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ケーキ屋なのに「うなぎ始めました。」という看板。珍光景と思いきや、かつてはごく普通だった。

度肝を抜かれました。

2017年09月12日 11時26分 JST | 更新 2017年09月12日 11時51分 JST

シャッターが閉まる商店街をただただ歩いていた日のこと。

ふと一軒のケーキ屋さんが私の目に止まりました。一箇所だけ営業している。

中に入るとショートケーキにシュークリーム、チョコレートケーキと色とりどりのケーキがショーケースに並べられていました。

一見、なんの変わりもない昔ながらの町のケーキ屋さん。

そこで見かけた一つの看板に度肝を抜かれました。

「うなぎ始めました」

ケーキ店なのにうなぎ?

目に入ってきたのはホールケーキの横に並ぶミルフィーユでできた「うな重」でした。

見た目は「うな重」ですが、中身はミルフィーユです。

店主の飛田さんは、毎年夏の時期になると販売するそう。

「夏はうなぎの時期だ」という店主は、ケーキ屋に「うなぎ」に似せたケーキを置くことは「別に変わったことじゃない」といっていました。

Jun Kawamura

■ケーキ屋が店に「うなぎ」を置いている。どういう意味?

話を聞くと「2,3年前から販売し始めた」と説明してくれました。

売り始めたきっかけは、話題性を持たせるためではなく、「少しでもケーキ屋さんらしくしようと思ってやっている」そうです。

私は不思議に思いました。

真剣な眼差しで、ケーキ屋に「うなぎ」を置くことは変わったことじゃないと言ったり、ケーキ屋さんらしくするために創作ケーキを売り始めたと言っていたからです。

その発言は、最近のケーキ屋さんらしくない発想だったので、つい気になって事情を聞きました。

■どんなケーキ屋さんなのか

お店が開業したのは35年ほど前。

店主は今年で70歳近くになるベテランパティシエで、ケーキを作り続けて約50年。高校卒業後からケーキ屋一筋でお店を営んできました。

「ケーキは生きていくために作っている」と話します。

自分の生活を成り立たせるための手段だからだそう。

開店当時から営業の方針は一切変えていない、だから昔ながらのケーキ屋さんです。

Jun Kawamura

■開業当初と現在

開業してからは、地域の人にも愛されて順調に経営されています。

35年前においては、ケーキはとても毎日食べれるものではありませんでしたが、買いに来てくださる方はみな喜んでくださっていたそうです。

しかしそんなケーキ屋でも今では売り上げが年々下がり続けています。

個人商店に代わる便利なお店がたくさん出てきたからです。

具体的にいえば、コンビニの登場によって、ケーキは24時間好きな時間に、欲しい分だけ購入することができるようになりました。

また最近のケーキの相場は大体500円と、焼き菓子などの他のスイーツにくらべて高いイメージはありますが、カフェに行けばセット価格などでお得に食べることができます。

そして消費者が求めるケーキは、その店舗独自の商品よりも、どこに行っても安定して購入できるケーキばかりが売れるようになりました。

そのため、お客さんが入らず、やむ負えなく閉店する個人経営のケーキ店が増えているそうです。

■ケーキ屋さんが話す世の中の個人商店事情

実際、ケーキ屋に限らず、どんな店においても、利便性の高いものや、流行っている品物を追求した方が売れるし、ウケる。

その上ブランド価値さえあれば、その高さが品物の安定感にも繋がる。

けれども、個人商店には、昔から続いている信頼感や、値段、品物に対するアイディア、昔ながらのお客さんに支持されてきたやり方など、数多くの「こだわり」があります。

だから私はこういったお店がすごく好きです。

なのにこのようなお店ばかりがなくなってゆく。そんなこと、いいわけがない。

現代の私達のライフスタイルは、時代の変化によって、個人の価値観と考え方が気づかぬうちに変わり、個性よりも安定感を求めるようにと変化してきています。

その結果、個人商店の強みは、時代の流れに取り残され、あまり高い評価がされず、挙げ句の果てに窮地に追い込まれてしまっているのです。

■だから「うなぎ」を作り続けている

Jun Kawamura

「昔は工夫したデザインやデコレーションにこだわったアイディア勝負のケーキは当たり前に売られており、珍しくなかった。

だからうちの『ウナギ』だって決して珍しいわけでもないし、真新しいわけじゃないよ。」

店主は、昔からのケーキを残そうと今も続けています。

私も小さい頃に食べたクマのデコレーションが乗ったケーキ屋さんのケーキを見た時、すごく幸せな気分になったのを思い出しました。

昔ながらのケーキは、もっとゴテゴテしていて、カラフルで、今でも私にとってこのケーキは幸せな経験として記憶に残っています。

...昔ながらはもう古い?

私はそうは思いません。「昔ながら」は独特の世界観と、お金では買えないかっこよさがあります。また、こだわって作られた商品の背景には、必ず共感できる、ついつい人に伝えたくなってしまうような素敵なストーリーがあります。

昔からあるものが、新しいものとして再発見される今、時代の変化によって失われつつある個人商店の問題を私達はどう捉えるべきでしょうか。

結果、ケーキ屋で「うなぎ」が売られていることは珍しくありませんでした。

その上、店主の一見変わったように聞こえた発言も、今では昔ながらの良さとして理解することで、疑問を持つことなくすんなりと納得できるのかもしれません。