夫婦はセックスレスにつき進むしかないのか、“公認不倫”描く『1122(いいふうふ)』の作者に聞いてみた

「理想の夫婦」なんてあるんでしょうか。

セックスができなくなって離婚した「あいのり」出演者の桃さんの話がニュースになった。「セックスレス」は、アラサーになってよく耳にするようになった。でも、多くの夫婦はレスになっても離婚まではしないはずだ。

じゃあ、したくなったらどうするんだろう?

離婚?不倫?珍しい話ではないけれど、できれば選びたくない。

特に難しいのは、そんな相手と向き合ってセックスについて話すことなのかもしれない。その気まずさといったら、半端ない。

セックスレスになったことをきっかけに妻が夫の不倫を公認するストーリーマンガ「1122(いいふうふ)」の作者、渡辺ペコさんに聞いてみた(以下、敬称略)。

井土亜梨沙 日本の婚姻関係にある男女のセックスレスの割合は2016年時点で半数近いという数字が出ています。一生を共にすると誓った夫婦の多くは、セックスレスにつき進むしかないのでしょうか。

渡辺 カップルが結婚すると、契約の中には性のつながりもパッケージとして含まれています。でも、実際自分自身の性癖や性に対する価値観を把握するのさえ難しいものだと思います。自分だけでも難しいのに、ましてや2人でそれをすり合わせるのはさらに複雑になるという実感があります。

お互いに歩み寄り方がわからなくなって、結果としてセックスレスになることは自然にあり得ると思います。だからこそ、マンガにしてこの複雑なテーマを扱いたかったのです。

(C)渡辺ペコ/講談社

『1122』は、30代の夫婦がセックスレスの解決方法として、「公認不倫」を選ぶストーリーだ。妻、いちこがセックスを拒否したことをきっかけに、夫、おとやんは他に恋人をつくる。「ルール」に従えば、不倫も「あり」になる。

(C)渡辺ペコ/講談社

おとやんの公認不倫で、夫婦のセックスレス問題は解決したかのように思えたが、恋するオーラ満開で過ごす夫に対して、いちこは次第に冷たく接するようになる。同時に、おとやんのセックスを拒否し、自分の性欲を「凪」と表現していたいちこにも性への目覚めが訪れ、おとやんに内緒で風俗の扉を叩く。

(C)渡辺ペコ/講談社

井土 「公認不倫」をうたっている夫婦にもかかわらず、妻、いちこが風俗に行くことを内緒にしているのはなぜですか。

渡辺 ルールの中では、自分たちの性について公にしようと言っていますが、いちこの方は知られたくない、恥ずかしいという感情があるのでは。おとやんが、不倫をオープンにすることで夫婦関係に齟齬や矛盾が出てきていることをすでに2人は体感しているから、今回は内緒にしようと。その状態で新たな火種を作りたくないって思ったんでしょうね。

それを私は、「私の性は、私のものだから、知られたくない」と表現しました。

井土 ?それってどういうことですか。

渡辺 一人一人自分の中に自分の「性」があると思います。性癖とか性に対するあり方や価値観のことです。夫婦は、その「性」の一部を共有する関係です。全部を共有できる夫婦もいるかもしれませんが、基本的にはできないと思います。自分だけのプライベートな部分があるのは普通なことです。

このマンガの中では、おとやんは不倫、いちこは風俗で自分たちの「性」を満足させようと試みました。2人で共有する「性」が少ないことを下の図のように描きました。

(C)渡辺ペコ/講談社

いろんな形の「共有」があるから、最初から財布を一つにするような感覚で、一緒にするのは難しいと思います。

井土 「私の性」に気づくきっかけとして、いちこの心の声を伝える「インナーいちこ」を登場させたのでしょうか。

(C)渡辺ペコ/講談社

渡辺 そうですね。自分の本心とか欲求とか願望って自分自身でも捉えるのが難しいと思います。一人だけで抱えると、見たくないことはなかなか出ないし、触れたくないことは気づかないふりをしちゃうし、そこに彼女を入れると話がわかりやすくなる。本心、本音に近い役割の人の存在で、モノローグではなく、ダイアローグになるように出しました。

井土 実際にそういう人がいたら、もっと自分の心に素直になれそうですね。私もいてほしいな...。渡辺さんご自身の夫婦関係は、いちことおとやんのようにオープンに話していますか。それとも、多くの夫婦のように「気まずさ」があるのでしょうか。

渡辺 私自身、結婚、夫婦がまだよくわからず、この夫婦関係のままでいいのかなとかいう迷いはあります。快適で幸福ではありますが、今の自分たちのあり方がベストかどうかはわかりません。

井土 いちことおとやんみたいに、そのことについて話し合いたいと思いますか。

渡辺 今は特に必要性は感じません。でも2人の関係について話したくなったら素直に伝えたいと思います。いずれにしても、私個人の状況は重要ではないと思います。

井土 「変える必要はない」とおっしゃる渡辺さんが、いやでも「セックスレス」と向き合わなくてはいけないようなマンガを描いているのはなぜですか。

渡辺 私個人の問題と私個人が描くものは、必ずしも一致する必要はないし、漫画の中で私個人の話をしたいわけではありません。にもかかわらず、周りを見渡すと自分の体感的に6、7割くらいはセックスではつながっていない夫婦がいると思いました。冷え切っていて、不倫している人もちょこちょこいましたが、とても仲がいい人たちの方が多いんです。

彼らを見ていると、夫婦関係にグラデーションがあると思い、これはなんだろうと疑問に思い始めたんです。夫婦を維持しながら、その状態がいいと言えるのかどうかの曖昧な感じを描きたいと思いました。

井土 でも、「理想の夫婦」なんてあるんでしょうか。

渡辺 関係はそれぞれなので、結局は個々によるとしか...。理想だけでいったら、性的にも精神的にも繋がりがあって信頼関係もあって、継続できる関係ですかね。でも実際、生活から倫理観から性の趣味から、全部合うっていうのはあんまりないはず。みんな関係が完璧じゃない中で、合わないとか足りないところを補填したり、見て見ぬふりしたりしてると思います。その中で、お互いが相手に対して敬意を持つのが重要なんじゃないでしょうか。

井土 敬意...。

渡辺 愛情って「いいもの」のように言われるけど、超主観的で流動的だから、長期の関係のよりどころにするには危ういと思うんですよね。敬意があれば、個人と個人がいい関係を作ろうと思って努力はできるのでは。恋愛感情は「強い」けど、「土台」にはなりづらいと思います。

日常生活を共にするカップルが、セックスについて向き合って話すことは至難の技だ。『1122』を描く渡辺さんでさえ、「かなり難しい」と答えている。

しかし、自分たちの「性」について理解しないまま「気まずさ」に取りかかろうとしていないだろうか。

自分はどんな「性」の価値観があるのか。インナーいちこが存在しない代わりに、私たちはそれを自分で引き出していかなければいけない。

それを信頼できる友だちから共有することでもいいのかもしれない。「気まずさ」を真正面から受け止めなくても、まだ他にできることはありそうだ。渡辺さんの話からは、そんな優しい答えをもらえた気がした。

(C)渡辺ペコ/講談社

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