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吉川敦也 Headshot

【アメリカ大統領選挙】慶大教授に聞いてみた!

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11月8日の投開票日まで一か月を切ったアメリカ大統領選挙。これまでに二度の大統領候補によるテレビ討論会と副大統領候補によるテレビ討論会が行われました。10月19日にネバダ州にて行われる最後のテレビ討論会を控えます。

今回は選挙戦の情報をまとめたものではなく、「こういう風に残りの選挙戦を見ると面白いよ」と新たな視点を提供できたらなと思って書きました。インタビューさせて頂いたのは、アメリカ政治・政治史を専門にされている慶應義塾大学法学部の岡山裕教授です。半学期、約15回ある90分授業の要点がぎゅっと濃縮されたものです。最後まで読んでいただけると幸いです。(インタビュー日10月7日)

数字に騙されるな!「疑いの目」を持つことで見えてくる本質


--日本でのアメリカ大統領選挙に関するニュースでは「トランプ現象」という言葉をよく耳にしました。予想だにしなかったドナルド・トランプの快進撃の一方で、彼の過去の発言を振り返ってみると、大統領としての資質が問われても仕方ない部分もあると思います。では、なぜトランプは国民から支持されるのでしょうか。

私は日本で言われるような「トランプ現象」のように、アメリカ社会全体の現象として捉えているということに若干違和感があります。現時点の数字を見ると、共和党候補のトランプと民主党のヒラリー・クリントンの支持率は競っていますが、そこに疑問の目を向けてほしいです。

ここが世論調査の非常に難しいところですが、調査で「トランプを支持していますか」「クリントンを支持していますか」と聞かれてトランプと答える人が実際のところどれほど熱狂的に支持している(投票所まで足を運んでトランプに票を入れる)のかは、数字から判断できません。あの手の世論調査の対象は、投票に行く可能性が高いと答えた人なので、ある程度政治関心の高い人といえます。でも調査で聞かれたからトランプと答えることと実際にトランプに投票することの間には差があります。これは今回に限りません。今の数字を額面通りにとらえてはいけないと思います。

―なるほど。「トランプを支持します」と口で言っても、投票所まで足を運ぶのはより大変である以上、現時点での世論調査を信じ切ってはいけないということですね。

トランプの得票は高く見積もってもせいぜい5%!?


―そうなると、そもそもの問題として「どうしてトランプが大統領候補になれたのか」気になります。それについてどうお考えですか。

トランプはもちろんいろんな州の予備選挙に勝って選ばれたわけですよね。でも実際は、共和党は多くの候補者が出てきて支持が割れており、結局トランプが全米のどれほどの有権者の票を得て選ばれたかと言いますと、高く見積もって5%くらい。トランプの予備選挙における戦い方は、非常に効率的なものでした。ある特定の層に集中してアピールをしてきました。

ふつうはクリントンのように、本選挙を見越して幅広い層にアピールをするのですが、トランプはそうはしていません。よくテレビなどで見るトランプ支持者の盛り上がりは、一部のコアな層が熱狂的するような戦い方だったことから説明できます。一部ではトランプが本選挙では手のひらを返して、軌道修正をすると予測していましたが、ここまで見る限りしていませんよね。

―続いてヒラリーについて質問します。有権者には私用メール問題もあったことから「嘘つきヒラリー」と、一部に悪名高いイメージの彼女ですが、なぜそこまで非難の対象になるのでしょうか。

いくつかあると思いますが、ここでは2点あげます。
1.彼女が非常に長いこと政治の中枢にいるということ
2.非常に不器用な人であるということ

1について
彼女はファーストレディになる前から旦那さんはアーカンソー州知事で、常に政治の中心で非常に重要な役割を果たしてきました。アメリカ国民は、首都ワシントンの人は計算高く、自分の名誉と欲求しか考えない連中だというイメージを持っています。その点で彼女はそこにどっぷり漬かってきたわけですから、そういう印象を持たれているというのは一般論としてありますね。

2について
もう一つは、彼女は知的能力が非常に高い人ですが、これは旦那さんと対照的なのは非常に不器用だということです。たまに失言をしますよね、あれだけ頭のいい人なのにうっかり発言してしまうのは、うまい返しができない、リアクションが上手ではないということです。

さらに、彼女自身が周りから評判が良くないことを自覚しているので、用心深くふるまうことで、かえって固く映ってしまうという、悪循環があります。

―彼女が「女性」であることは関係していますか。

あると思いますね。ここはヒラリーに同情すべき点があると思っていて、彼女くらいの世代の女性で野心のある人は、どういう風にふるまうと評価されるのかが揺れている時代です。

例えば、堂々としていると「女のくせに!」と捉えられる一方で、弱々しく見えると弱いから男性に劣っているのだと思われるので、彼女は男性と張り合って生きていくために強く自分を演出してきたところもあると思います。ところがそうすると、「人間味がない」「女性らしくない」と思われてしまう。男勝りな自分を演出しているクリントンは、男性からの受けが非常に悪い。

さらにややこしいのが、男性からだけ受けが悪いかというとそうではない。彼女より下の世代の女性は、男女の平等意識がより強まっている時代に育っているので、そういう女性からすると「なんでクリントンはあんなに威張って生きているのか」「もっと自然体でいいのに」と思っているので、ロールモデルになりにくい。この前のテレビ討論会の最後に、ヒラリーがミス・ユニバースのマチャドさんの話を持ってきたのは、女性からの共感を得るためでしょうね。最近は女性だけの集会を開いたりもしています。

WHOではなくWHATに目を向けよう


―二度のテレビ討論会を終えて、選挙結果がどちらに転ぶのか見逃せません。残りの終盤戦、見どころはどこですか。

アメリカ政治における大統領選挙の意義という観点から考えると、本選挙までに政策論争がそもそもなされるのか、あるいはどれほどなされるのかは注目ですね。アメリカ大統領選挙は誰が次の大統領になるかが決まるだけの選挙ではありません。あれは予備選から始まって、アメリカ社会のどの争点を取り上げて、それにどう取り組むのかを長い期間をかけて決めていくものでもります。今後のアメリカはどうなるのだろうという視点で討論会を見てほしいですね。まあきちんと議論してくれるのかが心配ですが。

あと、若者に焦点を当てて話すと、バーニー・サンダース上院議員を若者が熱狂的に支持していることが話題になったわけですよね。サンダースを支持していた若者がクリントンに乗り換えているのかが注目に値すると思います。これは8年前にオバマが出てきたときに、投票率が低かった黒人の票を集めたということがありましたよね。今回はその若者版が起こるのかが楽しみですね。

―お忙しい中、ありがとうございました。