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なぜPepperは愛されるのか? 試行錯誤2年、「お笑い」に可能性を見たプロジェクトチームの軌跡

2015年11月04日 00時21分 JST | 更新 2016年11月03日 18時12分 JST

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一家に一台ロボットがある暮らし。SF作品などで描かれ、数えきれないほど多くの人が一度は思い描いたことのある場面だろう。こうした場面が現実のものになるのは遠い未来のことではない。

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の試算によれば、2015年におけるロボットの市場は1.6兆円。現在市場が形成されている製造業等の分野における成長に加えて、サービス分野を始めとした新たな分野への普及により、2035年に9.7兆円まで市場が拡大する可能性があるという。

大きく成長が予測されるロボット市場における注目の動きといえば、2015年6月に一般販売が開始された感情を持ったパーソナルロボット「Pepper」だ。世界初の「ロボット人材」派遣など、次々と世界に驚きを与えているPepperのプロジェクトチーム。そのチームワークの秘訣を伺った。

ヒト型ロボットへの挑戦

ソフトバンクによるPepperへの最初の一歩は、2010年6月に開催された「ソフトバンク新30年ビジョンコンテスト」で「ロボットをテーマとする企画」が優勝したことまで遡る。その4年後、2014年6月に「Pepper」が発表。一般発売が開始される1年前の出来事だった。

蓮実:『Pepper』は、色々な事業を手がけているソフトバンクの中でも、直球ど真ん中のプロジェクトです。

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ソフトバンク ロボティクス株式会社 取締役 プロダクト本部長 蓮実 一隆氏

と蓮実氏は語る。「Pepper」というロボットを開発することにおける責任者を務めている。

蓮実氏と、「Pepper」の販売やビジネス化を担当している事業推進本部長の吉田健一氏が力を合わせ、「Pepper」を生み出した。プロジェクトの立ち上がりから関わっている吉田氏は当時のことをこう振り返る。

吉田:2010年までのソフトバンクの過去30年を振り返ると、Yahoo! JAPAN、ブロードバンド、モバイルキャリアなど、色々なサービスを手がけてきました。そのときのITにおける先端を走り、いかにコンシューマー向けに広めるかという仕事をしてきたのがソフトバンクです。

では、次の30年、ソフトバンクは何をするのか。そう考えたときに出てきたテーマが「ロボット」でした。

社員からのプレゼンテーションから出てきたアイデアもロボット、そしてもともと、孫正義氏が考えていたのもロボットだったことから、次にくる大きなテーマであるロボットに注力することになったという。

2011年冬からプロジェクトがスタート。色々なところとパートナーシップの話をした結果、アルデバランを買収することに。その後、プロトタイプを作り始めた。

吉田:プロトタイプの開発に着手してから最初の半年はハードウェアのプロトタイプに取り組みました。どんな外見にするかも決まっていなかったので、世界三チームでデザイン案を数百案くらい出し合って、点数を付け合ったりしました。半年ほどかけてハードウェアの仕様を決めていきましたね。

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ソフトバンク ロボティクス株式会社 事業推進本部 本部長 吉田 健一氏

ハードウェアをどのようなものにするかは見えてきた。だが、チームはその後、茨の道を歩むことになる。

ヒト型ロボットの価値とは人を笑顔にすること

30年後にヒト型ロボットが人間にとって重要なものになっていることは間違いない。だが、2015年の段階でヒト型ロボットに価値を持たせ、販売するにはどうしたらいいのか。この難解な問いの答えを見つけるためにプロジェクトに参加したのが、ソフトバンクでもコンテンツを見ていた蓮実氏だ。

蓮実:今はもう形になっているので、「Pepperってこんなロボット」というのがわかるようになっていますが、当時はすべてが決まっていない状態。まず考えたのは、お客さんに喜んでもらうにはどうしたらいいのか。そこから逆算して、値段、動き方、声、キャラクターなどを考えていきました。

今でこそ、愛嬌のある動きや声で人々の関心をひいているPepper。だが、このキャラクターに至るまでに、2年間の試行錯誤があった。

吉田:使い方を考える上で、最初に話をしていたのはソフトバンクショップで受付をさせようというものでした。それで、実際に作ってみたんですよ。そしたらこれが全然面白くないどころか、ちょっといらいらする。

「ホンジツハシンキデスカ」「新規です」「モウイチドオッシャッテクダサイ」「新規です」「モウイチドオッシャッテクダサイ」「うるさい!」みたいな感じになっちゃったんですよね(笑)

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当時、ソフトバンクはスプリントを買収した時期。R&Dに近いプロジェクトに多額の予算も使うことができず、周囲の圧力も強い中、チームは試行錯誤を続けた。アイデアを1000個考えて孫社長に説明するということを繰り返している過程で生まれたのが「お笑い」だった。

蓮実:機械的なコミュニケーションではなくて、洒落た会話にしたほうがいいのでは、という意見が出て、試してみることになりました。

複数の芸人に100万個くらい会話のベースになるような原稿を書いてもらって、そのデータを使ってアプリを作りました。色々な表現をPepperがしているのを見て、少しPepperのキャラが見えてきたんです。

Pepperを新人の芸人に見立てたことで開発されたアプリケーションがこちら。

あたりまえ体操

蓮実:当時流行っていたCOWCOWさんによる『当たり前体操』というパフォーマンスをPepperにやらせたんです。初めてPepperが芸をした瞬間ですね。これがバカ受け。「人を笑顔にさせる」ということを軸にしていくことに手応えを感じました。

人をニコッとさせるキャラクター。スーパーマシーンではないけれど愛される。そんなキャラクターがPepperの軸として確立されてからは速かった。その価値を掘り下げ、お笑いのアプリを作ったり写真を撮ったり、伝言をするにもちょっとした笑いを入れるなど、様々なアイデアが生まれていった。

吉田:IT業界にいると、つい技術の組み合わせから何ができるかと発想しがちです。ロボットの一番の魅力は、人間が生き物だと思ってしまうところなんです。スマートフォンやPCとの違いはここですね。私たちはこれを忘れてしまっていた。もう一度、そこの着眼点に戻ろうとした後は、いろいろなアイデアが湧いてきました。

文化祭のような雰囲気に包まれたプロジェクトチーム

「まるで文化祭のようだった」――暗中模索の中で軸となる価値を見出したPepperのプロジェクトチームは、その過程における雰囲気をそう振り返る。

吉田:苦労はたくさんありましたが、プロジェクトチームに悲壮感はなかったですね。世界の誰もやったことがないことにチャレンジするプロジェクトなので、アイデアを思いついたもの勝ちでもあります。

やりたいようにできる部分も大きいので、メンバーはモチベーションが高く取り組んでましたね。開発部屋があって、そこで寝泊まりしたりしながら、文化祭のときのようなハイテンション状態でした。

蓮実:家庭用の等身大ロボットなんて、世界にはほぼ存在していません。ロボットアプリも本格的なものはまだありません。ひょっとすると歴史に名前が残るんじゃないか、なんてことも考えられるわけです。

このあとやってくるであろうロボットの歴史の1ページ目にいることは間違いありません。みんな関わりたいんですよね。

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ロボットに関わりたいと考える人は大勢いる一方で、ロボットは簡単に手に入るものではない。Pepperはロボットを使って何かやってみたいと考えている人たちに機会を提供するという意味でも画期的だった。

蓮実:Pepperはいじりまわすにはいいロボットなんです。素人でもそれなりに、プロならプロなりに使うことができる。中学生でも勉強すればそれなりに動かすことができます。

吉田:Pepperの今の状況は、ウェブが立ち上がったころと似てますよね。可能性が無限にあるような気持ちになって、寝る間も惜しんでウェブサイトを作っていたあの頃に。Pepperのパートナーも手弁当でプロジェクトに関わってくれていて、ビジョンに強く共感してくれているんだと思います。

ロボットにはキラーソリューションが必要

Pepperに関わったチームは世界に広がっている。その中でも、コントローラーのない自律型ロボットの開発に注力してきたフランスのアルデバランチームは、Pepperに生き物らしさを吹き込むことに貢献した。

蓮実:再起動した時の周囲を見渡す動きや、ちょっとした手の動き、スリープ中にも呼吸しているように少し動くなど、フランスのチームでなければ実装できなかったようなものが数多くあります。

Pepperは生き物らしさをただ模倣するばかりではない。たとえば、Pepperの声には人間のものを使っていない。

蓮実:Pepperの声は、サンプルボイスを使用しています。途中で、声優の声を使ったらちょっとイメージと違ったんですよね。論理的な話ではなく感覚的な話ですが、こうした小さな決定の集合が今のPepperにつながっています。

Pepperが発売された後も、技術の向上などにより、発音の質も上がっている。Pepperは成長を続けているのだ。Pepperを成長させるのはプロジェクトチームだけではなく、数多くのパートナーたちがそれぞれPepperの成長に一役買っている。

吉田:多数のパートナーと一緒にPepperは開発しました。販売した後は、色々な場面で使われているのをニュースで見て知ることもあります。育った子を見る親の心境ですよね。「色々な人と出会って成長しているんだなぁ」という(笑)

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Pepperの開発に携わる上で、重視していることは一体どのようなことになるのだろうか。

蓮実:大事なのは、人間を作るのではないということ。私たちが作るのは、人間を幸せにするもの、人間の感情に訴えるもの。プロジェクトチームには便利さや人間らしさではなく、人間に受け入れられるものを作ろうと言っています。

生命を作るということは機能では語れない。機械の凄さを全面に押し出す必要はないんです。

たとえば、ドジをしてしまって愛嬌を振りまくような動作。これは機能を重視したロボットには実装されない動きだろう。だが、人間はこうした動作にこそ生き物らしさを覚える。

2015年、一般発売を開始して大きな節目を迎えたPepper。見据えた先が30年後であるプロジェクトチームは「0.1合目にも達していない」と自分たちの状況を客観視する。

吉田:ロボットには、キラーソリューションが必要です。PCの時代を振り返ってみると、最初は熱狂的にハマりますが、一生懸命組み立てて「結局なにするんだっけ?」となった。PCはその後、年賀状の印刷やExcelを使うといったソリューションを見出すのに5年〜10年がかかりました。

ロボットも、今はみんな熱狂的になっていますが、それだけではいずれ冷めてしまいます。私たちはロボットで具体的になにをするのかというのを、デベロッパーやパートナーたちと数年かけて一緒に作っていきます。

Pepperが世界に広がるパートナーたちと共に、ロボットのキラーソリューションを生み出してくれることを楽しみに待ちたい。

(執筆:モリ ジュンヤ/撮影:橋本直己

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ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」は、職場での「成果を出すチームワーク」向上を目的に2008年から活動を開始し、 毎年「いいチーム(11/26)の日」に、その年に顕著な業績を残した優れたチームを表彰するアワード「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」を開催しています。 公式サイトでは「チーム」や「チームワーク」「リーダーシップ」に関する情報を発信しています。

本記事は、2015年10月29日の掲載記事「なぜPepperは愛されるのか? 試行錯誤2年、「お笑い」に可能性を見たプロジェクトチームの軌跡」」より転載しました。

(ベストチーム・オブ・ザ・イヤー )