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ワインビストロ店主が足しげく通う、築地の「オンリーワン」なお店とは?

2015年07月18日 01時56分 JST | 更新 2016年07月14日 18時12分 JST


すてきなお店の店主はすてきなお店を知っている?

平野紗季子(以下、平野) あの、実は今日、紺野さんのTwitterを見て、ツイートをまとめてきたんですよ。

紺野真(以下、紺野)  えっ(笑)。

平野 紺野さん、すごくお忙しいのに、いろいろなお店に行ってその感想をつぶやいたりしてるじゃないですか。私、それをいつもすてきだなと思って見ていて。ウグイスやオルガンの話を直接うかがうのもいいんですけど、いい店を作っている紺野さんがいいと思っているお店の話を聞けたら楽しいかなと考えて、最近のツイートをざっとまとめてきました。


紺野真(こんの まこと)
1969年東京生まれ。都立戸山高校卒業後、アメリカはLAに移住。10年間のアメリカ生活を経て、97年カフェ開業を夢見て帰国。裏原宿の「カフェ・ヴァジー」で働き始める。99年「ビストロ・オー・ランデ・ヴー」の立ち上げに参加、フレンチとワインの世界へ足を踏み入れる。5年間の勤務の後、2005年5月に三軒茶屋の住宅街にカフェとビストロ、ワインバーを融合させたような、当時としては特異な営業形態の店「uguisu」をオープン。たくさんの種類の自然派ワインがグラスで飲めるということもあり、大人気の店となる。11年5月に西荻窪にビストロ「organ」をオープン。共著に『ウグイス アヒルのビオ・トーク ヴァン・ナチュールを求めて』(マガジンハウス)がある。

平野紗季子(ひらの さきこ)
1991年福岡県生まれ。2014年3月慶應義塾大学法学部卒業。小学生から食日記を付け続ける生粋のごはん狂(pure foodie)。日常の食にまつわる発見と感動を綴る「.fatale」でのブログが話題となり、現在「an・an」「SPRING」で連載中。他に「BRUTUS」「ELLE a table」など雑誌・ウェブマガジンで幅広く執筆。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。

紺野 「ジャズ・ケイリン」とか、本当に昨日行ったばかりですよ(笑)。

平野 ツイートしているのは、ザ・話題店とかではまったくないですよね? このツイートの「喫茶店ポエム」とか、すごく気になりました。

紺野 下高井戸の「コーヒーハウスぽえむ」さんですね。チェーン店なんだけどチェーン店っぽくない、個人経営店みたいな雰囲気があって、日常的に使うにはすごくいいんです。なんか、いい空気が流れてるんですよ。で、つぶやいたら、周りにもぽえむファンがけっこういて驚きました。

平野 へえ〜。なんか、そういう何でもないし、雑誌で大々的に取り上げられるような話題性はないけれど惹かれるお店の、よさってなんなんですかね?

紺野 何ですかね。僕の中では、いいお店って、「オンリーワン」であるお店だなと思っています。

平野 わー! ここにしかない店!

紺野 他の店と違う、そのお店じゃないとだめなところがあるってことですね。で、それが一番出しやすいのって、たぶん「人間」だと思うんですよね。人の模倣はまったく同じにはできないですから。結局のところお店の個性を一番左右するのは人間。料理がたいしておいしくなくてもその店主に会いに行ってしまう、っていうお店は、たくさんあるし、それはお店としてはやっぱりすごいことなんですよ。

築地の頑固オヤジたちを骨抜きにする「やじ満」のサービス

平野 そっか、「替えがきかない」ってすごいことですね。

紺野 それでいうと、ここで挙げてもらったなかに、僕が特にすごいと思っているお店がありますよ。もしかしたら一番行っているかもしれない。この「やじ満」さん。

平野 へえ、築地のお店ですね。

紺野 飲食業やサービス業をたしなまれている方にはぜひ行ってほしいと思うお店です。僕も、店のスタッフになった子は、まずやじ満に連れて行きますね。

平野 ほんとですか? やじ満さんはどういうところがすごいんですか。

紺野 やじ満は、席数10席くらいの中華料理屋で、サービスのお姉さんがひとりの小さなお店なんですが、まず、築地のなかですごく料理がおいしいというわけではないんです。だけど、めちゃくちゃ混んでるんですよ。しかも、他の築地の場内のお店と違って観光客が入っているのではなく、来ているのは、場内で働いている人たちばっかりなんです。
それで、築地で働いている人たちって、頑固オヤジが多いじゃないですか。普通にオーダーすればいいのに、みんな、ちょっとずつ特別オーダーをしたがって、「ニラそば量少なめ麺柔らかめで塩味薄め」とか注文するわけです。

平野 ニラそばひとつに注文が多いな〜(笑)。

紺野 でも、そのお姉さんが常連さんたちの好みを全部暗記していて、常連さんが席に座ると、彼らが自分のオーダーを言う前に、「はい、ニラそばホワイト薄味で量少なめでお願いしまーす!」ってキッチンにオーダー通してくれるんですよ。

平野 えー、すごい! 暗記してるってことですよね。

紺野 そうそう。しかも、すごく元気でハキハキしてて、声も通るんだけどちゃんと柔らかい、優しい感じなんですよ。なんとなく、僕が勝手に想像しているのは、きっと、築地のおじさんたちはあのお姉さんに自分の好みを覚えてもらうために通っているんじゃないかなあと思います。

平野 やじ満のお姉さんに認められることが築地道の第一歩、って感じなんですね。

紺野 最近、僕もやっと顔を覚えてもらって。

平野 え、すごいじゃないですか!

紺野 めっちゃうれしいです。この間も、朝まで飲んだ明けだったので、胃がもたれていて、何か軽く食べられるお店を......と思って、別のお店に行くつもりでやじ満の前を通ったんですけど、めっちゃ混んでいる店の中から「おはようございまーす!」って呼び止められて。もう、食べたくないのに入りました(笑)。

平野 まさにオンリーワンですね。築地って、本当にいいお店がいっぱいありますよね。私、紺野さんもツイートしていた、喫茶店の「愛養」さんとかも好きで。

紺野 いいですよね。カップにね、「AIYO」ってローマ字で書いてあるのがすごく風情があって。

平野 かわいいですよね! 私も一度築地を案内してもらったときに、看板の「愛養」のたたずまいにすごく惹かれて、写真だけ撮って帰って、それからずっと気になってて、やっと行ったんですよ。そうしたら、すばらしくて。あまりに素晴らしくて......でもやっぱり、私が愛しても傍観者でしかないんですよね、築地の人たちから見れば。
おじさんたちのコミュニケーションの間に、ただもう私はいるだけって感じ。できるだけ身を小さくしよう、できるだけこの風景を壊さずにいよう......みたいな。それだけで精一杯で、私が心の底から「愛養は最高」って言ったって、本当の最高は絶対に言えないよな、っていう。

紺野 その感覚、わかりますよ。ぼくもまったく一緒ですよ。

平野 え! 紺野さんでもそんなふうに!?(笑)

紺野 いや僕だって、何度行っているお店であっても、そんな感じになります。やっぱりこう、何十年と同じことが毎日続けられているお店って、その何十年の歴史のなかにお店の雰囲気を作っているいろいろなものがあるじゃないですか。そこにぽっと行ってみてもだめだし、それこそぽっと同じようなことをやろうとしても、全然同じにならないし。修行ですね。

人気カフェの店主があえて「段差」を作る理由

平野 ツイートを読んでて思ったんですが、お店の名前にはいつも「さん」をつけてツイートされてますよね。

紺野 そうなんです。140字におさめるために、わざわざ他の文字を削ったりします(笑)。意識して始めたわけじゃなかったけど、お店をやっている人の顔とかが浮かぶから、尊敬の念を込めているのかもしれません。

平野 あ、でも「バワリー・キッチン」さんはついてなかったんですよ。どうしてですか?

紺野 バワリーはね、僕にとってキリストのような存在です。なんか、あまりにも尊敬していて、偉人みたいなものだから、逆に敬称をつけない(笑)。「キリストさん」って変でしょ。

平野 なるほど(笑)。

紺野 アメリカから帰ってきて、いつかカフェを開きたいと思いながら、カフェでバイトを始めたんです。僕はずっとカフェが好きなんですよ。そのときにバワリーに出会ったわけだけど、今でも行くし、いろいろな人に愛されてる。カフェブームのパイオニアですよね。平野さんもカフェでバイトしていたんですよね?

平野 はい。表参道の「ロータス」で。

紺野 ロータスもすごいよね。あそこを出て有名になった人たちがいっぱいいますよ。そういえば、宇一さんの作るお店って、かならず段差があるんだよね。

平野 そうそう、そうなんですよ。あれ、働いている側にとってはけっこう大変で。移動するたびに「ストン」ってひっかかっちゃうし、めちゃ疲れるんですよね。

紺野 でも、あえて作ってるんだよね。同じようなことを、福島直樹さんが言ってたことがあって。福島さんって、「オー・バカナル」とか、「オー・ギャマン・ド・トキオ」とか、すごいお店を数々手がけている神レベルの人なんですけど、オー・バカナルを作ったときに、わざと導線を悪くしたそうです。

平野 えー、宇一さんと同じですね。

紺野 わざと通りにくい場所を作ると、店員がそこを通るときに「すみません、ちょっといいですか」というような声かけが発生するじゃないですか。それがかえって活気を起こすって話だったと思う。お店って、ただすっきり働きやすくするだけじゃだめなんだよね。彼らのような天才は、そういうことを感覚的にわかっている。

平野 うわー、かっこいい。宇一さんが段差を作ってたのもそういうことですかね。階段も変なところについているし。あれ、ちょっとパンチラしそうになるんですよ。本当にパンチラのために作ったんじゃないかと思って、宇一さんに聞いちゃいましたもん(笑)。「設計者の趣味」って答えでしたけど。

紺野 いや、でもね、ちょっと段差や階段をつけるだけで、座席ごとに見える風景が変わるじゃないですか。場所ごとに違う景色が生まれるから、何度も行きたくなったりするんですよ。宇一さんの意図もそこにあるんじゃないかな。すばらしいですね。

平野 そうだったのか。

紺野 やっぱりね、すごいカフェってすごいですよ。カフェで働いている人って、どこかで壁にぶちあたって、別の道に入る人も多いと思うんです。僕もそうしてフレンチの世界に飛び込んだんですが、本気でカフェ道をつらぬいている人には頭が下がります。今ウグイスやオルガンをやっているなかでも、カフェ時代に学んだ店作りのことは大切にしていますね。

※この対談は、4月25日に青山ブックセンター 本店にて開催された、トークイベント「人気ワインビストロ店主と生粋のごはん狂の『おいしさへの探求心』」の内容を 編集・構成したものです。(撮影:tama)

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