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「ワークライフバランスなんて軟弱だ!」が「マスト定時帰り」に。なぜ日経DUAL編集部は変われたのか?

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「仕事がすごく好きで、ワークライフバランスなんて軟弱者の考えだと思っていました(笑)」

こう振り返って子育て前の仕事っぷりを話すのは羽生祥子さんだ。現在、夫婦のいる世帯の約6割を占める共働き世帯(厚生労働省調べ)。そんな世帯を対象に誕生した働くママ&パパ向けノウハウ情報サイト「日経DUAL」。羽生さんはそこで編集長を務めている。

日経DUALは「仕事も、子どもも、愛している」をキャッチコピーに、保育園選びから嫁姑関係、育児と仕事の両立など、働く世帯ならではの疑問に答え、応援するコンテンツを発信している。共働きという新たな読者を開拓し、日経BP社では前代未聞のスマホファーストメディアとして走るのがDUALの姿だ。

その面白さを象徴するのは、チームである。6名からなる編集部は全員がママやパパ。編集の仕事にはお約束の深夜におよぶ校了作業やタクシー帰りは一切せず、保育園の送り迎えがあるママ・パパはほぼ定時退社している。一人で動く孤独な記者のワークスタイルとは一線を画し、お互いを信頼して協力し合い、成果を上げるチームの姿がある。

日経DUALはどのようにしてワーカホリックを卒業し、子育てをしながらも以前より強いチーム力を発揮するようになったのか? これからの時代のチームワークを体現する同編集部にお話を伺った。

■数百件の新規事業案から選ばれた7年越しのアイディア。やっと時代がついてきた

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2012年、日経BP社の新規事業開発案数百件から選ばれ、新マーケットにおけるメディア創刊を果たした日経DUAL。羽生編集長が、自らの「働くママ」としてのニーズからDUALの構想を思いついたのは、初産を迎えた7年ほど前。当時は、働きながらママになることを説いた本が見当たらず、「出産=専業ママ」という家庭が多い現実を身をもって感じたという。

ここ数年で、やっと出産後に職場復帰する女性が増え、また「待機児童」といった言葉が新聞の一面に踊るように。

ーー今こそ、子育てと仕事にリアルに悩む人に向けて、タイムリーなノウハウの提供が必要。

着想時は時期尚早だったアイディアは日経DUALに形を変え、現在、ママとパパ、3人ずつの計6名の編集部がコンテンツを充実させている。あえて、編集部をママだけにすることはしていない。

「子育てという要素が入ると、ママのための、ママによるサイトになってしまいがちです。それでは、いつまで経っても女性が解決しなきゃいけない、女性だけの問題になってしまう。パートナーや同僚、上司の男性など、性別を越えて理解し合う必要を感じ、作り手である編集部も男女で構成しています」

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日経DUAL編集長 羽生祥子さん

■子どもとともに生まれた「マスト定時帰り」、だからこその「超集中力」

終電までに終わらせればいい。最悪、タクシーで帰ればいい......。

時間が許されることに安心して、遅くまでオフィスに残ってしまうことが誰しもある。一方の日経DUALは、編集部としては異例の定時退社を目指している。終わりを決めてというより、子どものお迎えや育児など、帰宅時間がおのずと決まっていることで、驚異的な集中力やスピードで仕事ができている。

「DUALに来て何かを変えたのではなく、子どもが生まれたことで働き方が変わりました。保育園に毎日送って、お迎えに行かなきゃいけない。限られた時間の中で、優先順位をつけて効率よく仕事する。編集部の他のメンバーを見ていても、人はここまで集中できるのかと驚くほどです」(小田さん)

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日経DUAL編集部 小田舞子さん

編集部には、産休明けでDUALに移動してきたメンバーもいた。まだ子どもが幼いため、時には15時に退社しなくてはいけないことも。そんな人材に対して、マネジメントや企業は中長期の視点を持つべきだと羽生さんは話す。

「そういう女性を、一時的にでも戦略外と認めることはバカらしいと思います。だって、その状態は期間限定なんですから。その少しの間だけで、優秀な人材を"働けない人"にしてしまうことはナンセンス。今では彼女も普通に働いていますし、その間の集中力と処理能力の高さはすごいです」(羽生さん)

DUALでは、取材・執筆以外でアウトソースできる仕事は、積極的にアウトソースを検討している。編集部の力をクリエイティブな仕事にできる限り投入するためだ。これまで例がなかったアウトソース活用になると当然社内説得が必要になることもあるが、周辺作業よりクリエイティブの比重が増えたことで新連載が増え、編集外の業務にかかる時間が半分に短縮されるなど効果を発揮している。

■重要な会議で「子どもに熱が......」。「すぐにいってらっしゃい!」と編集部一同

編集部が共有する社内スケジュールを見ると、そこには「お迎え当番」という言葉が並ぶ。羽生編集長が自ら、子どものお迎え当番の日程をメンバーと共有しているのだ。ほかのメンバーも、子どもにまつわる予定から、最近の子どもの様子に至るまでオープンに話す。何でも気兼ねなく話せる編集部の空気が、DUALのチーム力の強化につながっている。

「DUAL編集部の初めての編集会議で、子どもが熱を出して早退したことがありました。その時、編集部が"いってらっしゃい"と送り出してくれて。プライベートのことを話す機会があることで、協力し合える環境ができています」(荒井さん)

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日経DUAL編集部 荒井優さん

「ビジネス誌にいたころは、ここまで家の話をすることはありませんでした。DUALでは編集長自身がオープンなので、こんなこと話していいのかな? と緊張することがなく、何でも話せています」(小田さん)

仕事を離れるとメールを見たくなかった頃に比べて、今は編集部を離れても常に仕事と生活が共にあるのだという。事情があって早退した場合でも、自宅に帰って子どもの世話をした後仕事をするなどして、バランスをとっている。

「子どもが小学校に入れば、入学式やPTAなど昼間の行事も多くなります。それを全部禁止することは、親になった後の人生を禁止することです。早退するならするで、理由をオープンに話してもらったほうがこちらも納得できるし、ある意味リスクヘッジにもなります」(羽生さん)

■「思い損」知らずの編集部。子育てで学んだ「ありがとう」の本当の大切さ

年齢はさまざまだが、全員がママとパパのDUAL編集部では、子育ての具体的な情報を共有することに別の価値もある。例えば、子どもの症状を聞くことで、病気が長引くか検討がつき、代わりにピンチヒッターを立てるといった対処ができる。これも「話せる」環境があって成り立つチームワークだと言える。

「非常事態のルールはある程度決めておくべき」と話す羽生編集長。DUALでは、急な事情で仕事を変わってもらう必要がある時、ピンチヒッターを立てるのは本人の責任にしている。特定の誰かに仕事が集中してしまわないよう、交代については編集長に報告する。

「前の編集部では、私自身が間違ったやり方をしていました。子どもが発熱したので、どなたか変わってほしいと編集部の全員宛にメールを投げていたんです。でも仲良し倶楽部ではないので、誰からも反応がない。有志を募るのではなく、直接誰かにお願いをして、やってもらった分以上にお返しするというやり方を学びました」(羽生さん)

また羽生編集長は「よいと思ったことを伝えずじまいなのはもったいない」と言う。「ありがとう」「すごく良いね」。恥ずかしいやら立場やらで、せっかく思ったことを封印してしまうのは「思い損」。ほめられると嬉しいしもっと頑張ろうと思う。

こんな当たり前のことを子育てを通して再確認できたことで、いいと思ったことはすぐに伝えるようになった。そんな小さな心づかいで、メンバーが気持ちよく仕事に取り組める環境ができあがっている。

■形式ばった編集会議はいらない、日々の雑談で生まれたヒット企画

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編集会議の様子

DUAL編集部では、A4にまとめた企画書を提出する一般的な「編集会議」よりも、日々の雑談から企画が生まれることが多い。デイリー更新のメディアであるため、毎週60~90分集まって、コンテンツからプロモーションのアイディアまでを話し合う。また、日常のちょっとした雑談がそのまま企画になっていく。実生活がそのまま疑問になり、記事の種になっていくからだ。

「例えば、家で話した子どもをどこの塾に通わせるかといった会話が、そのまま企画提案につながります。プライベートと仕事が直結していることは希有ですね」(荒井さん)

そんな雑談や、何気ないやり取りから生まれたヒット企画をご紹介しよう。

羽生さん:連休明けってホントしんどいよね。食事づくり、みんなどうやって乗り切ってる?という話から
勇気ある大公開! DUAL編集部の手抜きレシピ

小田さん:みんなのウチ、おじいちゃんおばあちゃんにヘルプしてもらってる?...という雑談から
嫁姑関係2.0 祖父母への感謝とストレス赤裸々座談会

荒井さん:ワーママは「ママ会」があるからいいけど、パパって、子育てについて話す場所があまりない!という雑談から
いい歳の男子(パパ)達が、夜な夜な何を話すのか | 今宵も俺のBARにパパがやってきた

羽生さん:『ぐりとぐら』の作者の中川さんてホント天才! なんであんなに子ども目線で書けるの? どういう人が絵本作っているんだろう?という好奇心から
子どもはお母さんの全てが自慢 | 『ぐりとぐら』作者はワーママだった 中川李枝子さんインタビュー

小田さん:子育て社員が職場の不公平の元凶と思われてるのよ結局、という雑談から
子育て社員がいる職場の不公平 上司の解決法 | DUAL時代の職場を生き抜く

■赤ちゃんの絶対数を増やすのは難しいけど、出生率は上げられるはず

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創刊からわずか5ヶ月の日経DUALは、「毎日数百人ずつ会員が増えている勢い」(羽生さん)。一周年までに10万人の会員数を目指す。

「紙、PC、スマホ。場所が変わっても、コンテンツへの力の込め方は同じです。すごい量と質のものを掲載していると自負しています。購読料をどこから支払うのですか? と読者から問い合わせがあるほどで嬉しい限りです。スマホファーストのメディアとして先端を走りながら、同時に読者とのリアルな交流の場を持ったり、子育てを通して社会貢献したい企業とも連携したりするなど、"稼ぎ"と"勤め"の両方ができるメディアにしていきたいです」

そんな野心的なマイルストーンを抱く羽生編集長には、もう一つ日経DUALの使命だと感じていることがある。

ーー生まれる赤ちゃんの絶対数を増やすのは難しいとしても、出生率くらい上がってもいいのでは? ということだ。

「"少子化ニッポン"という言い方が定着していますが、それを前提にすることはその状況を放置しているのと同じこと。仕事も子育ても楽しいし、幸せです。私たちは、そんなママやパパを増やすために何ができるかを考えて行きたいです」(羽生さん)

「仕事も、子どもも、愛している」。そんなパパやママで結成される日経DUAL編集部に、これからのチーム力のあり方を垣間みることができた気がする。

取材・文:三橋ゆか里 /撮影:橋本直己/編集:藤村能光

この記事は、2014年6月12日のベストチーム・オブ・ザ・イヤー「『ワークライフバランスなんて軟弱だ!』が『マスト定時帰り』に。なぜ日経DUAL編集部は変われたのか?」から転載しました

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