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小学校入学までに「◯◯が出来るようにしておきましょう」という考え方の落とし穴

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「わが子が4月から小学生。どんな準備をすればいいんだろう・・・」

初めてわが子を小学校へ入学させるまでに、保護者はどんな準備をしたらいいのか不安を覚えることがあるのではないでしょうか。

学校に必要な学用品については、新一年生向けの「入学説明会」で何を用意するべきか等々の説明があってから準備をするのが一番です。

ただし、その「入学説明会」が、子どもが初めて小学生になるのと同時に、自分も初めて小学生の保護者になる親にとって、不安をあおるような時間になってしまうこともまだまだあるようです。

例えば、文京区内のある小学校は、近隣保育園の年長児の保護者会に出向いて、入学説明会で配布する以下の事項が書かれたプリントに基づいて「入学前の心構え」について話をしたそうです。

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「入学前に身に付けたい習慣」
1.朝は、時刻を決めて起きることができる。
2.夜は、時刻を決めて寝ることができる。
3.自分一人で衣服の着脱ができる。
4.脱いだものは、きちんとたたむことができる。
5.進んでうがいや、手洗いができる。
6.一人で用便ができる。
7.トイレを使った後、水を流すことができる。
8.食事前の手洗いが、進んでできる。
9.ハンカチとちり紙を自分で用意して、毎日身に付けることができる。
10.食べ物の好き嫌いをしないで、なんでも食べることができる。
11.自分の使った食器の後片付けができる。
12.「おはようございます」「ごめんなさい」「ありがとう」などのあいさつができる。
13.ランドセルに教科書やノートを入れたり、出したりできる。
14.家から学校までの道を一人で歩くことができる。
15.お腹が痛い、気分が悪いなど、体の具合が悪い時に伝えることができる。
16.自分の名前を読むことができる。
17.家の人の名前、電話番号、住所を言うことができる。
18.傘を一人で閉じて、とめることができる。
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みなさん、読まれてみていかがでしょうか。

我が家の成人した子たちをみても、はたして今どこまでできているか?

例えば、「脱いだものをきちんとたたむことができる」といったことが、私自身も含めてきちんとできているか??まったく怪しいものです。

これらはすべて小学校入学前までに本当に身につけていないといけないことなのでしょうか。あるいは、身につけておくことが望ましいことなのでしょうか。

話を聴いた保護者からは、「ここまで求められると不安が増していく」との声が聴こえてきます。

公立小学校の校長をご経験され、中学卒業した子どもが特別支援学校高等部以外の進学で学びを継続できる選択肢が持てるように、児童発達支援事業「未来教室」http://miraikyoshitsu.com/ を開設され、尽力されている秋山明美先生に、このプリントについて伺いました。

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「これができていたら学校は楽でしょうね。しかし、そんな必要はありませんよ。」
「もっと大事なことは、いっぱい遊んでおくこと。そして、お家の方の前で自分を出せて認められる経験だと思います。それができていないと、集団の中での生活がつらくなると思います。」
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また、

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「上記内容について、こどもの特性や癖などについて、学校側と十分に連絡を取り合って、子どもを知ってもらうことが大事だと思います。」
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と話をしてくださいました。

秋山先生は次のようにもお話されています。

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「私も学校という場を離れてみて初めて見えるようになりました。学校はいつまでも、形ばかりに囚われているようで変わっていけないということです。これは、国や都・地域行政の考え方に大きく左右されると思います。教員も自分が経験してきたことが判断基準になっていることが多く、目の前のことを新鮮な目で見ることができないことも原因のひとつかなと思うことがあります。今、私が働いている未来教室、楷樹(かいのき)サークルではそのような縛りがあるわけではありません。だから、目の前のこども達を見て、自由な発想で対応、指導していけると思っています。

「おはようございます、ごめんなさい、ありがとう」の言葉ひとつとっても、子どもによってはアイコンタクトで行っているかもしれませんし、その方法しか知らない子どももいると思います。大人にとっては不適切な挨拶でも、その子なりの精いっぱいの挨拶かもしれません。大人が求める形どおりでないと☓ではなく、その子の気持ち、状態をくみ取ってこそ、大人への信頼が育っていくものと思います。」
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「例えば、障害のある子には味覚過敏など感覚が過敏な子どもがいます。好き嫌いを無くす特訓の多くは有害無益です。」
「子どもが選んだその時おりの選択にはそれなりの理由があることを信頼して、そのことを応援し育てていくことが大切だと思うのです。わがままとの見極めは大事ですが。」
と話をしてくださいました。
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『おそい・はやい・ひくい・たかい』の編集人であり、小学校教員でもある岡崎勝先生は小学校入学前に身につけたい習慣といっても、「これができなきゃダメ」という先生なんていないだろう、とブログに綴られています。
http://okazaki-oha.jugem.jp/?eid=104

岡崎先生のご承諾を頂いたので、一部ご紹介します。

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「給食で出されたものは、なんでも食べられる」なんてものがあったりすると、ずっこける。そんなの無理。いいんですよ、残せばね。だんだん大きくなって、「好きじゃないけど、健康にいいから食べようか」って思うようになれば、食べます。何でも食べるって、ストレス食いじゃないんだから。「片付けるときも食器は投げないでね」とか「走りながら食べないでね」ということからぼくは教えてきた。"
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入学前は、それよりも、元気にたくましく遊べる方がいい。あるいは、好きなことなら集中できる子がいい。最近は「おりこーちゃん」が多すぎるし、そういう子ばかりに慣れてしまっている先生が多すぎる。子どもなんて、もともとやっかいで、めんどうで、動き回っているものだ。それが、デフォルト(初期設定)なんだからね。そこから、カスタマイズし、グレードアップし、バージョンアップしていけばいいんだ。で、それが、教育や子育てというもの
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入学前から「おりこーちゃん」にできることを前提としてしまうような学校の現状があるとしたら、それはこのような本来の「教育」とは異なる方向に向かっているようで不安を覚えます。「◯◯ができること」が身についていようがいまいが、どの子もひとしくイキイキと過ごせる居場所こそが公教育ではないでしょうか?

また、岡崎先生は、「五十音を書けないと落ちこぼれてしまうかも・・・」と心配される保護者に向けても次のように肩の力を抜くことができるような安心を伝えるメッセージを届けられています。

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逆に、書けて読める子は「それでおわり」だと思っているから始末が悪い。実は、書けて読めて、それがどうした!......なのだ。自分ができるから、ちょっと先を行っているように思って、授業は気分がいいかもしれないが、それでは、新鮮さもないので、だんだんつまらなくなっていく

親御さんは、先生は、学ぶことがいかに楽しいかを工夫して教えることが給料分の仕事だと思った方がいい。
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私自身、小学校入学前のお子さんを持つ保護者の方々に、就学時健診のおりなどに話をさせていただく時には、例えば、小学校入学に向けての準備として、次のようなことをお伝えしています。
  • 「遊びが仕事」である入学前、その子がやりたい遊びを遊びきれる体験をいっぱい積んで、明日を楽しみに眠れるように
  • できないこと、わからないことがあっても恥ずかしい事ではなく、「教えて」「助けて」って言えば困らなくなること。すごく嫌なことはやらなくてもいいんだよ、大丈夫だよと伝える。
  • 大人もできないことやわからないことがあって、助けを求めたり、誰かに聞いたりしていることを話すと共に、「助けを求める実践」の姿を見せる。
  • 親として子どもの素敵なところを言えるようにして、子どもの素敵なところを保育園や幼稚園の先生たちと共有して、素敵なことや、できることをより伸ばしてもらう。
  • できないことをできるようにして、「まんべんなく」を目指す子育てをしない。できることに目を向けて、できないことは支援や配慮でフォローしていく。
  • 子どもの「好きなこと」は、親が子どもに願う「好きになってほしいこと」でなくても応援する。
  • 保育園・幼稚園で先生方が子どもについて配慮していることや支援していることは、小学校へ伝え、一貫した支援・配慮を受けられるようにする。

例えば、自分一人での衣服の着脱が苦手で、体育の着替えなどに時間がかかってしまいそうで不安に想うなら、総ゴムのズボンや後ろ前がその子にわかりやすく、しかもボタンなどがないTシャツなどを体育の日に着せれば、かなり楽になります。

脱いだものをきちんとたたむことができなくても、自分の脱いだ服がどこかへいってしまわないように、口が大きく開いたトートバックなどを机の上において放り込むようにすればいいだけです。

実は、うちの子達は朝が弱くてなかなか起きられないので、集団登校に間に合うように、朝着ていく服を着せて寝かせていた時期もありました。

親ができるのは、まず親自身が「自分を好きになり、人生を楽しむこと」ではないでしょうか。

子どもに「自分自身を好きになって自信を持ってこれからの学校生活をすごしてほしい」と願うなら、そんな背中を見せていく。学校への入学前に親が実践していくことがとても大切だと思います。


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