調査によると、メディアの役割は非常に大きかったという。研究グループは、2015年、「影の予備選」と呼ばれる予備選挙期間前からの政治に関する報道を調査した。そこで明らかになったのは、トランプに対する報道の量と論調は、世論調査の数字と一致するものではなかったということだ。

「彼のニュース報道が過熱し始めたとき、彼は予備選の世論調査では上位にいなかった。また資金もほとんど集まっていなかった」と、トーマス・パターソン教授は報告書に記している。「選挙戦に参加した段階で、彼は世論調査に比べてニュースの方で大きく目立っていた。影の予備選が終わる頃には世論調査の支持が高まり、最有力候補と報道されるまでになった。しかし彼は過去に前例のない数のフリーメディアの力でそこまで持ち上げられたのだ」

その関係は共犯的だったが、状況をよく理解していたのはトランプの方だった。「ジャーナリストたちはトランプの最初の聴衆が有権者ではなく自分たちだと気づいていないようだった」と、パターソン教授は記した。「トランプは、魅力的なストーリーを求める彼らの性質を利用した。彼には他に方法がなかったのだ。彼は選挙母体も大統領になるための信用も持ち合わせていなかった」

さらにトランプが受けた取材の数だけでなく、どのように報道されたかについても調査された。ショレンスタインの調査では、予備選前のトランプの信条や問題発言に対する姿勢への報道はわずか12%だった。報道の半分以上は「レースや選挙運動がらみで、トップになったことなど肯定的なストーリーを報じることに限定されていた」。実際に79%の報道が肯定的な内容だった。「報道の数や論調によってトランプは共和党の支持率トップまで上りつめた」 と、パターソン教授は説明する。

では民主党、共和党の候補者の中で最も好意的な報道が少ないのは誰か? ヒラリー・クリントンだ。「メディアはトランプを持ち上げ、一方でクリントンの支持が下がる報道をした」と、パターソン教授は言う。「トランプに対する肯定的な報道は広告費換算で数百万ドルに匹敵する一方、クリントンに対する否定的な報道は、彼女への中傷キャンペーン広告換算で数百万ドルに匹敵する」

パターソン教授が解説するように、メディアは「新しいもの、普通ではないもの、世間を騒がせるもの」が好きだ。 そしてトランプにはそのすべてが当てはまった。メディアもトランプも自分たちが欲しいものを手に入れた。トランプのブランド契約には珍しく、お互いが得をするかたちだ。その結果、「トランプは、本当の意味でメディアが作り出した初めての大統領候補だろう」と、パターソン教授は結論づけている。「彼は後になって政治の痛いところを突いたが、ジャーナリストたちが彼のスタートに火をつけた」。そしてそれに続く成功とはもちろん、無責任な報道に対する根拠の後付けだった。

AP通信は6月、トランプ陣営の有給スタッフは今だに30人ほどしかいないと報じた。彼はMSNBCが報じたように「選挙キャンペーンなき候補者」だった。しかし、もちろんその穴はメディアが埋めた。 彼がツイートするたびに大喜びで速報するようになったメディアは、彼の計画の深刻さや影響はほとんど無視していた。

12月にトランプが発表した「アメリカへのイスラム教徒の入国を完全に禁止する」という発言は、その言葉だけをセンセーショナルに伝えるだけで、実現する危険性は無視した。または正式な許可を持たずにアメリカに住む人たちを全員国外退去させるという計画は、ジョシュ・マーシャルが書いているように、その規模と潜在的な人的コストに見合うだけの注目を集めていない。「間違いなく彼の政策の中でも最も狂気的で、危険で、コストがかかり、野蛮なものについては、ほとんど触れられていない」と彼は書いた。「それは18カ月でアメリカの人口の約3パーセントを国外退去させるという計画だ」。こうした政策は基本的に、空威張りのリアリティ番組のスターによる派手なパフォーマンスとして扱われた。

だがこれは単なるリップサービスではない。トランプがレトリックを駆使してどれだけごまかそうとしても、それらは彼を特徴づける政策だ。しかし今は、投票日を4カ月後に控えた大事な時期だ。だから詳細に目を向けてみてはどうだろう? 1200万人を国外退去させるのにコストはいくらかかる? それを実行するには何万人、何十万人が必要になるのでは? 新しい政府機関が必要になる? 何人の子どもたちが孤児になる? 百万人? 新たに百万人の孤児を抱えた国はどうする? 誰が彼らの生活費を払う? 私たちの税金は上がるのか? もしかしたら2倍に? 入国審査で「テロ国家」から来たかどうか判断するための宗教テストはどうやって機能させる? 誰がイスラム教徒かどうやって判断するのだろう? 週に一度礼拝に行く人、それとも1カ月に一度? イスラム教徒の両親の元に生まれただけで、本人は違ったら? それらがトランプの特徴的な政策なのだから、今こそその詳細とコストを明らかにすべきだ。

問われるべきはトランプだけではない。彼は大統領候補指名を勝ち取ったが、共和党の政治家たちはトランプを支持することを許されながら、彼の特徴的な政策からは距離を置いている。トランプを支持しながら彼の人種や宗教や移民に対する政策は支持しないのは、バーニー・サンダースの格差、ウォール街、選挙資金に対する姿勢以外は支持すると言っているようなものだ。レブロン・ジェームズのバスケットボール以外は好きとか、足が速い人は好きじゃないけどウサイン・ボルトは良いとか言うのと同じことだ。あるいはクッキーモンスターはいいけれど、彼のお菓子好きはダメというようなものだ。トランプの外国人嫌い、人種差別、法を無視した独裁者的な弱い者いじめは、すべてセットだ。それを丸ごと受け入れられない政治家はトランプ支持を認められるべきではない。

トランプ報道に難しさがないとは言わない。彼の選挙キャンペーンが始まったとき、ハフポストUS版は彼をエンターテイメントの項目として扱うことにした。彼は明らかに道化なのだから。2011年のホワイトハウス記者晩餐会でセス・マイヤーズが言ったように「ドナルド・トランプが共和党から大統領に立候補すると言っていて驚きです。僕は彼のことを単なるジョークだと思っていたので」

トランプをエンターテイメントの項目で扱うのはレトリック的な意味があった。読者に「この人は普通の候補者ではなく、我々はその姿勢を崩さない」と示すものだった。宗教の自由を基に成り立つこの国で、彼がひとつの宗教を完全に締め出すという提案をしてからは、彼に関する記事の最後には必ず編集者による注をつけることにした。

ハフポストUS版編注:ドナルド・トランプは世界に16億人いるイスラム教徒をアメリカから締め出すと繰り返し発言してきた嘘ばかりつき極度に外国人を嫌い人種差別主義者ミソジニスト(女性蔑視の人たち)、バーサ―(オバマ大統領の出生地はアメリカではないと主張する人たち)として知られる人物である。

これらのことにはすべてリンクをつけて証拠を示している。

この注は、トランプの言動が政治討論の場で普通に許容されることを許さないための、私たちの働きかけの一部だった。だが多くのメディアはジェイ・ローゼンの「どこからでもない視点」という印象深い言葉にとらわれてしまった。そこではバランスこそが真実をも上回る最高の美徳であり、トランプの醜いレトリックを覆い隠してきた。

ニュースメディア「Vox」のデイビッド・ロバーツ記者は5月にこんなことを警告していた。「この選挙を正常化しようとする大きな流れが起きるだろう。それはコカコーラ対下水道の水を、コカコーラ対ペプシにしようとするようなものだ」と彼は書いた。「キャンペーンメディアの自己イメージは偏りなく成り立っている。偏りがあれば正当な政治討論が不可能になってしまう。もし一方が問題のある中道派を担ぎ上げ、もう一方が低俗な外国人嫌いの煽動政治家を担いだとして、どうやってうまくいくというのだ?」

数日後、インタビューでトランプの税政策を分析したチャック・トッドに対し、ニュースメディア「On The Media」のボブ・ガーフィールドが反応した。「この男は歴史的な脅威なのに、なぜチャック・トッドは税制案なんか気にしているんだ?」と、ガーフィールドは発言している。「まるでチャールズ・マンソンに運転歴を尋ねるようなものだ。だがそれが政治メディアだ。通常の選挙モードでデマゴーグを普通の正当な候補者として扱っている」。

一方でガーフィールドは「ジャーナリズムは最新の動向を追うために古いニュースをないがしろにしている」と書いており、それが今回の件でも「過ち」を起こすかもしれない。「ドナルド・トランプに対して行われるすべてのインタビューで、彼の偏狭さ、煽動、未熟な振る舞い、憲法に対する軽率な侮蔑に対する責任を問うべきだ」と彼は言う。有権者は投票を行うだけだが、報道が十分でない中での投票などありえないことだ」

報道が不十分な例はいくつもある。ハフポストUS版のシニア・メディアレポーターであるマイケル・カルデロンは、トランプがイラク侵攻に反対していたと主張する件について2つの記事を書いた。選挙キャンペーンの初期段階で鋭いアウトサイダーというイメージを定着させたいトランプは、この主張を繰り返した。反エスタブリッシュメントとしての判断力を究極的な形で示すためだ。

ただしカルデロンが指摘するように「イラク侵攻が行われる以前に彼が公の場で反対を表明したという証拠は一切見当たらない」。確かにトランプは2004年の夏にイラク侵攻を批判したが、そのときにはすでにイラク戦争を批判していない人の方が少なかった。それでもほとんどのメディアはその主張に疑問を呈することなく繰り返し報道した。

それは今でも続いている。4月下旬にトランプの演説をレポートしたニューヨーク・タイムズは「ジョージ・W・ブ