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伝統文化・芸能体験レポート(3)日本のHappyの形をつたえる伝統芸 紙切り、曲芸の世界

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アーツカウンシル東京が展開する様々なプログラムの現場やそこに関わる人々の様子を見て・聞いて・考えて...ライターの若林朋子さんが特派員となりレポート形式でお送りするブログ「見聞日常」。

日本の本格的な伝統文化・芸能を短時間で気軽に体験できる「外国人向け伝統文化・芸能体験プログラム」を3回のシリーズでお届けしてきたレポートも今回が最終回。今回は紙切りと曲芸体験のプログラムをご紹介します。

(以下、2016年5月12日アーツカウンシル東京ブログ「見聞日常」より転載)

さあ、再びのお江戸・両国。大相撲で賑わう両国国技館の横を通り抜け、今日も東京都江戸東京博物館にやってきた。アーツカウンシル東京が主催する「外国人向け伝統文化・芸能体験プログラム」の取材も、いよいよラスト。今回は「紙切り」と「曲芸」のプログラム。どんな体験が待っているのだろう。

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紙に息吹を吹き込むハサミ技

「紙切り」とは、観客からの注文を受け、1枚の紙とハサミを使って即興で形を切り出していく伝統芸で、寄席で演じられる色物(落語以外の演目)のひとつ。今日の講師、林家花さんは、約300年の寄席史上初の女性紙切り芸人だ。

まずは、林家花さんによる紙切りの披露。「日本らしいものということで、京都の舞妓さんを切ります。1枚の絵をあっという間に切るのが紙切り。こうして舞妓さんの睫毛...帯...扇を...。」

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話をしながら切り進めるのも紙切り芸人の技。あっという間に、舞妓さんが紙から生まれてきた。赤い台紙を背景に、繊細な睫毛や口元、着物の襟足がなんとも美しい。

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早速、体験コーナーが始まる。「最初に見本をお見せします。まずは『たまごからひよこ』。紙切りは、ハサミではなく紙の方を動かします。たまごをつくってから、ひよこ。ここが、くちばしです。」曲線を切るのは、かなり難しい。紙切りの修行も、この「たまご」を切る練習から始まるそうだ。

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「次はうさぎです。うさぎは後ろからハサミが入ります。2本の耳は同じ太さ、同じ長さに。紙切りは、最後は切り始めの場所に戻ります。一筆書きのような感じです。」

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うさぎもあっという間にできあがり

「次は亀。紙を2つに折って、開いた時に丸くなるように想像して、頭から切っていきます。」

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開いてみると...亀が生まれた!

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「亀じゃなくてワニにしか見えない!」「甲羅の丸みがでなかった~」「意外と上手にできてる!?」「うさぎは難しいわ」。ワイワイガヤガヤ、あちこちで出来栄えに歓声が上がっている。おかしな形も、みんな笑顔で大賑わい。タイ、チリ、ドイツ、愛知、福島、栃木など、出身もさまざまな老若男女が、ハサミ1本で動物たちを切り出した。なんだかとても平和な時間が流れている。

お客さんからのお題に即座に応える紙切り芸は、たとえ無理難題でも当意即妙のユーモアで、文字通り「切り返す」。芸の根底には、明るさと幸せがある。そういえば、練習で切り出した亀もうさぎも、縁起のいい動物たちだった。

息を飲む緊張感からの大興奮―躍動感満載の「曲芸」

体験取材のフィナーレは「曲芸」。空中ブランコや綱渡りといったアクロバティックなイメージもあるが、日本伝統の曲芸といえば、お馴染み、傘回しや皿回し、撥(ばち)や鞠投げなど。曲芸もまた、寄席の演目のひとつである。

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曲芸に使われる道具

座って待つ大勢のお客さん。立ち見も増えていく。登場した今日の講師、鏡味味千代(かがみ・みちよ)さんが、まずは曲芸の歴史解説をスタートした。

「ジャグリングにも似ているこの曲芸、『太神楽(だいかぐら)』という芸能のひとつで、実は江戸時代以前からの長い歴史があります。当時は、伊勢神宮や熱田神宮詣が人々の夢でしたが、誰もが実際に行けるわけではありません。そこでお参りに行く代わりに、神社から太神楽の一団が派遣されて、1軒ずつ家々をお祓いして回り、獅子舞を披露したり、曲芸で楽しませたのでした。そう、『笑う門には福来る。』難しいことを考えず、今日はどうか楽しんでいただけたらと思います。」

そして曲芸は始まった。まずは、「五階茶碗」の披露。顎の上に台になる茶碗を立て、バランスをとりながら、板と5つの茶碗、紅白の房を積み重ねていく。

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「さあ、もっと高くします」

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「富士のお山の形」、親指の先に立てる「親指試し」、「十五夜」、丸いものと丸いものが重なる「縁結びの形」など、五階茶碗のバリエーションが次々披露される。

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扇子を使って茶碗を立てる最も難しい技

「今度はもっと高くします。細い糸を使いまして、空中高く釣り上げます。七福神を乗せた『宝の船』でございます。皆様のもとへ宝船が到着いたしました。『沖の対戦舟ゆすり』。そして回りながら下がります、『回り灯籠』。」―間髪入れずに繰り出される大技に、どよめきと拍手が止まらない。

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重ねた道具を一つひとつ手元に戻し、今度はたすきをかけて、大きな毬と棒を使った曲芸。

「形の違うものを使って、上へ上へと上げてまいります。まずは『肩たたき』。皆様に出会いがたくさんありますように。そして『なでしこジャパン』。はい、無事ゴール!」 それぞれの技の名前や道具は、おめでたい縁起物にちなんでいることが多く、いかにも神事から発展してきた芸らしい。まあるい毬は、何事も"丸く"収まるアイテムだったりする。

「今度はこちらの毬にご注目ください。私の顎からおでこへと毬が移動します。『天の川』―織姫と彦星が通いの舞。」

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子供たちも真剣

いよいよ次は、体験コーナー。

「日本の大神楽は日常にあるものを使います。たとえば、これはカップ、ドラムセットの撥。バランスのお稽古には手ぬぐいを端から丸めて鼻の上に立てるんです。皆さんやってみたくなったでしょう?今日は紙テープをお配りします。忘年会まであと12か月!できなければ掌にのせて練習します。」

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フランス人のダリオさん、お見事!

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金回りがよくなる「金輪」の傘回しのお手本。傘の骨にあたってチリリリといい音色

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インドネシア出身のハヌンさん。紙風船で傘回しに挑戦

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自ら立候補した小さな挑戦者

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"ますます繁盛"で枡を回す。カラカラと優しい音。"災いが去る"、猿のぬいぐるみも回した

躍動感あふれる曲芸体験が、興奮のうちに幕を閉じた。講師の鏡味さんに曲芸の魅力を尋ねると、「日本の歴史や宗教とも深く関連しているのに、とにかく最初から最後までハッピーなことですね。曲芸は日本のハッピーの形を伝えやすいんです」とのこと。口々に「楽しかった!」と帰って行った参加者たち。日本の幸せの形は、きっと伝わったことだろう。

和妻、長唄三味線、日本舞踊、紙切り、曲芸──5つの個性豊かな伝統文化・芸能を体験して感じたのは、その奥深さ。もっと知りたくなった。そして、海外からの観光客たちが日本の伝統文化や芸能に驚き、楽しんでいる様子を見て、さらには「こんなところがすてきね」と言ってもらうと、自分にとっても未知だった伝統文化・芸能の世界が急に身近になり、親しみがわいてくるのだった。

この体験プログラム、平成28年度も絶賛開催中だ。未知の世界を体験しに、ぜひお運びを。

平成27年度「外国人向け伝統文化・芸能体験プログラム」演芸体験プログラム(曲芸、紙切り、和妻)概要

  • 開催日:2015年4月25日(土)〜2016年3月 毎週土曜日 (各回30分)
  • 会場:東京都江戸東京博物館
  • 主催:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
  • 助成・協力:東京都
  • 協力:公益社団法人落語芸術協会

※平成28年度「外国人向け伝統文化・芸能体験プログラム」の詳細についてはこちら

写真:鈴木穣蔵
取材・文:若林朋子
取材日:2016年1月16日、1月30日

(2016年5月12日アーツカウンシル東京ブログ「見聞日常」より転載)