ノーベル平和賞は人権活動家の2人に ノルウェーで議論される平和賞のありかた

授与されたのは人権問題に取り組む2人、女子やこどもの教育の権利を訴えるパキスタンのマララ・ユスフザイさんと、インドの児童労働問題を訴えるカイラシュ・サティヤルティさんです。

平和賞受賞者の発表会見で記者の質問に答える選考委員長のヤーグラン氏 Photo: Asaki Abumi

2014年度のノーベル平和賞が、10日ノルウェーの首都オスロの選考委員会により発表されました。授与されたのは人権問題に取り組む2人、女子やこどもの教育の権利を訴えるパキスタンのマララ・ユスフザイさんと、インドの児童労働問題を訴えるカイラシュ・サティヤルティさんです。

今年の候補は「憲法9条を持つ日本国民」を含め、278の候補が挙がっていました。平和賞の予測で定評がある地元ノルウェーのメディアが有力候補として挙げていたのは、マララさんに加えて、米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン元職員、ロシアのノーヴァヤ・ガゼータ新聞、モンセフ・マルズーキ大統領。

現在の選考委員長にトールビョルン・ヤーグラン氏が就任して以来、オバマ米大統領、劉暁波氏、欧州連合など世界的に物議を醸す受賞が続いていたため、近年ノルウェーでは平和賞の選考基準のあり方が問いただされています。

中国の民主活動家である劉暁波氏に平和賞が授与された2010年以降、ノルウェーと中国との間では政治・経済関係に今でも大きな亀裂が生じています。「ノルウェー政府はノーベル平和委員会の決定には関与しない」とされながらも、毎年12月10日には国王をはじめ大勢の政治家が出席するセレモニーの様子が世界中に生放送。そのことからも、中国をはじめとする一部他国にとっては、「国と平和賞が無関係」というのは素直には受け入れがたい主張となっています。

中国との関係悪化が恐らく原因なのでしょう。ノルウェー現政府はノーベル平和賞と距離を置きたがっている傾向が以前よりも鮮明にみられます。ノルウェーの首相は(祝辞の準備のために)受賞者が全世界に公式に発表される1~2時間前には委員会から受賞者が誰になるか報告を受けています。しかし、エルナ・ソルベルグ現首相は毎年恒例となっているノルウェー歴代首相の受賞者への公式な祝辞を、今後やめるのではないかということも地元では注目を集めていました。

今回は今年の6月にすでにノルウェー訪問をし、首相とも面会をしていたマララさんだったためか、ソルベルグ首相は2人の人権活動家に公式な祝辞を述べました。はたしてこれがエドワード・スノーデン氏などだった場合、祝辞を述べていたのか? 個人的に気になるところではあります。

2014年6月にオスロを訪問し、国会議事堂の前で女子教育の大切さを訴えるマララさん。12月に再訪問となるか? Photo: Asaki Abumi

「希望」を込めて、選出される平和賞受賞者はノーベル賞の中でも特に論争の的になりやすい賞です。マララさんへの授与も、「17歳という史上最年少」という要素が、今後彼女の将来にどう影響を与えるのか、過激派にさらに狙われやすくなるのではないか、という心配の声は以前からあがっています。

ソルベルグ首相が所属する保守党は、「中国は関係ない。平和賞委員会は独立した機関で、政府には影響力はない」としながらも、ヤーグラン氏が委員長の座を退任することを求めており、このことが一部の地元メディアでは失笑を買っています。ヤーグラン氏が退任した場合、選考基準が今後変わるであろうことは確か。今後は有名人よりも、無名の個人や団体に授与される傾向が強まるかもしれません。

オバマ大統領が受賞者として発表された当時は、地元メディアの見出しは「どうして?」、「なぜ?」という大きな見出しで踊りましたが、今回のマララ・ユスフザイさんとカイラシュ・サティヤルティさんの受賞には、マララさんの身を案じつつも、ポジティブな反応が現時点では多くみうけられます。

ノーベル平和賞の授賞式は、12月10日、オスロ市庁舎で開催されます。

Photo&Text: Asaki Abumi

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