障害者差別解消法施行から1年~社会のバリアは減ったのか? 誰が推進していくか?

これは、障害当事者や関係者だけの問題ではなく、社会を構成しているすべての人に問いかけられている課題だと思えてなりません。

障害者差別解消法が施行されて一年が過ぎました。障害を理由に参加や利用を断るなど、差別することを禁止し、国や自治体に人手や環境を整備し、バリアを取り除くことを義務づけている法律です。一年経ってどこまで浸透してきているでしょうか。文京区を通して考えてみました。

まずは子育て支援についてです。

各自治体の保育園や幼稚園、一時預かりなどの条件には「集団保育が可能であること」と明記されていることが多々あり、この条件によって「障害がある子」は断られることがあります。つまりは、「集団保育が可能である」という条件は、障害を理由に利用の制限をしていることになります。

そもそも「集団保育」とは何か? 保育園や幼稚園等々で「集団で行われる保育」のことです。でも、障害のある子どもたちが通う療育・児童発達支援事業も基本は集団保育で、その中で、個々の障害の特性に応じた関わりを持っていくものであり、そのことは、幼稚園・保育園でも求められています。

「保育所保育指針」「幼稚園学習指導要領」いずれも、同年代の幼児との集団生活の場であり、そうした場での多様な体験を大切にし、保育所保育指針では「一人一人の子どもの活動を大切にしながら、子ども相互の関係づくりや集団活動を効果あるものにするように援助すること」と記されていますが、集団保育が可能な子どもであるという条件は一切つけていません

「集団保育が可能である」という条件を子どもに課しているのは、裏返せば、何かしらの特別な対応が必要な障害のある子等は、人手不足等の課題から「障害のない子がほとんどの集団保育は利用しないでほしい」という意思表明だと言わざるを得ません。

課題は、子どもの側にあるのではなく「十分に養護の行き届いた環境の下に、くつろいだ雰囲気の中で子どもの様々な欲求を適切に満たし、生命の保持及び情緒の安定を図ること」といった保育所保育指針等の保育の目標に対して、予算をかけられないという、行政や園等の側に課題があるだけです。

障害者差別解消法は、「障害を理由に差別する」ことを禁止しています。「集団保育が可能なこと」という条件づけは明らかに「差別」だと思います。

文京区では障害者差別解消法を受けて、昨年度、保育園・幼稚園・一時預かり等々の子育て支援施策の利用条件から、「集団保育が可能であること」を外しました。法律にあった条件整備を進めていること、他の自治体でも是非取り組みが進むことを願っています。

しかし、そうした整備を誠実に進めようとする文京区ではありますが、残念ながら、すべての担当者が障害者差別解消法を理解しているとは言い難い点もあります。

例えば、文京区では老朽化した区立保育園を建て替えることになっています。

が、当初の設計案には身体障害者用の駐車場が整備されることになっていたにも関わらず、計画が進むにつれて、設計から駐車場は消えてしまいました。「そういうお子さんが来たら考える」とのことです。

しかし、障害者差別解消法が施行される以前から、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする「障害者基本法」では、公共施設のバリアフリー化で「公共的施設について、障害者が円滑に利用できるような施設の構造及び設備の整備等の計画的推進を図らなければならない」とされています。つまり、園に障害のある子がいるかいないかで考えるのではなく、障害のある人の利用も前提にして設計しなくてはならないことであり、障害者用駐車場は当然、整備すべきです。

法律が求めていることを、公共施設の設計に落とし込んでいない現実には問題があると指摘せざるを得ません。

仮に、身体障害のある子どもの保護者や、身体障害がある保護者が園を見学に来た時に、駐車場が整備されていない現実に触れれば、「招かれざる利用者」なのだという思いから排除感や孤立感を持つことも十二分にあり得るでしょう。行政の責務として、入り口から「拒否」されているような感覚を絶対に持たせてはいけないと思います。

さらには、対象者が入園したために駐車場を途中から設置するとなれば、他の保護者からは「園庭が狭くなった」という声があがらないとも限りません。

あらゆる利用者を想定して、当初から公共施設を設計することを法律は求めています。

駐車場に限らず、建て替えに際しては、医療的ケア等を必要とするお子さんの保育に必要となる基礎的環境の整備をする必要があります。人工呼吸器等が必要なお子さんも見越した保育の環境整備です。

従来の保育園では基礎的環境整備が不十分で、医療的ケア等を必要とするお子さんの保育が難しくてできないこともあります。が、障害者差別解消法が施行されている今、建て替えた後の保育園ではそれを可能にするのが、建て替えに求められる視点です。

しかし残念なことに、この保育園の建て替え設計は、医療的ケアを必要とするお子さんを受け入れる環境整備ができておらず、このまま建設されれば、医療ケアを要するお子さんの入園希望があっても、環境を整備するには「過重な負担がかかる」という理由から拒むことになりかねない状況です。

さらには、医療的ケアを必要とするお子さんに限らず、衝動性が高いお子さんなど発達障害のある子ども等も見据えての設計をしなくてはなりませんが、そうした障害のある子ども達を想定していませんでした。結果、障害のある子どもを含むすべての子ども達の「様々な欲求を適切に満たす」には死角が大変多く、主体的に子どもが伸びやかに遊び育つ環境、さらには、安全確保においても懸念が残る設計になっています。

障害者差別解消法が、現場に浸透していない現状の表れだと思います。

入園を希望する医療的ケア等を必要とするお子さんを、受け入れる環境が整備できていない等の理由から拒むことになれば、障害者差別解消法で規定される「差別」にあたります

現状のこのような保育園の建て替えは、障害を理由に拒むことになりかねない設計が進んでいることになり、大きな問題です。

いっぽうで、保育施設以外の公共施設についても問題が散見されます。現段階で改修が実施されている区立体育館は、車いす利用の人達からは、雨の日にびしょ濡れになってしまうので、駐車場や入口までの通路に屋根をつけてほしいとの要望があるにも関わらず、「つけない」方針です。東京オリンピック・パラリンピックに力を入れている一方、障害のある人たち誰もが利用しやすい公共施設にしようという視点が欠けたままです。

みなさんのお住いの自治体ではどうでしょうか。公共施設の改修や建替えに障害者差別解消法が活きていますか?

文京区では、公立保育園の建替え以外にも、区立認定こども園・小学校を一体的にした建てなおしの施設設計も進められていますが、障害者差別解消法を理解し、設計に落とし込んでいるか、注視していかなければならないと思っています。

障害者差別解消法は、障害のある人にとっての、社会の中にあるバリアを取り除き、他者との平等を確保することを、求めているものです。大切なことです。

しかし、行政がバリアを取り除いたつもりでも、当事者にとってはバリアがなくなっていないことがあります。4月25日に開催された文京区議会建設委員会で、藤原美佐子議員の質疑で明らかになったこともそのひとつです。

3月にリニューアルオープンした肥後細川庭園の「誰でもトイレ」は、車いすの方が利用するには狭すぎて使いづらく、安心・安全な利用が難しいという指摘でした。なぜ、当事者の視点を欠いた設計がなされてしまったのか、検証が不可欠です。

せっかく新しく作ったトイレであっても、机上の設計の域を出ず、結果としてバリアを残してしまっている。実にもったいない仕事です。

障害者差別解消法は、国や自治体に義務を課すだけでなく会社やお店にも、障害のある人に対して合理的な配慮に努めることを求めています。その中には、ボランティア活動をする団体も含まれています。

行政としては、団体への補助金支給の要件のひとつとして、障害者差別解消法に基づいて障害のある人も参加できるように工夫していることを付け加えて欲しいと思います。同時に、団体が合理的配慮を行いやすくするための補助金を加算することも重要です。これらは、広く区民に対して、障害者差別解消法の理解促進にもつながる手立てになると考えます。

障害の有無に関わらず、だれもが「その人らしさを認めあいながら共に生きる社会」の実現に向けて制定された障害者差別解消法。ここからどう育てていくか。今、見えている課題をどう解決していくか。

これは、障害当事者や関係者だけの問題ではなく、社会を構成しているすべての人に問いかけられている課題だと思えてなりません。人は誰でも何かしらの「生きづらさ」を抱えています。その「生きづらさ」は、その人本人の「悩み」や「困りごと」ではあっても、立ちはだかるバリアは社会の側に存在していると言えます。

そうした社会のバリアを低くし、取り除いていくことは、実は、すべての人にとっても「誰も排除されることのない」「生きやすい」社会の実現につながると信じています。

ぜひ、みなさんも共に考え、まずはバリアを無くすことを義務付けられている自治体の施策をチェックしていただければ、と願っています。

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