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お金で動かない人を動かすには?──ふんばろう東日本支援基金 西條剛央氏 × 鎌倉投信 新井和宏氏 対談

2015年08月23日 01時09分 JST | 更新 2016年08月19日 18時12分 JST

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2015年6月、「いいチームをつくりましょう」をテーマに講演会が行われた。

登壇したのは、昨年の「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」を受賞した日本最大級となる被災地支援のボランティア組織「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を設立、運営した早稲田大学客員准教授の西條剛央氏。そして、個人投資家の資産形成と社会の持続的発展の両立を目指す鎌倉投信

のファンドマネジャーである新井和宏氏、コーディネーターは経営コンサルタントで「人と経営研究所所長」の大久保寛司氏が担当した。終了直前には「ほぼ日」の糸井重里氏が登壇し、会場を盛り上げた。

いいチームをつくるうえで、彼らの経験や考えを、私たちはどのように役立てばいいだろうか。

おカネだけでは幸せになれない

新井氏が仲間と鎌倉投信を立ち上げたのは、リーマンショック後の2008年。当局から運用の免許を取るまでの間、半年間以上、本社屋となる鎌倉の古民家の再生をしながら、15年間ほど金融機関にいて何ができたのか、そして、自分はこれから何ができるのかを考えたという。

「私が悩んでいるときに、法政大学の坂本光司先生が書いた『日本でいちばん大切にしたい会社』という本に出会いました。その本を読んで、考えが180度変わりました。それまで私がやっていたことは金融工学。実は、その反対側に重要なことがあると感じたのです。社会自体は数式ではすべてを解明できません。目的と手段を取り違えた瞬間に大きな誤解をしていたのです」

そこで、新井氏は、ほかの運用機関にできないことを考えた――おカネだけでは幸せになれない。皆さんの心が豊かになって初めて幸せになれる、私は幸せを個人投資家に届けたい――新井氏はリターンの定義を変えることに気付いたのである。

鎌倉投信のリターンは、「資産形成(お金)」のほか「社会形成」「お客様の心の形成」、この3つでお客様へのリターンが決まる。事業性と社会性、どちらが欠けても今の企業は存続できない。では、新井氏が会社に投資するとき、何を見ているのだろうか。

「それは理念です。時代は事業性から社会性にシフトしています。会社は時代に合わせて変わり続けなければなりません。所詮、会社も人がやっています。完璧な会社などありません。だから、合言葉は、いい会社をふやしましょう、ということです。いい会社に投資しようではありません。いい会社になろうとしている経営者を応援するつもりです」

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登壇した鎌倉投信ファンドマネジャーの新井和宏氏は、その仕事ぶりがNHKの人気番組『プロフェッショナル』で放映された後だったため、注目度抜群。ちなみに視聴率は7.4%(再放送を含む)だった。(録画等を含めれば)約1千万人近い人が観ていた計算になり、今も鎌倉投信には多くの問い合わせが寄せられているという

大事なことは気持ちを伝えること

西條剛央氏は、「ふんばろう東日本支援プロジェクト」の活動を振り返りながら、次のように語った。

「2011年3月11日、そこで人生が変わりました。私はもともと学者で構造構成主義をやっていました。それまでは学問をぼちぼちやっていればいいと思っていました。ところが、震災後に自分の無力さを感じました。学者なので、情報を整理したり、記事を書くことをしたりはしていましたが、無力感が拭えない。何もできないことが悔しかったのです。そこで、自分が今まで求めたことがない大きな力を求めたのです。ただ、お金もないし、たいしたこともできない。それでもできることを目指して、現地にいきました

西條氏の専門である構造構成主義とは、本質論、つまり、物事の一番大事なポイントを捉える学問のことだ。ノウハウでは汎用性がない。震災で役立ったのが、構造構成主義から導いた「方法の原理」だった。それはどういう方法がよいかは状況と目的を抜きに考えられない、というものだ。逆にいえば、方法の有効性は常に目的と状況に応じて変わる、ということになる。西條氏の目的は被災者のサポートをすること。そこで、現地の状況を見据えながら、西條氏はボランティアのメンバーを集め、いかに運用するかを考えた。

「メンバーを集めるために必要なのは、情報を伝えることではありません。大事なことは、情報ではなく、気持ちを伝えることです。チーム作りも同じです。そして、オーソドックスに言われている方法が機能するとはかぎらない。まず状況と目的を見据えていかに機能する仕組みを作るのか。そのために必要なことを考えました」

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企業のメンターとして著名な大久保寛司氏が、鼎談を始めるにあたり次のように語った。

「思いやり、やさしさ、他人によくしたい。でも、思いだけでは何事も実現することはできません。大事なことは行動と知恵です。だからこそ、目の前のものから何かを感じ取っていただきたい。そのために必要なのは"自分の思い込み"を可能なかぎりなくしていくことです。自分の観点から"評価"するのではなく、まずはそのまま聞いて、受け入れる、感じることが大事なのです」

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心理学者にして最大級のボランティアプロジェクトのファウンダー、幸せを基準に投資するファンドマネジャー、そして人を見るプロフェッショナルである経営コンサルタントの3人の鼎談を早速、見ることにしよう。

「状況」と「目的」は常に変わる。大事なのは方法ではなく"前に進むこと"

大久保:まず西條さんの言う構造構成主義、その「本質」とは一体何でしょうか。

西條:簡単に言えば、本質とは"物事の最も重要なポイント"のことです。「方法の原理」でいえば、そのポイントとは、「状況」と「目的」という二つによって成り立っています。

とくにチームでは「状況」と「目的」が変わったから、「こうしよう」というやり取りができることが一番大事なのです。そうでなければ、一人ひとりがこうすればよいのにというものがあっても、前例に縛られてしまい、組織としては実現できない。良いチームもつくれなくなってしまうのです。

大久保:私なりにいうと、例えば、大阪に行きたいことが「目的」だとすれば、どんな方法で行くべきか。新幹線か飛行機か。方法はたくさんあるけれど、そのときの「状況」としてお金がなければ、乗り物に乗れません。また「状況」によって「よい方法」は異なってくるということです。しかし、ときに人は新幹線か飛行機かで揉めてしまうということが起こる。しかしここで一番大事なことは大阪まで行くことです。前に進むことなのです。世の中には方法論の段階で揉めて、ずっと止まっている人が多いということが問題なのです。

ただ、組織として目的を実現する。その根源にあるのは、おそらくリーダーの人間性だと私は思います。その人間性はどう育まれるのか。新井さんはどのような幼少時代をお送りになられたのでしょうか?

どんな人間も肯定されたい。だから「肯定」で人は動く

新井:私が今やっていることは、実は親父とそっくりなんです。実家は畳屋でした。あまり裕福ではなかったにもかかわらず、親父はお金にならない仕事をやめませんでした。例えば、養護学校の仕事などがそうです。母が身体障碍者で小児麻痺を患っていましたから、そのせいかと思っていたらどうも違う。単純にお金のことを考えてないんです。でも、だからこそ、人に好かれたと思います。

そんな親父がトラックにひき逃げされ、働けなくなりました。私が小学校5年生のときです。一家の大黒柱が働けなくなったことで、私は親父に体を貸すように仕事を手伝い始め、高校では中学の家庭教師、大学では夜学に通いながら監査法人で中小企業のコンサルティングをやっていました。振り返れば、出会った人たちが私のことを「なんとかしてあげたい」と思ってくれた。その応援があったからこそ、今があると思っています。

大久保:新井さんの周りの人たちが「こうしてあげたい」「世話してあげたい」と思ったところが大事ですね。そこが本質なんです。なぜ人は新井さんの面倒を見たいと思ったのか。西條さんは、どう思いますか?

西條:新井さんは多くの方に愛される方だったということだと思います。愛の本質は何か?それは「肯定と応援」です。すべての人間に共通していることは、どんな人間も肯定されたいということです。

もちろん「こんな自分はイヤだ」と自己否定したくなるときもあるかもしれませんが、そのときはつらく、モヤモヤしている。本当は肯定したいし、されたいはずなんです。だから「肯定と応援」の力が強い人に人は集まってくる。否定ばかりしている人からは去っていく。新井さんが多くの人に肯定、応援されたのは、新井さん自身がもともと肯定応援する力、つまり「愛」の実力が高かったからなのではないでしょうか。

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5%は許容する。それがチームの「知恵」

大久保:では、新井さんから見て、東日本大震災時における西條さんのミラクルな仕事ぶりはどうでしょうか? 命令系統もインセンティブもない中で、各ボランティア集団を動かし、被災者のサポートを効率的に行いました。むろん方法論、仕掛けはあったのでしょうが、私は、それ以上に何かがあったと思うのですが、いかがでしょうか?

新井:一つめに大事なことは、誰がしゃべるのか、ということだと思うんです。西條さんがしゃべるから、そこに意味が発生した。同じことを言っても、ほかの人なら違っていたでしょう。そしてもう一つが、究極の組織づくりとして、権限移譲して、しっかりメンバーを信じたことです。

西條さんは、さらに信じることをしながら同時に、共通した言語、つまり、本質を徹底的に共有することに時間をかけています。これはもう経営と同じなんです。むろん任せれば失敗するリスクを抱えます。そのとき西條さんは、その5%は許容しようとします。これが普通はできないんです。とくに金融機関はできない。1%でもリスクがあれば、ヘッジしようとする。5%は許容してもいいので前に進むというのが、本質だと思います。

大久保:私はその5%は「知恵」という感じがしています。パーフェクトは絶対無理です。どんなに成功してもネガティブに捉える人もいます。そこに足を引っ張られて、進まなくなるのは非常に愚かな話です。西條さんはその5%をどう考えますか?

メールでのネガティブな表現は絶対にダメ!

西條:組織にとっては、ミスをしないこと、失敗をしないことが目的ではありません。パフォーマンスを最大化することが組織の目的のはず。そうであれば、なぜミスをゼロにすることばかりに目を向けるのか。または批判をまったく受けないことに足をとられ過ぎるのでしょうか。

実は人間というは、100人中95人に褒められても、残りの5人にけなされると、そちらに引っ張られてしまう。それくらい強いバイアスがかかってしまうのです。なぜなら人間の本質は肯定されたいからです。だからこそ、リーダーは「これでいいんだよ」と言ってあげることが大事なのです。自分だって5%どころではないミスをしまくっています(笑)。でも、誰かに助けてもらっている。もし自分が100点ばかりとっていて完璧主義、減点主義なら、他人にも同じことを求めたかもしれませんが、私はそうではなかったことが幸いしたのかもしれません。

大久保:西條さんのチームで随所に光るのは「知恵」なんです。良いチームをつくるには、良いことだけを言ってもダメなんですね。大事なのは人が付いてきてもらえるような自分の在り様を実現すること。そこが問われるのです。

良いことを言って、うまく進まないと周りが悪いと考える人がいます。なぜできないのか。「その人が言うから」です。組織の中で信頼されるような生き方ができ、ある程度の結果を出さないかぎり、やはり発言は認められないのです。基本は"誰が言うのか"が大事なのです。

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そしてもう一つ、西條さんがチームをつくるときは、メンバーを複数のチームに所属させて、ワンチームにしていないんです。これは、すごい知恵なんです。ボランティアのチームであっても、ワンチームなら垣根ができて、足の引っ張り合いは現実に起こるんです。それはなぜか。相互の理解が進んでいないからです。でも、いくつかのチームに足を突っ込んでおくと、ほかのチームの状況もわかる。状況がわかれば、誤解は生まれません。ここからチームワークのクオリティーは一段と上がるんですね。

さらに言えば、メ