3年後に待機児童解消を掲げる政府の新計画「子育て安心プラン」大規模マンションでの保育園設置は進むのか!?

行政が「縦割りの壁」や「前例主義」を打ち破り、総合的なチームプレーで「付加価値を生む組織」に進化することが、この時代の要請ではないだろうかと感じています。

認可保育所に入れない待機児童の解消を目指す政府の新計画「子育て安心プラン」は、自治体を支援し、「遅くとも平成32年度末までの3年間で全国の待機児童を解消」するとのこと。

*政府「子育て安心プラン」

待機児童の解消は喫緊の課題であるだけに、7月2日の東京都議会選挙の候補者はいずれも待機児童の解消を掲げています。

文京区ではこの5年間で認可保育園の整備を進め、約1400人以上定員を増やしてきていますが、それでもなお、今年度4月1日現在の待機児童数は283人です。高まる保育需要に対して保育の整備が追い付かない状況となっています。

子育て安心プランでは、大規模マンションでの保育園の設置促進や、国有地、都市公園、郵便局、学校等の余裕教室等の活用など、受け皿の拡大を掲げています。

世田谷区では、「一定規模以上の集合住宅の建築について、建設事業者と保育所等設置の協議を義務付ける」ことを定めています。マンション建設が続く文京区でも、保育園を設置することを議会から要望していますが、どのようにするか研究段階に留まっているのが現状です。

背景には、強制力がないため保育所設置に至るのが難しいことがあります。世田谷区でも、協議は行われているものの、平成26年6月から29年1月までに行われた21協議のうち、保育所等の設置予定は2建築主だけという結果です。

*世田谷区「集合住宅の建築における保育所等設置の協議結果について」

それでも、まずは建設事業者と協議するということの意義は大きいと思います。

そもそも大方のマンション事業者は、CSR(企業の社会的責任)を掲げ、「良いまちづくり」に貢献することを謳っています。さらには、人口減少が進むこれからの時代に、マンションを作って売ったら終わり、という「分譲撤退型」では事業が立ち行かなくなると思われます。これからのマンション事業者には、住民と共により良いまちづくりを担っていく使命感を発揮することを、まずは期待したいところです。

しかし、理想を現実にするためには「利益優先」の壁が高く立ちはだかるようです。

例えば、文京区では、文京区役所前の再開発に、約275億円の税金が投入され、完成時には約700世帯が入居する予定です。多額の税金を投入する事業だけに、待機児童解消等の地域課題に貢献すべきことは言うまでもありません。

しかし、再開発で設置予定の保育所は定員60人程度です。定員60人枠では新たに入居する世帯の保育需要にすら応えられず、地域の保育需要の受け皿になどとてもならないのが明らかです。地域貢献どころか、再開発地区内の保育園からあふれた人たちのあおりを受けて、さらに待機児童が増えるのではないか?と、現状の保育園計画を疑問視する声が絶えません。

多額の税金を投入する再開発事業ですら、待機児童解消に貢献すべき使命があることを理解しきれているとは言い難い保育園計画を鑑みると、民間のマンション事業者が保育園を設置するハードルはさらに高いことを感じざるを得ません。

子育て安心プランを計画倒れにしないためには、マンション事業者が保育所設置に積極的に取り組めるように、固定資産税の減額等の優遇措置を検討すべきかとも考えます。

いっぽう、将来的に住民ニーズが変わることへの対応の問題もあります。

近年では、人口の都市部への一極集中傾向が強まる中、文京区でも転入人口の増加が続いています(平成28年中は、転入数が転出数を3,657人超過<東京都の統計~人口の動き"平成28年中">)。転入の中には子育て世帯も多く、保育需要の増加に対して整備が追いつかない現状の背景には、これらの社会的変動の影響が見受けられます。

しかし、より中長期的な視点に立てば、日本は既に総人口が減少していく局面に入っており、高齢者比率が年々増大、2016年度の出生数は初めて100万人を割り込みました。

転入超過が続く東京都区部でも2022年をピークに人口減少に転じるという将来予測や、今も既に不足している特養等の高齢者向け施設のニーズがますます高まること等々、将来的なニーズの変化を想定しておくことが重要だと思います。

例えば、将来的に保育需要が減少して役割を担い終えた施設は、高齢者グループホームへの事業転換を見据えて、ハードや事業の設計を行っておくことも必要ではないでしょうか。

そういった民間企業の事業展開を促進していくためにも、行政のリーダーシップや支援が求められます。子育て世帯にとって、居住するマンションの中に保育所があれば助かるのと同様に、やがて親の介護が必要になった際に、マンションに高齢者グループホームがあったら、おおいに助かるし、一貫したライフプランが立てやすくなることでしょう。

ちなみに、国は「子育て安心プラン」で、公園や学校等の余裕教室等の活用も受け皿としてあげていますが、これを自治体で実現するためには、それぞれに所管が異なる部署が互いに連携することが不可欠です。

ところが現実には、すべての部署が待機児童解消の視点を持ち、保育園担当部署との連携が図られているか?というと、そうなっていないケースも散見され、縦割り組織の弊害が根強くあるように思えます。

住居や施設、多様な人々、インフラ等々・・・「まちづくり」には、ハードもソフトも実に様々な要素が含まれます。また、年月とともに新陳代謝を繰り返して変化していくものでもあります。その「まち」で安心して子育てできるようにするには、長期的視点に立つことと、「まち」を形作る多様な構成要素に相対する人材を結集し、総合的に「プロデュースする力」が求められると思います。

当然、行政はその中核的な役割を担っていく使命があり、経済的な支援も必須です。

そのためにも、行政が「縦割りの壁」や「前例主義」を打ち破り、総合的なチームプレーで「付加価値を生む組織」に進化することが、今この時代の要請ではないだろうか、と強く感じています。

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