上司に「生理」を相談しても消えなかった"痛み"を、宋美玄先生に話してみた

「私たちは、生理の歴史からしても『特別』な時代に生きている」

「私たちが、カラダのことで、コントロールしやすいのが生理」。あなたはそれを聞いて、どう思うだろうか。生理のたびに下着が汚れていないか気になる、イライラして集中できない、とにかくお腹や頭が痛い...。それをコントロールすることは、本当にできるのだろうか。

著書『女のカラダ、悩みの9割は眉唾』で、産婦人科医の宋美玄(そんみひょん)さんは、現代の医療技術で生理の辛さを緩和することは可能だと述べている。

私は重い生理について悩み、思い切って上司に相談したことがある。そのことを2月22日にブログで書いたら、たくさんの読者から反響をいただいた。お便りをくれた方もいて、励まされ、何度も何度も読んだ。しかし、心の痛みは和らいだものの、カラダの痛みは消えない。宋先生に会いに行って、相談してみると意外な反応が返ってきた。

生理は、当たり前に「我慢しなきゃいけないもの」って思っていませんか

私のブログ「社会人3年目の私が、恐る恐る上司に『生理』について話してみた」はFacebookで3700以上の「いいね!」がつき、1800近くシェアしてもらった。ハッシュタグ「#ladiesbeopen」をつけてtweetもして広まった。

宋先生はブログを丁寧に読んでくれたうえで、冷静なアドバイスをくれた。

「生理痛が重いネタってFacebookやTwitterなどソーシャルメディアで共感を呼びます。時には女性が定期的につぶやく『ギャグ』として認識され、一気に拡散します。でも、それに共感するだけで終わってしまうんです。じゃあどうしたらいいんだろう、生理をなんとか改善することはできないのだろうか、という発想にならないのが残念です」

たしかにそうだ。ブログを読んだ男性の同僚や友人からは「大変だね」「女性ってがんばってるね」と言われたものの、毎月の生理の不快感や痛みが消え去るわけではない。

上司に生理痛を相談したことがきっかけで、私の会社は、「生理のときは有給休暇を取って良い」という文言を就業規則に加えるよう準備を始めている。つらくて外に出るのが難しいときは家からインターネットのチャットツールをつかって、遠隔で仕事ができるようにもなった。

だが、宋先生は、企業の「制度づくり」ももちろん重要だが、その前に考えて欲しいことがあると語った。

「企業側も配慮して生理休暇などの制度を導入していますが、産婦人科医からすると、生理休暇をとらないといけないくらい生理が重い時点でそれは『疾病』にあたると考えられます。そこまで痛いのであれば、すぐに病院に来て欲しい」。

私は10代のころから、毎月生理を我慢して耐えることに慣れてしまっていた。生理が来ない人もいるが、多くの女性が経験する「当たり前のカラダの現象」で、恥ずかしながら病院に行く、という発想がなかなか出てこなかった。婦人科系の病院に行くためらいもあったし、みんなが経験している「ふつうのこと」で通院するのは、大げさなことだとも思っていたのかもしれない。

「そういう女性は実は多いんです」と宋先生。「女性の人生において、赤ちゃんを迎えることにスタンバイしていない時期の方が圧倒的に長い。その時期に排卵して、生理になる必要はあまりありません。それなのに、女性にとって生理は逃れられないものとして、意味をもたせすぎました」。

ロート製薬が行った「20代~50代の男女800人に聞く日本人の痛み実態調査(2011年)」では、約8割の人が「日本人は痛みを我慢する国民性」と回答。「痛みを我慢することに弊害が伴う」ことについて、認知度はわずか2割だった。生理は女性にとってしょうがないもの、我慢しなきゃいけないものという発想からの転換が必要だ。

私たちは、生理の歴史からしても「特別」な時代に生きている

では、生理が重い人は一体どう対応するべきなのだろうか。病院でも勧められる選択肢のひとつとしてまず挙がるのは、「低用量ピル」や「ホルモン療法」などだろう。しかし、抵抗を示す人は日本ではまだまだ多い。

ピルは、日本では避妊薬としてのイメージが強いが、生理痛や生理前症候群、肌荒れのトラブルなどを軽減するという効果もあるとされている。だが、日本のピル普及率は、先進国の中でもダントツに低く、日本は3%程度だと言われている。

私も12月から、人生で初めて定期的に低用量ピルを飲み始めている。毎日同じ時間に飲まなくてはいけないという煩わしさはあるものの、痛みが緩和されることも多く、生理痛で毎月苦しんでいた自分が過去のものとなった。

しかし、ピルの副作用を気にする人や、毎日薬を飲むことが「自然ではない」として拒む人も多い。私もカラダの自然現象を「薬で抑える」ということに、気持ち悪さがあったのも確かだ。家族にも言いづらかった。宋先生、薬を飲むことは「自然なことではない」のに大丈夫なんですか?

「いや、むしろ今の先進国の女性の方が『自然』ではないんです」と宋先生。

「ホモサピエンスとして、人が初潮から20年間もの長い間妊娠をしないのは、この数十年の先進国だけではないでしょうか」。宋先生によると、数十年前までは、初潮が来たら結婚し、若いうちから子供を多く産む女性が「一般的」とされた。一度妊娠して子どもを産むと、授乳期を合わせるとおよそ2年くらいは生理がなく、その度に子宮や卵巣を休ませることができた。

厚生労働省によると、女性が第一子を出産する平均年齢は2014年は30.6歳。1975年の25.7歳から年々上昇している。働く女性が増えたり、経済的理由で家庭を持ちにくかったり、価値観によって「結婚」や「出産」をあえて選ばなかったりすることが背景にありそうだ。

私はいま26歳なので、1975年の「平均初産年齢」をすでに迎えたが、いまのところすぐに子供を産む予定はない。社会で活躍する女性が増えることは良いことだし、「女性は出産を経験しないといけない」という決めつけの価値観も好きではない。

ただ価値観や生き方が多様化した分、カラダに対しては負荷がかかっている面があることも、女性として向き合う必要があるのかもしれない。

宋先生はこうも、言う。「子宮や卵巣に毎月『建設と破壊』という負担をかけることで、子宮内膜症や卵巣癌が増えていると言われています。そう考えると、果たしてみなさんが薬を飲まずに排卵を繰り返しながら生活していることを『自然』と呼んでいいのか。つまり、昔の人と同じように体の負担をなくすことの方がより『自然』と言えるのではないか。そうやって負担を軽くする方法のひとつが低用量ピルだったり、ホルモン療法だったりするわけです」

低用量ピルの認可が北朝鮮よりも遅かった日本

宋先生のiPadを使いがなら、説明してくれた

「自然」なことに対する固定観念は捨て去れた。でも、不安なのは副作用だ。私は低用量ピルを飲んで3ヶ月たったが、今のところ「吐き気」など予想されたカラダの変化はない。

ピルは製薬会社の商品開発によって、中用量ものから、低用量のものへと変化をしてきた(今では超低用量ピルもある)。用量が低いほど、ホルモンバランスに作用する強さと副作用の程度が徐々に軽くなっていく、とされる。日本では、1964年に中用量ピルが避妊薬として認められたが、低用量ピルが認められたのは、30年以上たった1999年のこと。当時の国連加盟国189カ国中では2番の北朝鮮より遅かった。

低用量ピルが認可されるまでの間、日本では中用量ピルが使われていた。低用量ピルよりホルモン量が多く、副作用も強い中用量ピルが日本人における「ピル」という概念を形作ってしまった可能性がある。

宋先生は病院の診察室で、そのような患者さんの「ピル観」と出会うこともあるそうだ。10代の患者に生理痛の緩和や、生理不順を整える目的で低用量ピルを処方しようとすると、お母さんが出てきて、「なんでそんなもの飲まないといけないんですか」と言われる。私も母に説明するときは、誤解を生まないようになるべく丁寧に説明する必要があった。

もちろん副作用やリスクがまったくゼロではない。 ピルの効果は一人ひとりの体によってまったく異なるものだからだ。宋先生によると、主な副作用は以下のようなものだ。

①ピルのリスクで一番重いものとしては血栓症。血栓症になりやすいのは、体重が重い人とか年齢が高い人。「妊娠するときも血栓症になりやすくなるが、ピルを服用する人は妊婦の1/3くらいの頻度でなります」(宋先生)

②吐き気や不正出血。低用量ピルは、子宮内膜からの出血を抑える最小限のホルモンが入っているため、不正出血しやすいようだ。それに比べると中用量ピルの方が、出血を抑える。

③乳房が張るなどのカラダの変化。

「全員にピルを飲めって言いたいわけではない。飲みたくない、飲めない人もいると思います。そういう人は、例えば基礎体温や月経管理のアプリをつけて、自分の周期を把握することをお勧めする。周期でいうと、こういう時期にいるから、これに気をつけたらいいのかなと、気づくだけでもカラダや精神への負担が和らぐ。辛いとか重いとかの症状を放置して薬を飲まないことだけが『自然だ』と思っている人がいたら、それは違うと伝えたいです」

宋先生の私への「診察」は1時間半。お話をしていて、もっとも印象に残ったのは次の言葉だった。

「仕事上大事な日に生理が重なったら、それをいやだなって思う気持ちがあるなら、一回医師に相談するといいですよ」。

医療に「絶対安全」「必ず効く解決策」があるわけではない。私は低用量ピルを飲んで生理痛と向き合ったが、これを読んだ方には抵抗感もあるかもしれないし、カラダの違いによって他の方法を選んだ方が良い人もいるだろう。

ピルで生理痛はある程度治るけど、結局毎日飲まなくてはいけないし、おおっぴらに飲むことはまだ難しい。(前述のように、ピルに抵抗を示す人は多い)。というのが飲んだ私の気づきだ。

しかし、病気じゃなくても、痛みがなくても、病院に頼っていいのだ。痛みを緩和することだけが医師の仕事ではない。患者のカラダにまつわる悩みに寄り添い、解決策を導いてもくれる。生理の苦しみを当たり前に受け入れてきた私たちは大事なサポーターを見失っていたのかもしれない。

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宋先生は、4月6日(木)に東京・築地の朝日新聞読者ホールで開かれる、ハフィントンポスト共催のイベント「もっと話そう女性のカラダ!仕事とカラダのいい関係」で、「もっと知りたい子宮のこと 〜生理はコントロールできる時代に〜」をテーマにしたセッションに登壇します。私も参加します。今度は読者の方を交えて、宋先生とお話できたら幸いです。編集部一同、ご参加をお待ちしております。

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ハフィントンポストでは、「女性のカラダについてもっとオープンに話せる社会になって欲しい」という思いから、『Ladies Be Open』を立ち上げました。

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