企画書はシンプル、ツメは厳しく、定例会議はなし!──経営破たんを乗り越えたハウステンボスの本気の変化

「ナンバーワンであり、オンリーワンであること」そんな目標を掲げるハウステンボス。「光の王国」や「花の王国」、「ゲームの王国」といった、見る者を圧倒するイベントで話題をさらう日本有数のテーマパークです。

「ナンバーワンであり、オンリーワンであること」そんな目標を掲げるハウステンボス(長崎県佐世保市)。「光の王国」や「花の王国」、「ゲームの王国」といった、見る者を圧倒するイベントで話題をさらう日本有数のテーマパークです。

九州西端という限られたマーケットで、かつてはリピーター獲得に苦しみ経営破たんに陥った時期もありました。しかし2010年の経営体制刷新以降はV字回復を果たし、2014年9月期には前年比13パーセント増となる279万人の入場者数を記録。営業利益は同51.9パーセント増という驚異的な伸びを見せています。

生まれ変わったハウステンボスに、どんな変化が起きていたのか。そしてV字回復を支える組織にはどのようなチームワークの秘訣があるのか。1500人のスタッフの最前線でイベント企画を担当する3チームの課長、辻本剛さん、能見徳之さん、志柿憲行さんと、執行役員・経営企画室室長の高田孝太郎さんにお話を伺いました。

営業利益が前年を大きく上回っても、社長の採点は「57点」

――はじめに、イベント企画を担う3課のそれぞれの役割を教えてください。

辻本:1課では、「光の王国」などのイルミネーションや、シーズンごとに行っている花火イベントなどを手掛けています。

能見:2課は「花の王国」やガーデニングイベントを担当しています。花に特化しているチームですね。

志柿:3課は新規イベントの開発をメインミッションとしていて、「ゲームの王国」などの開発を担当しています。

――皆さんはともにハウステンボス開業当時からのメンバーだと伺いました。

志柿:そうです。ほぼ同期のようなものですね。歩んできたキャリアも似ていて、3人の間で話せる共通言語が多いことはプラスになっています。

――各チームが意外と少人数ですよね。1課は8人、2課は6人とのことですが......

志柿:3課は衝撃ですよ。私を含めて、なんと2人です(笑)。それでも「多い」と言われているんですが。

――現在の経営方針についても教えてください。

高田:もともとは「オランダ」「ヨーロッパ」をテーマにしてきましたが、2010年以降はそれにとらわれず、「お客さまのニーズ」を「オンリー・ナンバーワン」重視し運営しています。いま一番お客様に求められていることを考え、ハウステンボスでしか体験できない企画をし、実行してきました。

――2014年9月期の発表では、前年を大きく上回る入場者数13パーセント増、営業利益51.9パーセント増という結果でした。

高田:新しい取り組みをどんどん始めているので、当然結果を出していかなければならない。お客さまの数はおかげさまで増えていますが、かける経費はお客さまの伸び程は増えていません。それでも(代表取締役社長の)澤田の採点は「57点」。まだまだ厳しい評価なんですよ。

「対前年20パーセント増」成長し続けるテーマパークの挑戦

入社19年目。ショップ業務や販売企画、パーク業務などを経て、2010年の新体制後よりイベント企画に携わる。

――ハウステンボスは新しいイベントが次々と登場することで有名ですが、企画出しはどのように行っているのですか?

辻本:とにかく課内で数多く提案してもらい、それを社長と直接協議しながら進めていきます。各課のメンバー全員が関わっていますよ。

――数値目標はどのように置いているのでしょうか?

辻本:まずは入場者数ですね。「この企画で何千人集めたい、何万人集めたい」といった形です。

志柿:入場者数について前提となる目標が「前年比20パーセントアップ」なんです。これが常に頭の中にあります。

――入場者数で前年20パーセント増というのは、かなり高い目標のように思うのですが。

辻本:高いですね(笑)。毎年続きますからね。

高田:20パーセントを目指しているから、昨年は13パーセントに着地できたのだと思います。毎年ハードルが上がっていますから、現場としては大変です。

――直近では「水と冒険の王国」や「世界フラワーガーデンショー」、「ゲームの王国」の最新版など、楽しみな企画が多いですね。

辻本:長さ日本一のウォーターロングスライダーの準備が佳境に入っています。

能見:2課では「大ゆり百合展」や秋の「ダリア」などの企画が次々と動いていますね。

志柿:「ゲームの王国」のバージョンアップは、大詰めの現場施工を行っているところです。

――企画を立ち上げた後は、他部署を絡めて全体を統括していくのですか?

志柿:そうですね。イルミネーションなどを担当する1課は特に現場にも深く絡んでいきますね。

辻本:特に企画をスタートした段階では「どうでしたか?」とお客さまに感想を聞きに行ったりしています。

入社23年目。ハウステンボス開業と同時に入社。販売部や外商部門、人事を経て、2010年の新体制後よりイベント企画に携わる。

面白ければゴーサイン 100ページの企画書よりもスピード感を重視

――ハウステンボスは一時期売り上げや入場者数も減っていました。苦しい時期もあったと思うのですが、経営再建中の頃と比べて職場の雰囲気はどのように変わってきましたか?

志柿:「こんな企画をやりたい」という意欲の強いメンバーがもともと多かったのですが、旧体制ではそれがなかなか実現できなかった。提案する際にはとても分厚い資料を作る必要があり、なかなか承認がおりず、一つの企画を通すのに1カ月、2カ月とかかっていました。

それが今は澤田の二つ返事で決まります。イメージビジュアルを1枚提示しながら説明して、社長が「面白い! それやろう」と。

能見:現場は、イベント企画に対して前より興味を持ってくれるようになりました。かつては各部署がセクショナリズムに陥っていた部分があったと思うんです。「企画は企画」、「現場は現場」みたいな。今は業務スピードが速く、初期段階から企画と現場が絡みますので、お互いに「やらされ感」のようなものは無くなったと感じますね。

――以前は企画を通すためにどんな準備をしていたんですか?

志柿:100ページの企画書を作ったりしていましたよ。

辻本:やっていましたね(笑)。

志柿:それを毎週の会議に向けて準備していました。イベントのコンセプトやターゲット、収支予測をはじめ、場内の消費動向や時間帯別のレストラン売上変動予測など、さまざまなデータが要求されていました。

高田:以前は会議がやたらと多かったんです。場は多く設けられているんですが、その場で結論が出るかというとなかなかそうはいかない。案件が先送りされることも多かったですね。たとえば今の体制になって、ハウステンボスはペット連れで入園できるようになりました。昔からお客さまの要望が多かったのですが、以前は犬同士のケンカなどの懸念があり決められなかった。

澤田へこの件を相談したところ、即ゴーサインが出ました。「何か問題が出たら、改善するか中止すればいい。お客さまが望むことならまずはやってみよう」と。以前は石橋を叩き過ぎて、無駄な時間だけが過ぎていました。今はお客さまのためにまず動くようになりましたね。

入社20年目。販売部や外商部門、店舗リニューアルや場内運営の取りまとめなどさまざまな部署を経て、イベント企画に携わる。

本当の勝負は企画が通ってから......まさかの前日ドンデン返しも

――実際に澤田社長へはどのように企画プレゼンをされているのですか?

志柿:イベントに関する協議を週1回開き、進捗を報告したり、新しい企画アイデアをぶつけたりしています。

高田:以前は協議に無関係な部署の人間も多く入っていたのですが、今は「イベントの企画についてはその担当者だけ」とシンプルな場になっていますね。

能見:非常にコンパクトな会議です。我々と澤田が1対1という場合もあります。

志柿:部屋の外で待ち構えて、能見が終わったら次は自分、みたいなね(笑)。

――以前は分厚い資料を準備していたということですが、今はどのようにされているのでしょうか?

辻本:企画概要1枚と、ビジュアルが分かる資料1枚だけです。先日は「ウォータースライダー」の企画を通したんですが、動画投稿サイトにアップされていた海外映像のキャプチャを印刷して持っていきました。

――企画細部についてはどのように伝えているのですか?

能見:準備段階での報告をこまかく行いながら、最終段階である完成1週間前には社長チェックを設けています。

志柿:ここがまさに、昔と今の違いかもしれません。昔は企画を通すまでが大変でした。今は企画が通るのは早いのですが、最終段階でのクオリティと仕上げのチェックがとても厳しいんです。最後の1週間は本当に大変。根本的に覆ることもありますからね。

――実際にそうなったケースもあるのでしょうか?

能見:はい。いちばん大変だったのはガーデニングイベントですね(笑)。メインとサブの会場があり、店舗の出店エリアも2つに分けていて。それが、開催前日になって澤田に「サブ会場の店は要らない」と言われ......。朝までにすべての店舗と商品、什器を移動しました。

辻本:前日のドンデン返しはさすがにこのときだけじゃないかな(笑)。

――社長自身がそこまで関わるというのは......

志柿:意外でしたね。それまではトップが現場に足を運んで、こまかいところまで逐一チェックするということはありませんでした。

辻本:夕方や夜間も毎日チェックして、「照明が1カ所切れていた」といったところまで見られていますからね。

――そうした厳しいチェックへの反発はなかったのでしょうか?

高田:ありませんでしたね。現場を見もせずに言われれば反発も出るでしょうが、細部まで把握した上での指摘なので、「ぐうの音も出ない」という......。澤田は月の半分くらいをこちらで過ごすのですが、その間は敷地内のホテルに宿泊し、徹底的に現場に張り付いています。

本当に面白い企画は、会議室からは生まれない

――チームでのアイデア出しの場も、定例で設けているのですか?

辻本:定例の場はないですね(笑)。

能見:自分のデスクにいるときにほかのメンバーが声をかけてきたり、逆に私からほかのメンバーに「これやりたいね」と話し掛けたり。

――普段の会話がそのまま企画会議になっているんですね。

辻本:そうですね。その方が面白いアイデアが出てくるんですよね。

能見:課のメンバーとは、ほとんど会議室に入ったことがないかもしれない(笑)。見たことないでしょ?

志柿:休憩スペースがいちばん話しやすかったりしてね。昔はよく会議をやっていました。企画のブレストも含め、月の半分くらいは会議が入っていた。

今は、日常の立ち話の方が若いメンバーからアイデアが出てきやすいと思うようになりました。まだまだ企画としては小さいから、「どうせやるならこんな風にしなよ」とその場でアドバイスをします。そうしてアイデアの種を育てていく会話が重要だと思いますね。

――逆に、今のこの状況の中での苦労はなんでしょうか?

辻本:提案して通した企画を、どうやって仕上げていくか。そのプロセスが大変ですね。

ゴールイメージはもちろん描いているのですが、企画細部は往々にして変更になります。どんな状況でも理想形に近付けていけるよう、戦っています。

能見:私は植物という「生き物」を相手にしているので、いつもヒヤヒヤしています。告知や宣伝の関係からイベント期間の決定が先行するのですが、そこに照準を合わせて花がもっともきれいに咲くようにしなければいけないんです。

志柿:ゲームの王国は、企画を形にして現場につないでいくという作業が大変ですね。現場との連携は、辻本や能見の力も借りながら進めています。

「楽しみながら決めたこと」がハウステンボスのファンを増やす

――マネジメントの観点で気を付けていることはありますか?

志柿:目標管理の観点では、先ほどお話したように「入場者数」と「アンケートによる満足度調査」で測っています。デイリーで入場者数の結果が出ますから、日々見直しをしていきます。

高田:満足度については、アンケート結果による5段階評価です。平均を集計し、4以上であればお客さまから概ね高評価をいただけたと見ています。これが3.9から3.5の場合は3.5を下回るような場合はすぐに手直しをしますが、3.5を下回る場合はによってはイベント打ち切りもあります

――そういった意味では厳しい仕事でもありますね。

志柿:そうですね。ただ、企画段階で「これヤバいな」というのは大体分かります(笑)。企画を立ち上げて1~2週間で問題があれば軌道修正をしますから、大きくコケるイベントというのはそんなにないんです。

――チームで仕事をしていくにあたり大事にしていることはありますか?

志柿:「楽しさがいちばん」ということだと思います。朝まで仕事をすることもありますが、その苦労に前向きに取り組めるのは、「自分たちが楽しむ」ことを大切にしているからですね。

「楽しいプロセスを経て決めたこと」というのは大抵成功するんですよ。暗い雰囲気の会議で決めたことって、成果を出せなかったりする。

辻本:「明るく楽しく元気に」というのはハウステンボスらしいですね。

能見:ちなみに、どんなに忙しいときでも昼は一緒に食べるようにしているんですよ。12時になったらメンバー皆で食べる。馬鹿話なんかもしながら、楽しい雰囲気を作っていますね。

志柿:昼食だと皆集まって来るよね。「12時から会議だ」と言ってもそろわないのに(笑)。

飲み会が少ない職場なので、ランチが貴重なコミュニケーションの場になっています。

高田:そうして日々テンションを高めながら、学園祭の準備をするように一つのことに全員で全力を出す。その積み重ねを忘れずに、「オンリーワン・ナンバーワンありそうでない」のテーマパーク作りを楽しみながら、ハウステンボスのファンを増やしていきたいですね。

(取材・執筆:多田慎介/撮影・取材協力:下平琴恵 プレスラボ

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ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」は、職場での「成果を出すチームワーク」向上を目的に2008年から活動を開始し、 毎年「いいチーム(11/26)の日」に、その年に顕著な業績を残した優れたチームを表彰するアワード「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」を開催しています。 公式サイトでは「チーム」や「チームワーク」「リーダーシップ」に関する情報を発信しています。

本記事は、2015年7月6日の掲載記事「企画書はシンプル、ツメは厳しく、定例会議はなし!──経営破たんを乗り越えたハウステンボスの本気の変化」より転載しました。

(ベストチーム・オブ・ザ・イヤー )

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